二十話――フィフラーバル第三大通り


「なんだ、この混みようは」


「え? 少ないくらいだけど?」


 この時、シオンの目が確実に「マジか、げぇ」と言うのが見えたのでクィースはくすくす笑いながらシオンの手、は躱されたので半袖上着の裾をちょいっと摘まんで「こっちだよ」とすでに半分人波に流されて見失い気味のふたり、ザラとヒュリアを追いかけた。


 ふたりは止まって待っていてくれたが、それでもひとを避けるのにやむなく動いてしまうのだ。追いついたふたりを確認して、ザラが先導してくれる。シオンは第三大通りと書かれた看板にマジか、と別のびっくり。これで三番目とか冗談だ。と目に書いてある。


 可愛いひとである。妙に大人っぽいと思ったらこうしてこども、幼児のような仕草というか反応を見せる。これは普通に考えたら異性が放っておかないだろうに。シオンにそういったアレが見えないので、恋人だとか、もしくは恋や愛すらも知っているか怪しい。


 そのシオンは街の、大通りをゆき交う人々をはぐれない程度に観察している。興味深そうに。だってそう、今までシオンが見てきたことない人種が坩堝を築いているから。


 奇抜な髪色、目の色ならまだしも長い耳、空想物語のエルフ族のような耳を持った者や額に小さく短くとも角を持っている者もいる。さらに衝撃的だったのは……。


「犬、耳?」


「ああ、ペトコリ族のこと? 起源はよくわかっていないのだけど犬の耳と鼻を持って生まれてくる種族よ。その耳と鼻の機能は犬と同等、もしくはより鋭い者もいるわ」


「ペトコリ族はああいう見た目だが、最近の軍人や戦士に多い種族だ。持ち前の運動神経もさることながら感覚が鋭い分、普通の人間にできない芸当こなし、活躍広きってな」


「だからシオン、可愛い、とか言っちゃ」


「言うか、バカ」


「どーして無駄に罵るのーっ!?」


「うるさい」


「むきーっ!」


 うるさいクィースを適当に罵って黙れ、したシオンがちらっともう一度ペトコリ族、というらしい犬耳の男を見ると自分を侮辱する類の会話じゃないと知り、腕組みして去っていった。その肩や肘に相応の防具をつけているので彼もどこかの戦士か、と思った。


 だが、どうにも法力のにおい? 気配? を感じないので現物使いか、とちょっとだけ残念にも思った。気になって周囲に気を張ってみるも法力の類をまったく感じない。


 不思議だ。この国では法力での想像ものの武器や防具は禁止なのか? なんて考え、無駄に脳味噌を遊ばせている間に三人は大通りの人波を無理矢理外れて路地の方へ。


 ついていくと大通りに負けない活気のある奇妙な路地に入り込んだ。看板を見ると「トニーヴ通り」と書いてある。事前にクィースから聞いていた通り、路地に着いた臭い。


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