十八話――苦手なオーラ
自殺していればまだ誰の心も傷つけずに済んだかもしれないのに。マナにもひどい心の痛手を負わせた。あんなによくしてもらっていたのに。どうしてこうも手遅れをつくる?
なぜ言う通りにしなかったのか、そればかりを悔いた。本当、後悔先に立たずだ。
シオンはでそうになるため息を押し留める。ため息など吐いてもなにかが好転するわけではない。むしろ幸運が逃げる、と言い伝えがある。これ以上の不幸など不要。
そう心を決めたシオンは歩みを再開。すぐ窓口に戻っておじさんに写真の袋を渡す。すると、彼は写真を取りだし、なにか機械にはさんだ。見ると焼き増し機と書いてある。なんで焼き増し? と一瞬思ったがすぐ察した。中央校への提出書類に写真が二枚要る。
シオンが理解したのを察しておじさんはにっこり笑い、なにか金属らしきものがジャラジャラ入った封筒を寄越してきた。それを不思議に思っていると焼き増し機が早速一枚つくったのでおじさんは手元に置いた手帳っぽいものの台紙にシオンの写真を貼った。
内容を確認し、それと残りの写真も渡してきた。ので、シオンも確認するとなるほど。仮の身分証明書だと思われるものだった。ただ、こちらは革ではなく、厚紙製だ。黒い手帳。おじさんの後ろの方に白い手帳が山になっているが、黒はなにか違うのだろうか?
なので、シオンがついおじさんを見ると、彼は破顔しそうになるのを必死に堪えているらしく口元を失礼にならない程度隠している。はてな、である。がすぐ説明してくれた。
「こちらの封筒は助成金になります。とりあえずこれしかだせませんので使い道にご注意ください。仮ではありますが、そちらは身分を証明するものです。落とされませんよう」
「了解した」
「では、以上です。お気をつけて」
なにに? と思ったシオンだが突っ込まないでおいた。おじさんがとうとう我慢できず満面の笑みで、というか弛緩した顔でシオンを見送るのに立ちあがろうとしたからだ。
なので、シオンはそそくさと立ち去ることにした。背後からおじさんの残念そうな空気が追ってきたが気づかないフリで待っていた幼馴染組三人に目配せしてさっさと区役所の出口に向かったシオン。幼馴染三人は「え?」という感じだったがついてきた。
「どうしたの、シオン?」
「いや、なにか、苦手な気配が」
「は?」
「いや。それより助成金ももらったのだが」
「え? え、え、ホント? ええーっ、あたしなんか助成金というか奨学金もらうのにすごく苦労して書類揃えたのに? え、マジなの? どういうこと? 美人だから?」
「誰がか?」
「は? お前以外に誰がいんだよ」
「己ら、目が腐っているぞ。除菌しておけ」
ひどい。心からの感想だっただろうに目が腐っているとか。だが、シオンからしてみればここでもか、という気持ちでいっぱいだ。戦国でもそこかしこで美人だなんだと言われていたがシオンの認識は自分など不細工の下の上程度だ、である。……誤認識もひでぇ。
クィースとザラが思わず顔を見あわせてからシオンをもう一度見た。やはり超級の美女だ。しかも、肉体も最高に美しい。ふたりはヒュリアにも確認に振り向いたが、彼女も苦笑しているのでこちらの、三人の誤認識ではない。シオンがおかしいのだ。
いや、てか、これほどの美貌と美体で今までに恋人だとかそういうのもなかったのだろうか? っていうかアレか? 高嶺の花すぎて誰も手がだせなかったとか、か?
でなければ普通におかしい。
だが、おかしな、この場で最もおかしいシオンは封筒を開けて中を確認している。
封筒を手の上でひっくり返して硬貨を数えて一旦袋に戻し、札の金を取りだす。よく見えないが朱刷りが二枚と黒刷りが十枚は見える。シオンはしばし、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえていたが、やがて自信なさそうに金額を述べた。それもまた驚愕だった。
「三万千五百十……ニル?」
紙幣に彫られている字を見つつ金額と金の数えを呟いたシオンに三人びっくり仰天。
特にクィースの驚愕激しいこと。ヒュリアも驚いて美貌がちょっとだけ台無し状態。
「やはりおかしいのか?」
「おかしい、というか破格すぎるわ、ね」
シオンの問いに答えたヒュリアだが、声はちょっとだけ震えている。彼女がちらちらクィースを見ているので見ると、ぽかんと間抜け面極まるひどい顔をしていた。
多分きっと笑いたい。だが必死に堪えている。なのでシオンはクィースに目で合図。今すぐ間抜け面やめれ、と。すると、幸いにも通じたのかクィースが顔を引き締めた。
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