三十一話――……ち、珍事?


「これは男だ」


「? うん、知って……ぁ」


「ひとの体を見て不公平だのなんだのと騒ぐより自分研きをしろ。ミニぷよ子豚」


「はぅ……っ」


 ひどい。ひどいがまあ、たしかに普通の生活ではシオンのような肉体美には到底なれない筈。アレほどの化け物をお茶の子さいさいで片づけるのだ。相当の実力があり、厳しく追い込んで鍛練していただろう。でなければあの島国で生きていられるわけもない。


 なんて、神妙に考えていると間抜けた音が聞こえてきた。ザラの腹からだ。またまた蟲が大合唱を奏でた臭い。ザラはあんな惨事に遭ったのに普通に腹が減る自分恥ずかし、など思ったがシオンはしばらく考えてひとつ提案した。と、いうか気を遣ってくれた。


「珍事もあったことだ。昼にしよう」


「……。あの、惨事の間違いでは?」


「アレのどこが、いや人死にがでたからか」


「いえ、あの、もういいです」


 クィースのもういいです、にシオンははてな、と首を傾げているが、おかしい。なぜにアレが珍事になってしまうのだ。充分以上に大惨事だ。しかし、言っても伝わらないのは目に見えている。むしろ、言う方が無駄時間で、納得させるのなど重労働だ。


 一方のシオンは久しぶりの昼飯、である。戦国では昼餉というのがなかったし、前の世界での昼時は貴重な睡眠時間だったので抜いても全然平気だった。抜いても大丈夫なように栄養バランスには細心の注意を払っていたので体を壊すこともなかった。


 それに元々小食気味なので、別に数日飯を抜くくらいは屁でもない。あのでずっとそうだったように。何日もご飯がもらえないことなどごくごく普通だった。


「シオン、なにか食べたいものある?」


「こだわりはない。強いて言うなら名物のひとつ食べてみたい、というくらいのもので」


「えっと、もしかして戦国でも?」


「そうだな。山菜の料理は新鮮だった」


「サンサイ?」


「山や森に自生している野草の一種だ。独特の苦みが癖になる味で一応ご馳走だった」


 まあ、シオンは腐ってさえいなければだいたいのものは食べられる。どうしても腐っているものはあのでの食事を彷彿とさせてしまう。だから黴生え食材以外はいける。と、思っているのであとは三人の選択に任せるつもりで、シオンは瞑目しかかった。


「じゃ、ここはやっぱポポナ食堂にいこ」


 瞑目する前にクィースが元気に提案していた。どこだか知らないが食堂にいこう、と言い今からでてくる食事にわくわくしているのか、顔がだらしないことになっている。


 が、当人無自覚っぽいので指摘しないでいてやろう、と思い、目的地が決まったので案内を目で頼んだシオンに了解仕ったクィースがてこてこ自動階段エスカレーターまで歩いていきかけて、途中で転んだ。すごく見事な大転倒だった。ドジ、極まれり。


 シオンはいつも通りだった。ひどい認識であると自覚せずに認識する。……惨い。


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