十話――残念ドジ超全開


 ヒュリアは軽く髪を直し、ザラも女物に見える髪留めで紺色の少し長めの髪をパチン、と留め、クィースは支度をするのに寝室に入っていった。それから十分少々ででてきたクィースにシオンは残念な気持ちがさらに増強された気分になった。なんだ、アレ。


 シオンが疑問に思った、一番疑問に思ったのは超ダサい黒縁の似合わない眼鏡。伊達にしてももうちょっと考えろ、と思ってしまう。それ以外の服装もなんだかちょいちょい残念賞で微妙な心地。これと一緒にでかけるのはなんか、気が引けるくらい。


 だが、発見者で世話になっていたのは事実なので我慢。忍耐よ、我に在れ。と願っておいてクィースの残念ぼさぼさ髪にもノー突っ込みでいるシオンだが、ヒュリアが突っ込みを入れている。あまりのぼさぼさに我慢できなかった模様。ぼさ髪を摘まんで一言。


「髪の毛もうちょっとどうにか」


「うぅ、すみませんがどうもならない」


「いっそ刈りあげてもらえ」


「ザラ?」


「冗談だっつーの」


 ザラの愉快で不愉快な冗句にクィースがギっ、と睨みを利かせたが、ザラは一切構わず部屋をでていく。これにシオンも続き、ヒュリアとクィースがでて扉がゆっくり閉まっていく。廊下にでた四人の内いき先を知っているのは三人。クィースが元気に拳をあげる。


「じゃ、バスナ区役所にい」


 いこう、と続く筈らしき言葉が急に途切れた。なんだ? と思ってシオンがクィースを見ると女は見る見るうちに真っ赤になっていき、部屋に引き返していく。イミフ。


「鞄と財布と鍵も忘れた」


 だが、返ってきた答に思わず脱力。いや、そんなものではない。外出に必要なものすべて忘れてでてきたアホにかけてやる言葉もない。と、いうか見つからない。


 ――どんなドジだ。神祖か?


 などと、シオンが失礼考えているのが瞳に駄々漏れているのを知ってか、クィースはさらに真っ赤っかになっていく。耳まで赤くしてふとするとぶっ倒れそうだ。


 シオンがクィースの友人たちを見るとまあいつものことだ、と言わんばかりでいる。


 となるといつもなのだろう。外出に必要なものをすべて忘れるという程度の珍事。


 引き返していくクィースの手が閉まりゆく扉の取っ手にかかりかけた瞬間、扉が閉まっておまけにカチャ、と小気味いい施錠の音が聞こえてきた。……。クィースは鍵を持っていない。つまり閉めだし、である。


 思わず、クィースがその場でへたり込んで床にのの字を書きはじめる。それを見ている三人はどう声をかけたものか、というか、声をかけてやるべきかも憚られる。


「もしもし、寮長室ですか? バデトジェアです。ディーグス女子寮長をお願いします」


 こんな憐れな者いるか、普通に。そう、シオンがつい思ってしまっていると斜め後ろから声。見るとヒュリアが携帯端末片手にどこかに連絡しているのが見えた。


 寮長、とまたイミフな単語がでてきたがスルーしてザラに視線を投げるも気づかず。


 彼は「クィース、マジ外さねえなぁ」とばかりに超憐れみの目で友人を見つめている。


 ――こいつもなかなかひどいな。


「あ、寮長、お忙しいところすみません。新南館六階二号室、ミンツァさんの部屋の鍵をお願いできませんか? えぇっと、その、また部屋から閉めだしを喰らいまして」


 ヒュリアの言葉にも苦笑が混じる。てか、また、とな? ……。どれだけドジを極めれば気が済むんだ、こいつ。とシオンが思ったのは内緒でもなんでもない。


 ドジ神が取り憑いている。そうとしか思えないドジっぷりとドジのすさまじい威力にシオンも暴言がでてこないくらい憐れみが湧く。でも、きっと解決したら暴言が飛びだすと思われる。シオンの慈悲精神はお優しくない。戦士としてならいざ知らずこんな……。


「すぐ来てくれるって」


 携帯端末をしまいながらのヒュリアさんお言葉だが、クィースはいまだに己のドジショックが抜けないようで廊下の床でのの字書きを続けている。聞こえていない様子。


 三人に生ぬるい視線を浴びせられつつ、のの字しながら待つこと数分。シオンの背後から自動昇降機エレベーターの音がして、ひとり赤毛の女がおりてきた。


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