三十話――お買い物と……おっぱい


「何事かあったのか?」


「……。あの、多分どころか絶対先の騒ぎを受けてみんなこうなっているのだと思うわ」


 こう、とはというと百貨店内の客や受付嬢、店員が揃って団子になっていること。シオンは心底不思議そうだったが、どうやら市街地に〈魔の物〉というのはかなりの事件らしきことは察してくれた。身を寄せあい、騎士隊の安全宣言を待っているのだろう。


 と、なれば店内はほぼ貸し切り状態。館内アナウンスも自粛しているのか静かなのである意味ラッキー、とか思っているシオンに、彼女の素直な瞳に三人は微妙な顔。


 シオンは館内の見取り図に一瞬だけ目をやってさっさと歩きだす。あの一瞬で百貨店内の配置や入っている店の位置を覚えた臭い。ある種、驚嘆に値する記憶力だ。


 彼女は本当にさくさく歩いていき、自動階段エスカレーターに近づく。と、動きだしたので一段に乗って上階を目指す。まずは肌着を買うのに二階を目指す。そのあとはちょっといやだが三階の婦人下着売り場で買い物をしておかねば困るのでそこにも寄る予定。


 あとは現金を封筒で持ち歩くのはなんなので財布を買って、それと八階にある薬局で洗髪剤シャンプーなども買っておこう。などなど計画していると三人が追ってきた。


「ねえ、シオン、あた」


「己の買い物には付き合わぬ」


「切り捨て早っ!?」


「女の買い物が長いのはハイザークソじじいの愛人で充分経験済みだ。よって却下」


「誰、それ?」


 シオンが何気なく吐いた名前にクィースたちはきょとん。誰だよ、それ。という空気にシオンは適当に答える。ホント適当に。だが、自己保身の為でもある。へたなこと言うとアレは豚箱いきをすぐ提案してきやがるクソなので。マジ滅べばいい、あのじじい。


「不本意ながら得意先だったじじいだ。様々な無理難題を言って私がげっそりするのを見るのがなによりの楽しみだと面と向かって言ってきやがった根性原子崩壊クソじじい」


「そ、れはすごいね。ひとのげっそりがなにより楽しみなのもだけど、面と向かって言ってくるってすごく芳しい性格というかなんというか……えぇーと、お疲れ様?」


 クィースのお疲れ様? にシオンは無言で頷いてきたので一見最強に見える彼女にも弱みというか苦手なことはあるらしい。新発見。などと友人三人が思っている間にシオンはさっさと肌着を三着と部屋着を選び、無人会計所で会計して次の買い物場所へと向かう。


 先に五階と八階で買い物し、三階におり、女性用の下着売り場へ女の子たちも一緒に入っていく。シオンはついてくんな、だが女の子たちが粘るので諦めて同行を許した。三十分後、帰ってきたシオンはげっそり。女の子たちは不満そう。なんだ、いったい?


「おい、な」


「シオン、どうして着てみてくれなかったの? 絶対似合っていたのに。可愛いのに~」


何故なにゆえ私があのようなふりふりを着ねばならぬかわからんわ、阿呆」


「なぜ、シオン? あの黒いブラとってもセクシーだったじゃない。なのに地味なのばかり選んで……その前の桃色のも試着してみてくれればよかったのに。いいえ、それ以前に胸と腰とお尻の比率が黄金的すぎて羨ましい。もういっそ世界遺産並みに美麗すぎる」


「あの、シオンの体と下着の話は勘弁してくれませんか? 俺聞いてちゃまずいだろっ」


 ザラの必死な訴え。聞いていちゃまずい。そう、シオンが気づいたら撲殺されるかも。


 下着談義ならどこか自分が、男がいない別の機会にまわしてくれ。あとが怖いから。などと思っているとクィースがなにも聞いていなかったのか、ザラに話を振ってきた。


「ザラ、シオンってば腰は細いクセに、お尻もそんなに大きくないのに胸はすごく大きいんだよ! Gだって! なんなのこれ、神様ってホント不公平だと思わない!?」


「ごふぶふっ」


 たしかにヒュリアの言う通りシオンの体は非常にいい線、というか服の上からでも最高級だとわかるくらい美麗だが、と妄想しかかっていたところにクィースが具体的な数字というか値を教えてくれやがったので思わず赤面して噴きだしてしまった。


 ザラが噎せているとシオンがクィースの脳天にチョップを喰らわせているのが見えた。


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