十二話――おドジの探し物


 それはつまり、アレか? クィースだから挽回しようとしてさらに被害を甚大かつ拡大させそうだから、という不名誉な感じのアレなのか? まあ、訊く相手がいないので確かめようがないのだが。それにしても……。


「寮生をすべて覚えては」


「んなことしてたら頭爆発するっつーの」


「ふむ。つまり、すさまじすぎるドジのあまり記憶に残っている、ということか?」


 シオンの簡潔なまとめにザラはちょっとだけ誰かさんに憐れみの目を向けたがその誰かさんは部屋をひっくり返すのに忙しい。どこやったっけ!? というのが言わなくてもわかる。なんというか、これも一種の特性、というやつなのだろうか、な?


 シオンがやれやれとんだ者に拾われてしまった、と思っているのを知ってか知らずかクィースは外出に必要なものを探していく。鍵は出入口付近の小物入れに入れていたようで探していないが、それ以外のものが本当に行方不明らしく、部屋がだんだん惨状に。


 だが、部屋の惨状に比例せず探し物は一向に見つからない。なので、三人も手伝う。このままでは陽が暮れる。そう判断して。そして、友人ふたりとシオンが参戦してから捜索作業はすぐ終わった。全部シオンが見つけてくれた。偶然もありつつ、だが。


 散らかしたままの洗濯物の下に鞄。トイレに財布。あと携帯端末は風呂の脱衣スペースに放置されていた。一番の謎はトイレの財布。トイレで財布持ってなにしていたんだ?


 儀式か? 儀式だったのか? 金運がつくようにしたかったのか? イミフすぎる。


 なんて、シオンが思っているうちにクィースは鞄の中の不用品をだして、必要品を入れていく。財布とか部屋の鍵とかだ。最後に携帯端末をパンツのポケットに入れて終了。


「もう忘れ物ないよね?」


「それは自己確認か? それとも夢でも見ているのか? 忘れ物パラダイスは己だけだ」


 グサ。シオンの確認とみせた暴言にクィースが微妙に傷つく。だって、言っていることは真っ当というか、事実だし。でも、忘れ物おドジならまだしもパラダイスって……。


 どんだけ口が悪いのだろう、と思いぶっすー、と膨れてみせるもシオンは無視した。


 構うのも面倒臭い、と思われている様子。クィースが逆の立場になることはないだろうが、もしもなったとした、なれたとしたらそりゃ構うのは面倒臭いだろうなー、と共感。


「うぅ、お騒がせしました」


「別に。時に、バスナ区役所とは?」


 シオンはもう済んだことだからなのか素っ気なく返事をしてバスナ区役所、というクィースが目的地にしていた臭い場所のことについて訊ねている。ここは首都フィフラーバルと聞いていた。なので、別地区っぽい場所にいく、というのが不可解なのだ。


 クィースはシオンの素朴な疑問に「え?」という顔だが、シオンの台詞だ。てか、はじめての場所で戸惑っているのにさらに惑わすような言動をすな、と思ったりしたりして。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る