十三話――変な異常気象
「バスナ地区、というのはフィフラーバル地区の隣なの。ここの方が中央区役所より助成金の審査が緩いし、いくのに人混みを進まないで済む上に、なにより近いからね」
「うむ。簡潔丁寧な説明に感謝」
「いいえ。とにかく、そこで助成金がでるならシオンも気が楽でしょ? 私がだすより」
「幾億倍も、な」
幾億倍も気が楽、と言い切ったシオンは「ああ、なるほど、それが聞きたかったのか」と納得顔でいるドジに目を向け、案内を催促。これにクィースは飛びあがって案内に歩きはじめたが、二歩目でなにもない場所にて転倒。……これはもう憐れの域を抜けている。
憐憫どころか人類として大丈夫だろうか、なんてシオンに思われていると知らずクィースはもぞもぞ立ちあがって今度は慎重に歩を進める。シオンが彼女の友人たちに目を向けるもくすくす笑うばかりでいる。ザラにいたっては腹を抱えて悶えている。
ツボった模様。こうして四人はクィースの先導で
派手さはない。それでも随所に繊細な装飾を施された玄関ホールは学徒の為の住まいらしく質素すぎず豪華でもなくという、なんというか、絶妙の塩梅で彩られていた。
シオンはホールを無関心そうにぐるっと見渡してクィースについていく。一行はのぼり階段に差しかかり、地上に向かっていく。クィースが玄関の扉を開けるとむっとするような熱気に見舞われた。外は閑静な住宅街の一角、といったふうであまり騒音はない。
他にも賃貸住宅が建っているが、この寮ほどの高さがあるものはない。せいぜい三階、四階建てといったところ。シオンが周囲を観察していると斜め前からんー、と伸びた声。
「はー、今日は快適な夏ですね~」
「? ずっと夏であろう」
「え? ここ数日は冬だったでしょ?」
「ドジのあまり季節もわからなくなっ」
「ちょ、待ってシオン、もしかしてあの島国にはこの異常気象がない、ってことなの?」
「異常は己らの脳味噌だ」
なんつーことを。いくらなんでも暴言すぎるが、ヒュリアは聞こえなかったフリで興味深そうに目をきらきらさせている。なんだ、いったい? そうシオンが思っているとヒュリアが説明の口を開いてくれた。それはもう摩訶不思議な現象でありましたとさ。
「エンテロット・ヴ・シルギリーズド・パネ・エトルフェ、という異常気象でね、四季が安定しない時期が年に数回あるの。春が来たのに葉が枯れる。真夏日だったのに翌日は豪雪警報がだされる。何百年も続いているらしいけど、人間は簡単に順応できないの」
「では、四季休み、というのは」
「この異常気象中に無理矢理外出して体壊しちゃ元も子もないから、って措置ね」
あの島国にない、変わった気象がここにはあるのか、とシオンはイミフをぷわん。
イミフ製造中のシオンだが、歩きだした三人についていく。街並みを観察しながら。
欧州圏のどこにでもありそうなちょっと雑多でそれでもある程度整った景観の街並みはあまり面白くない。が、十分も歩くと街並みは変化。町へと変わっていった。
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