十一話――カゼェオンの鍵
「もう、ミンツァさん、またなの?」
「うっ、うっ」
「あの、言わないであげてください。充分以上恥かいていますし、反省していますので」
「バデトジェアさん、それ何回も聞いたわ。ねえ、いっそ端末認識式にする? 端末な」
「部屋に、忘れました」
「えぇー……」
なんと、この上携帯端末も忘れていたとはひとりででかけていたらどうしたのだろう?
しかもその上で友人たちも別件ででかけていたら、どうすることもできないのでは? なんてついシオンがどーでもいいことを心配していると、寮長、と思しき女の手がシオンの目に見慣れた、というか一度しか見ていないがそれでも見たことあるものを取りだす。
カザオニが持っていたマスターキー。カザオニの実家が開発したそうだがそれがここにも流れている、ということはカザオニの実家はどこにあるのだろうか。どうも、ナシェンウィルの近郊というふうには見えないが。彼の持つ色、まるで砂漠の民のような……。
「新しいお友達?」
「ああ、はい。そんな感じです」
「ふーん。これが珍しい? 西方の西方、南方との境にある砂礫の国、カゼェオンのとある家が独自開発した最新式の鍵よ。こどもさんたちはみんな出稼ぎにいったらしいけど、家族全員砂毒症を患っているってのがこの国では一番有名な噂、かな?」
シオンがまずひとつ驚いたのがカゼェオンという国名。カザオニとよく似た音だ。もしかして彼がカザオニを名乗るようになったのは実家の国になにがしか思うところがあってのことかもしれない。でなければ少々偶然にしてもできすぎている。
そしてもうひとつ、砂毒症というのは聞いたことがないもののなにかの病気、その症状だとわかる。直訳すれば、砂の毒が及ぼす害、なのだろうが、あまりにも単純すぎる。
しかし、穿って考えようにも、思考のピースが足りない。欠片がないものは穿ちようもない。なので、もうひとつカザオニの謎が増えたことになる。……できれば生きている時に、サイであった時に訊いてみてあげればよかった。例え、知らなくとも。
患いがあったのか、あるのかどうかくらいのこと。だって、彼は、カザオニはサイの影だったのだから。そのくらいのこと気にかけてあげてもよかったのに。などといまさらな後悔を覚えた。そうこうしているうちに寮長はクィースの部屋の鍵を解錠。
「はい。これでいいかな?」
「ありがとうございます」
「ん。いいのよ。どうせ四季休みで人手は足りているし、またなにかで挽回、し……なくてもいいかな、うん。まあ、次からさらに気をつけて、としか言えないわ」
途中で止められた挽回しなくてもいい、の言い方が気になるも、寮長は去っていった。
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