二十四話――さっさと選んで設定会計して


「破格的な値段のものも多いですね」


「最近、他国は情勢不安定で金銭価値がニルよりだいぶ落ち込んでいるからな。お助け価格ってやつだな。ま、学生で新聞取っているコの方が少ないだろうし、俺の店の広告なんて見てねえだろ? 一応、大きめに広告打ってもらったんだぜ? これでも」


「来たやつは後悔だな。見た目がアウトだ」


「なにおぅ、自分が美男子だからってぇ~」


「ウゼぇからいい加減それやめろ。シオン、どうだ? なにか気に入ったのあったか?」


「一番シンプルなのはどれか?」


「今持っているのが一番だな。ただカメラ機能がちょい悪くて値下げのさらに値下げだ」


「ふむ。……。ではこれの黒をもらおう」


「応。お買いあげありがとさん」


 言ってゼレツはシオンの持っている端末の本品、新品を取りに奥へ引っ込んでいった。クィースたちはシオンの即決にびっくりだ。もう少し悩まないか? それもすげえシンプルすぎて地味な端末のしかも黒。服も黒いし、黒が好きなのだろうか?


 だが、その疑問は質問にはならなかった。


 シオンの目が一瞬、悲痛、とも違う。そう、苦しみに染まったような気がした。


 なにか、黒い色に思うところがある様子。これだと好きで黒を選んでいない気もしてくる。どうしてか、そう思えたのだった。なので、三人がシオンのよくわからない色選択に疑問符ぷわん、しているとゼレツが戻ってきた。小綺麗な箱を大事に持って。


 シオンは説明を受けるのにカウンター席に座り、箱を受け取って端末を取りだしてすぐ起動させ、ゼレツに言われるまま基本設定をしていく。使用言語は桜語ツェルジィスに決定。


 ゼレツは少し驚いた様子でいたが、黒髪なのを見て東方国出身と思ってくれたよう。


 あとは生体認証各種、着信音、待ち受け画面にアイコンの設定。それと、非常時にはおすすめだから、という理由で文書を網膜投影できるコンタクトレンズもセット購入。待ち受けに樹木。アイコンは葉を設定したシオンは未練がましいのか、執拗なのか、と自嘲。


 ココリエのことを未練に思っているのか、それとも早く忘れてほしいという執拗さなのか、わからない。わからないが、それをシオンは悲しい、と思った。思ってしまった。


「これは使えるか?」


「お? 区役所の割引券か、久々に見たな。もちろん使えるぜ。んじゃ、全部で一万な」


「では、これを。世話になった」


「応。いいってことよ。こっちこそ目の保養をありがとうよ~、なーん、ってアレ?」


 無視。シオンはゼレツのギャグをお義理とでも思ったのか、それとももう存在が網膜に毒だとでも言いたいのか、さっさと自分の礼だけ言って店をでていった。


 見事に滑ったゼレツを背後に捨てて店をでていくシオン。三人は急いであとを追った。


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