五十三話――いきなり刺します
「コニス~やほー」
「ああ、クーか。やほー、ってわあぁ……。す、すっごい美人がいるけどなになに? ザラの彼女? いや、でもちょっと釣りあいが取れてないような気がってか力持ち!?」
ぐさぐさっ。ザラの心臓に短剣が突き刺さる。二本。釣りあい取れていないってのとシオンの怪力にびっくりしているのがキた臭い。……うん、ご愁傷様だぜ、ザラ。
もはや誰もザラを憐れまないのも可哀想。
ヒュリアはシオンから戦国島の話を聞けてお花畑にてうふふあはは状態。クィースは苦笑しつつも慰めは追い討ちだと思ってしない。シオンは、といえばコニス、とクィースに呼ばれた女の子を一瞥し、一言。
「頬と腕をどうした?」
「えっ!? あ、えと、なんのこ」
「……つついてみてやろうか?」
「嘘ですごめんなさい。なんでもあります」
シオンの無慈悲な脅しに一瞬以下で屈したコニスは驚いた~、という顔でいる。そこまでくるとザラにもわかる。コニスの腕と頬。ほとんど見事に散らしてあったが痣の痕があった。なので、ザラも当然顔見知りの怪我について質問する。首を傾げつつ。
「どこでんな怪我した? クィースじゃあるまいし転んだとかじゃねえだろ、コニス?」
「……掲示板」
「は?」
「寮の掲示板確認しておいた方がいいよ、三人共。そしたらわかるさ、あたたた……まったく、まだ痛いってどんだけだっつーの。休みで拍車かかってんじゃね、あの野郎」
「なっ、おい、まさか」
「そのまさか。あーあ、僕の貴重な休日が」
休日が潰れる、潰れた、と言いたかったのだろうが、先はシオンの動きで遮られた。
女の指先に宿る闇。黒い靄のようなものを纏った指先でシオンはコニスの頬と腕の一部を軽くなぞる。コニスがはて? と思っていると、不意にあることに気づいた。
「あ、あれ? 痛く、ない?」
「痛み止めの呪だ。己もこれらと同じ学徒なれば課題? というのがあるのであろ? それをするのに痛みが邪魔をしないように、な。痣の痕はそのままで大丈夫だろう」
つまりシオンが以上に呪をかけなくても痣痕は見事に散らしてある、ということ。
それでもコニスは衝撃が抜けない。
「え、あでもこれ、シェトゥマ先生のと比べものにならないくらいすごく効いて……?」
「いろいろと刺激的な場所にいたのでな。それは
「あ、はあ……? はっ、あ、あの、えと、ありがとうございます。その、僕、これ」
「? ああ、私はこれなる者だ」
一瞬ポケットを探りだしたコニスにはてなだったシオンだがコニスが取りだしたものを見て納得し、自分も真新しい身分証明の手帳をだす。手帳の交換で自己紹介するのにもう慣れた模様。ってか、元々面倒臭がりなので、とっとと順応できた、だろうが。
相手の名はコニス・ディオッティ。所属はクィースたちと同じ高等科の二学年。ヒュリアと部屋番号が一緒なので相部屋なのだろう。そういえばあの部屋、どう見ても複数人で使用する様式になっていたが、どうしてクィースには相部屋相手がいない?
「ウザいせいか?」
「いきなりなに!?」
本当に。いきなり暴言すぎる。おそらく「己が相部屋していないのは、己の世話が焼けてウザいせいか?」と、これだけでもかなりひどめのことを言おうとしていたと思われるが、言葉が本当にうっかり抜けてしまい、さらにひどめな言葉になった様子。
なので、シオンはうっかりを訂正。
「己が相部屋していないのは手間がかかってならないそのドジがウザすぎる為か?」
「はぅ……っ」
「……。シオン、お前、常にひでえな」
「イミフ」
「意味不明はお前だっつーの。常にひとの心臓刺し腐って……。それともわざとか?」
「?」
「ザラ、無駄よ。多分天然で素だわ」
ヒュリアさん大正解。本当にシオンの悪意なさには参る。主にまわりが。シオンにはボケているつもりは元より他人様の心臓を無自覚で刺している気もないのだから。
困りものだ。もういっそのこと疑ってしまうくらい。「実はわざと?」……と。
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