二十七話――言い訳無用


「クルブルト」


「トックロード隊長、その実はあの」


「いや、ここに来る途中で散々罵声を浴びて知っている。勇敢なお嬢さんが活躍して自分たちの命を守ってくれたのに、と役立たず、と……事実ながら耳が痛い」


「ぁ、えと、でも来てくださいましたし」


「それでもお前以前に他の区民から通報があったのにのろのろしていたせいで犠牲者を多くだしてしまった。こんなことでは騎士失格だ。……。失望させたな、クルブルト」


 深く息を吐いてザラに謝罪の意をこめて頭をさげた男。鋭い眼光が特徴的だがどこぞの東国にいる鷹の方が数倍鋭い眼光を持っている。なのでか、あまり脅威に思えないシオンはまだ心配そうな女の子たちのおろおろに手を振りしっしっ、として問題なしを表明。


 すると、今度はとんでもない化け物を見るかのような目で見られた不思議。落差が激しいぞ。なんでだ? とシオンが思っているとザラが、彼がトックロード隊長と呼んだ男に報告をあげていくのが聞こえてきた。シオンがいなければ漏れなく死んでいた、とも。


 トックロードだとかは頷き、シオンに体ごと顔を向けた。が、シオンは微動もせず。


「私は王族騎士隊第一部隊隊長メナニス・トックロード。君の名を教えてもらえるか?」


「自己紹介は」


「原則禁止だが、明確な地位、立場の者には緩和される。……知らないのかね?」


「知るか」


 いやいやおいおいおい。とザラは内心で焦る。知らないとか堂々と言うな、と思ってしまって。だが、シオンの口を塞ごうにも距離がある以上にそんな真似しようものならなにが起こるかわかったものじゃない。叩かれるだけで済めば結構だが、殴られたら……。


 あの〈黒巨凶猿グオデモデサイド〉を残らず始末した剛槍の使い手。殴る力も半端ではないだろう。んなもんに殴られたら最悪死ぬ。しかし、どこにあんな大物の得物を?


 謎だ。などとザラが思っているとシオンは適当に身分証明の手帳をメナニスに放って返答に代えた。この時、確実に場の空気が緊張を帯びたが、シオンはどうでもよさそうにしている。そのことにも驚きが広がったが、メナニスが手を軽くあげて黙らせた。


 彼はシオンが放って寄越した黒い手帳をしばし見つめ、開く。彼の目は手帳の中をさっと眺めるに終わり、シオンへ丁寧に手帳を返してきた。そして、シオンにも頭をさげる。謝罪と感謝の意思表明に。だが、シオンは本当にどうでもよさそうにひとつまばたき。


 メナニスはどこか懐かしむようにシオンを見ていたがまた、今度はさらに深々と頭をさげてきた。イミフ。そうシオンが思っているとメナニスは怒濤の如く喋りだした。


「〈黒巨凶猿グオデモデサイド〉が群れで現れたと報告にあがっている。バスナ地区で行っていた地下鉱脈開発作業中に誤って〈魔の物〉の棲み処に踏み入ってしまったそうだ。作業員は残らず死亡。市街地に溢れたものが虐殺を行う結果となった。すぐにでも出動すべき事態」


「だからなにか」


「出動しようにも我々が動くには、特に〈魔の物〉狩りとなれば精鋭が動かねばならずそれには王の許可が要る。だが、説得に時間がかかりすぎてしまい、このありさまだ」


「それで、私に言い訳して楽しいか?」


「っ、いや、君がいなければ事態は収束などありえなかった。君の友人たちも恐ろしい目に遭わせてしまったこと、ここに詫びさせてくれ。それと感謝を。ありがとう」


「友人? そのようなものいぬ」


「? しかし、クルブルトが君は新しい」


「……ああ、まだ慣れぬな」


 メナニスの向こう。ザラとクィースが慌てた様子で頷きまくっているので、そういう……。まだ密入国の疑いが欠片ほど残っているので新しい友人ということにしておけ、ということらしい。シオンは面倒臭そうだが、まだ関係に慣れない、と言って躱した。


 メナニスはよくわからない、という顔をしていたが、次には下からシオンを見上げ、なにかシオンにとってのイミフを呟いた。


「ノ、ノビリエンス、様?」


「え? トックロード隊長、え、えっ!?」


 そして、驚きが感染。ザラが声をあげてから他の騎士隊の隊士たちが信じられない、とシオンを見て、次々地面に跪きそうなほど身を屈めていくのが見え、さらにイミフ。


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