五十二話――帰宅


「ぅおのれ、ヒュリアめ、自分が持たないからって重たいものばっか使う料理をシオンに頼みやがって。いくら俺が鍛えていても、はあ、ぜえ、これはちょっときつい」


「あ、あはは……そうだね。あのコメって主食だけでも大袋三十キロはあるらしいしね」


 ナシェンウィル中央国首都フィフラーバルの外れ。ナシェンウィル中央国内最難関の学校、ナシェンウィル中央国立小中高等学校が保有する学生寮への帰路。今日が夏日であったのもあり門限が十九時の為今の二十分前は道が住む学生で混雑する。


 いわゆる帰宅ラッシュだ。そんな中でぼやく声と苦笑がひとつずつ。ひとり、青年が大荷物を抱えて、というか抱えさせられている。青年――ザラがヒュリア、友人に恨み言を吐くのを横でクィースが聞いてやっている。ザラは背と両肩に荷物を担いでいる。


 それもそれぞれ三十キロ以上のものばかりだ。総重量百キロはあろう荷物に文句がでるのはある意味普通。ていうか当たり前だ。が、それでもザラひとりで持つ、と言った手前いまさら助けてくれとは言いにくいときている。最初は約一名分担を申し出てくれた。


 だが、それが、そのひとが女性、それも歳下の少女だったのでザラは遠慮するしかないというよりなかった。だってそう、仕方がなかったというのもあるのだ。


 自分よりも歳幼い少女に持たせるのはちょっとどうかと思う。男として。そんな意味わからん、少女――シオンからしたらイミフな矜持で現状にいたる。幼い、といってもふたつぽっちなのだから、と言うシオンだが、ここは譲ってはいけない場面だ、と思えた。


 だってそんなことしようものなら余裕でヒュリアが「ザラはいつの間にか軟弱になったのね~、女に荷物持たせようなんてなっさけな~い♪」とか言いそうだったからだ。


 だが、だからといってこれは、この買い物はちょっと異常だ。そもそも主食だけで三十キロとか冗句だ、と思った。普段、パンやパスタのような比較的軽いパッケージのものを食べているので。なのに、買い物中、シオンはその米を片手で軽々持っていた。


 こいつはこいつで存在が冗句だ、とザラが思ったのは内緒。じゃないと絶対に女の子たち、シオンを除いたふたりに責められる。わかるけどね? だってシオンは黙っていれば誰もが振り返る絶世の美女。先から同級生や下級生、数少ない上級生の視線が熱い。


 シオンは視線を鬱陶しそうにしている。だがしかし、それ以上、隣にいる女の質問攻めを鬱陶しく思っているのが瞳にでている。「ウゼぇ」表明している、のだが、ヒュリアはまるで堪えたようになく、シオンにずいずい迫っている。ある意味天晴でござる。


「四季はあったのよね?」


「春夏秋冬。普通にあった筈だが、私は半年かもう少ししかいなかったので知りえぬ」


「すごいわ。どうして学校ってそういう素朴なことにも触れてくれないのかしら?」


「知るか。教育現場に訊け」


「でね、今日はなにをお夕飯にしてくれるの? なんだか土がついているもの結構買ったけど……変な闇鍋じゃないわよね? いやよ? 泥臭い闇鍋なんて絶対」


 泥臭くなかったらいいのか? なんて疑問がシオンの素直な瞳に浮かんでいるが、このクソ暑いのにどうして鍋をするという選択肢がでてくるのかその方がよほどイミフ。


 とかなんとか、やっているうちに寮に到着した。ヒュリアが戸を開けてシオンが続くのにザラを待つ。ザラはぜーぜー言いつつ玄関をくぐり、ホールへのくだり階段はさすがに危ないから、とシオンが荷をふたつ預かった。青年の両肩が一気に軽くなる。


 なのに、シオンはまるで空気を持っているかのように荷を片手で、しかも指に引っかけて運んでいく。ザラの頭上に暗いどよんが浮かんだのを見てクィースは慰めに彼の軽くなった肩をぽんぽん叩いておく。落ち込んだままのザラを引っ張ってクィースは前を追う。


 すると、玄関ホールでヒュリアが誰かと話しているのを発見。シオンは少し距離を置いて傍観姿勢でいる。追いついて見てみるとクィースも知った顔だったのか声をあげる。


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