二十九話――日用品を買いに


「もういってもよいか?」


「ああ。後日、正式に表彰し、褒賞を」


「不要」


「だが、移民ならば金銭はいくらあっても」


「堅苦しそうだ。だから、要らぬ。町の復興にでも使うように手配してくれればいい」


 なんともあっさり、シオンはご褒美要らね、して町の復興資金の足しにしてくれ。などと格好いいことを言っている。なんというか潔すぎるというか、清い娘さんだ。


 メナニスはさらに不思議な眼差しでシオンを見たが、やがて唇に笑みを浮かべ、いってもいい、用事をしてきていい。と手をひらりと振って早速踵を返し、女の子たちに案内を頼むシオンの背を見送るように眺めた。


 ザラは少しどうしたものか、と迷ったようだったが、メナニスに手を振られたので一礼してその場をあとにし、友人たちとシオンを追いかけた。メナニスはシオンの背が見えなくなるまで彼女を見つめていた。だが、シオンは視線に振り返ることなど一切なかった。


 町、〈魔の物〉が現われた町の中をシオンがヒュリアたちに案内されて進む。進む、のだが先から視線が熱くてならない。中には跪いて頭を深々さげている老人もいるのでシオンは居心地悪い気持ちでいっぱいだ。いったいなんなんだ、この熱視線の放射は。


「みんな、シオンに感謝しているってことよ。それとあとはそうね、ノビリエンス様にそっくりだからみんな、そのひとが帰ってきてくれたと思ってありがたがっているの」


「だから、誰か、それは」


「あたしたちも詳しくは知らないんだけどさっき言った通り大陸、シルギル大陸でも数百年にひとり現れるかどうかの超すごい戦士で英雄でね、今の、評判落ち前の王族騎士隊の元副司令官様だったんだって。騎士隊の隊舎にいけば写真が置いてあるらしいよ」


「興味ない」


「うん。だろうね」


 シオンが基本的に他人に無関心なのをもう熟知しつつあるクィースの苦笑混じりの言葉にシオンははてな。首を傾げるが、以上にはつつかず、ひたすら熱視線に耐えた。


 遅れてきたザラも合流し、一行はウィルウィル百貨店へと向かう。やがて見えてきた大きな建物の手押し扉を開けて中に入った一行をひんやりした空気が包み込んだ。


「快適な筈なのにちょっと寒い、かな?」


「私は先のバスナ区役所の室温のがいい」


「ああ、えっとそういうのじゃなくて、ね。その、さ。さっきのでもしかしたら被害者名簿一覧に載っちゃうところだった、と思うとどうしてもさ。こう、じわじわ寒気が」


 じわじわ寒気が……。と言うクィースにシオンはひとつ考えるように顎に手を当てたが自分が興味を持っただろうことを質問してみる。それはいつかと同じ問い。


「あのようなことはしょっちゅうか?」


「え? ううん、まさか。フィフラーバルでは滅多ないよ。そりゃあ、余所のもっと田舎の方の地区だといまだに〈魔の物〉の被害は多いらしいけど。あんなこと、ないよ」


 言ってクィースはぶるっ、と身震いしていまだに青い顔をしている。なので、本当に稀少レアな現象だったのだろう。シオンは以上には訊かない。クィースが本当に真っ青だったからだ。よほど怖かったらしいが、シオンからしたら怪物といえ所詮は獣、である。


 ちょっとおつむがいい、そして凶悪な装備を持っているだけの猿如き一捻りにできる。


 とまあ、そんな頼りになるのか、お前こそ怪物か? というようなことを考えていたシオンは百貨店内に興味を移しかけたがふと首を傾げる。店内の様子に、イミフがぷく。


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