十九話――一時金がもらえたので……


 しばらくヒュリアは笑いの発作に苦しんでいたが、うーん? と悩むようにそれでいてシオンにあまり期待しないながら訊く。一応、報告例がある事例に思い当たって。


「あのおじさん、お知りあいなの?」


 この質問はシオンにしても予想の範囲だったのか首を緩く左右に振る。するとヒュリアはまた、んー? と悩み顔になってしまった。三人の中で一番頭がいいヒュリアでも思いつかないとなると、なんだよ、と思い、シオンは一応他のふたりにも首を傾げ、訊ねる。


 が、ふたりはシオンが首を傾げ切る前に首をぶんぶん振り「知らないしわからない」と示してきたのでまた疑問が振りだしに戻ることになってしまった。本当、なんなんだ?


「まあ、いいんじゃない? 将来に期待できるひとに多くだしてもいい、なんて話も聞いたことあるし、きっと将来有望だと思われたのよ。将来期待大って、嘱望されたのね」


「適当な」


「だって、他にどうすることもできないんだもの。それとも引き返してなにかの間違いじゃないかって騒いでみる? 絶対、いや、でしょ? だから、いいにしておきなさい」


 ヒュリアの適当な言葉にシオンは納得し切れずも引き返して騒ぐ案は絶対にありえないので渋々納得しておくことにし、三人が歩きだしたので一番近かったクィースの肩をつついて目で「どこにいく気だ?」と訊く。クィースは若干悔しそうだったが切り替えた。


 なにが悔しいのかは直前の台詞で知れているのでつつかないでおいた。自分が苦労したのにシオンが苦労なく助成金をもらえたのが悔しいのだ。うん。多分おそらくきっと。


「まず端末を買いにいこう。いくら破格でもそれが限界ってことだから、さ。ゼレツさんのお店の端末なら高性能でもお手頃価格だからね。一応費用は抑えたいでしょ?」


「なぜ高性能で安い? 外国の粗悪品か?」


「ううん。純粋な国内産だよ。ゼレツさんが直接工場から仕入れているから安いんだってザラが前言っていたけど。そういうひとって、超専門知識が要るからなかなかいないの」


「なぜそんな者の店を知っている?」


「うん。ザラのお父さんの同級生なんだって。ちょっと目に痛いひとだけど知識はたしかで保証できるから安心して。まあ、本当に長時間向きあうのはごめんなさい、だけどさ」


 それはいったいどういう変人だ。なんてシオンは思ったが口にしなかった。偉い。


 いつもだったら自覚なく暴言にして即発射してしまいそうなところだが、ザラの父親の同級生? とからしいので控えた。つまり、学校が一緒で組が一緒だった、と。


 だとしたら、んな失礼な認識を会う前から築いておくのはちょっと悪いか、と思った。


 しかし、クィース。この温和でのほほんとしたドジ娘が長時間向きあえないというのはどういう意味なのか、イミフ。ただまあ、この三十分後、シオンもクィースの言葉の意味を身をもって体験することになるので、今は置いておいていい、とも言われた。


 クィースが言うにはそのゼレツ、だかの店へいくには第三大通りを通って路地に入る必要があるらしい。なので、はぐれないよう注意と言われ、シオンはゼレツだかの前にナシェンウィル中央国の首都、第三といえ大通りの洗礼を受けるはめになったのである。


 バスナ区役所から十五分後、その熱気は突然が如く襲ってきたのでありましたとさ。


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