六話――朝餉をご一緒に


 ――ぐっぎゅぎゅるるる……。


「まずはなにを置いても腹ごしらえだ」


「いただきますっ!」


 そわそわしているザラにシオンが許可の言葉をだしてからは早かった。ザラはとりあえず取り分が決まっているサラダと卵をつつき、ちらっとシオンを窺う。シオンは乳を一口飲んで、食パンのアレンジグラタンを一斤分丸々ザラに渡した。嬉しい言葉と共に。


「己の取り分だ」


「マジか!?」


「……多い」


「まさか!」


 多いか? と訊こうとしたシオンだがザラが遮るのが早かった。熱々なので慎重に、だが豪快にかぶりつくザラ。彼が噛みついた箇所からじゅわ、と美味しそうな湯気があがってジャガイモのクリームソースがチーズの層を破って溢れでる。


 ほふほふしながら食べるザラの様子を呆気に取られて見ていた女の子たちのぽかんを切り裂く、ザク、という音。見るとシオンが自分の取り分と思しきパングラタンをザクザク切ってわけていくところだった。全体量の三分の一に満たないほどわけて自分の皿へ。


 残りを女の子たちに分配したシオンも本格的に食事をはじめる。サラダを頬張り、卵を切って黄身のとろみ加減を確認し、パングラタンを熱いうちにパクパク食べ、いまだ女の子たちが呆然としているので首を傾げる。「食べないのか?」という無言の表現。


 ついで、シオンはすいっ、と視線を動かして教える。ザラが、丸々一斤分もらったのに女の子たちのパングラタンを狙ってちらちら見ていることを。これには女の子ふたりも焦って自分の食事をはじめる。ザクザクのパンにジャガイモのソースとチーズが絶妙。


 プロの料理人も白旗をあげそうな技量というか即席料理にびっくりである。が、それと同時に女子としてなにやら負けた気分になるのはどうしたものか……である。


 て、いうか、シオンが目覚めるまでは密入国を一番疑って看病に難色を示していたというのにもうコロッと忘れて、忘却の彼方でがつがつ食べまくるザラにもう一個落ち込む。


 やはり、男心を掴むには美味しい料理が必須なのだろうか。胃袋を掴んでしまうのが最も手っ取り早いのだろうか。じゃなければザラが無心にがっつき、心許すなんて。


 とか思っている、とシオンがザラのフォークを軽い手刀でべしっと叩き落すところだったのでまだ食い足りなくて女子の分を狙っていた臭い。なので女の子たちも食べる速度を早める。なんだかんだ言ってもシオンがつくってくれた料理はとても美味しい。


「おふぁあり!」


「ない」


 ザラのおかわり、が聞こえてくるが、シオンは無情にない、と叩き潰している。


 もうちょっと料理の練習しよう。そう、女の子たちが思ったのは内緒、である。


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