十七話――証明写真


 なんだ、いったい? しかも、助成金の試算? なんだか聞いていた話とまるっきり違うような……。助成金はでるかどうか怪しい、と言われていたので。イミフ、である。


 とにかくイミフは今のところ置いておいて、ということでシオンは窓口のおじさんに言われた通り玄関まで戻ってそこから青い扉へ向かった。ノックを三回。すると、中から先聞いたのと同じ声が返事をし、そのまま。首を捻ったがシオンは無断で部屋に入る。


「お写真ですね?」


 不気味な人形が訊ねてきたのでシオンは無言で頷く。シオンの素っ気ない返事にも人形は笑みを崩さない。パソコンを弄り、続いて大きな撮影機材を弄っていくのでシオンも室内に置かれていた椅子に腰かけ、準備。


「では、お撮りします」


 そこからは一瞬だった。大きな白い光が焚かれ、薄暗い部屋を光で埋め尽くした。徐々に光が薄れていく。爆光のような光の奇襲に目をやられ気味のシオンが目をまばたきで今に順応させていると靴音が近づいてきた。


「素敵なお写真が撮れましたよ」


 人形の定型句に対するシオンの反応はまあ、あまりよろしくないものだった。バッ、とひったくるような勢いで人形から写真が入っていると思しき紙袋を取りあげて振り返ることもなく部屋をでていく。人形が後ろで頭をさげて見送ろうと無視。徹底無視で。


 部屋の外に抜け、シオンはそこが待合から死角になるのを確認して写真をチェック。


 一応、他人に見られるもの。まともでありますように、と願って取りだしてみると存外綺麗な写真が撮れていた。黒いエネゼウルの衣装のままなのでどうかと思ったが、いい具合に雰囲気が整っている。色白、不健康、焼けろ、と散々ウッペで言われていた。


 だが、その病的なまでに白い肌もエネゼウルの衣装にはとてもよく映えた。まあ、白いのはどうしようもないというのがある。あので闇の中にずっといたのだ。日光に当たる機会がなかったので仕方ない。ま、一種の個性ということにしておいた。


 ただ、写真撮影の時に焚かれた光に反射的に目を瞑ろうとして寸でのところで留まったらしく目が細められていた。これではまるで撮影機材の先を睨んでいるようだ。


「さて、私はいつ、血まみれるのだろう?」


 まあ、いっかこれで。そこまで悪くないしと思い、そう思ったと同時に湧いてきた思考にシオンは独り言を零す。いつ血にまみれるのか、と悲しく冷たい言葉を零す。


 ついで吐かれたのは現状へのイミフ。


「どうして学校など、どうせ、私は……」


 どうせ、私は……。その先は音にならなかった。したくない、とも言う。だって、辛いからとも口にできない。戦国での最期の日。シオンは、サイであった彼女は後悔した。


 どうして鴉の言う通りにしてさっさと自決しなかったのかと。そのせいで彼を血に染めたことを悔いた。そして、最愛の妹をまたひとりにしてしまうことを悔いた。


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