二十五話――第三大通りの異常事態
「じゃ、次はウィルウィル百貨店だね」
「は?」
「いや、は? って言われても……。下着とか肌着とかないと困るでしょ、シオン。それに
「もう、十二分に疲れたのだが」
「あはは……、やっぱりダメかぁ」
「普通ダメであろう。アレは突然変異か?」
「すっげぇ失礼だな。ある意味当然だがよ」
ザラの言葉にシオンはいやな気分。失礼ってことはアレはゼレツの趣味による刺青と染髪ということになる。つまりもしかしなくてもアレは突然変異とか仕方ないものではないとなると……端末、大事に使おう、と誓うしかなくなる。金もそんなにないし。
シオンが端末を上着のポケットに入れて大事に押さえたのを見た三人は笑う。笑いつつ次なる目的地、ウィルウィル百貨店だとかに向かって歩きはじめたのでシオンも倣う。
そうして四人は元の大通りに戻ったのだが、一歩、大通りに足を踏み入れた途端、シオンが三人を制止し、前にでた。三人は何事? という顔だが、シオンの瞳は鋭い光を湛えている。まるで抜き身の刀のようであり、眼光鋭さは猛獣かそれに等しいなにかのよう。
「どうしたの?」
「悲鳴が聞こえる」
「は? どこで?」
「近い。近づいて」
そこまでだった。シオンは三人の襟首を掴んで背後に転がし、足がアスファルトの地面を強打。すぐに《
かなりの巨体であり、怪力を持つナニカだと思われた。純鉄の壁がぶつかったナニカの形に変形してしまったからだ。シオンは盾の一部、一方を解除し、外を窺う。
聞こえてくる獣声。フィフラーバル第三大通りに悲鳴と獣の声が満ちている。獣の声は多く、少なくとも十数頭。逃げ惑う声を追いまわし絶叫と断末魔へと変えていく。それだけ情報があればシオンの行動は迅速。何事かと困惑している三人に言いつける。
「ここにいろ」
「え、でも、シオン!?」
言うだけ言ってシオンは壁を再構築。四方と上を囲み、三人を絶対安全圏に閉じ込め、空気の入れ替えに獣が入れない程度の大きな穴を開けておく。ザラが一番に顔をだし、シオンを問い詰めようとしたが、シオンは生憎構ってやる気も余裕も今のところない。
目の前に巨躯。その姿はまさに獣、なのだがその中でも猿に分類されると思しきものだった。見たザラの顔が蒼白になり、すぐ引っ込んでわけがわからずいる女の子たちを庇って壁の後ろの方へさがったのが気配でわかった。つまり、見覚えのある生物なのだ。
獣は猿に似ている、と思ったが、とても平和からかけ離れているのがわかる。鋭利な爪に巨大な牙。黄色の目玉に爛々と輝く下劣な食欲と殺意。丸太のような腕に分厚い体と黒い剛毛。あまりにも凶悪なその姿は類人というか悪魔のお隣さん、といった風貌である。
「もしもしっクルブルトです! 緊急警報、緊急警報! フィフラーバル第三大通りにて〈
ザラの言葉を片耳で聞いていたシオンははじめて見る生物にイミフ。〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます