五話――台所で一働き
「食材、大丈夫?」
「うぅ、そこは訊かないで」
「もう、考えて買い物をしないとこのさ」
女の子ふたりで冷蔵庫を物色しつつ、ヒュリアがクィースに苦言を呈しようとしたがその上に影が落ちる。見ると、シオンが後ろから冷蔵庫を覗き見ていた。そして、なんの迷いもなく他人様の冷蔵庫を我がものであるかのように着々と漁っていく。
シオンの両腕にどんどんちょっとヤバめの食材たちが抱えられていく。シオンは冷蔵庫前で固まっている女の子ふたりを放置で台所に向かう。んで、これまた勝手知ったるな感じに調理器具を取りだして料理をはじめた。
黴生えまでいかなくともちょーっとにおいが危ない角食パンを二斤、一斤ずつにカットし、中の白い部分をくり抜いていく。天火を予熱しはじめ、皮を剝いたジャガイモを水から茹でつつ、大きな豚(?)バラの燻製肉を一口大に切り、フライパンで焼いていく。
油がなくとも燻製肉の脂で充分と思ったのだ。燻製肉の様子を見ながらシオンはジャガイモに串を刺して加減を確認。納得して湯を切り、手早くマッシャーで潰していき、そこにククッペ乳と書かれている動物の乳らしきものを注ぎ、滑らかになるまで煮混ぜる。
充分煮詰まったそこにフライパンの中身を入れてさっくり混ぜ、食パンの器に移す。同時に背後から天火が予熱完了を告げてきたので食パンに蓋をするようチーズを盛って天火に入れて加熱開始。天火さんが調理してくれている間にシオンはサラダをつくる。
レタスとトマト、キュウリを適当に切って大きなサラダボウルに盛りつけて別の小さな器に塩胡椒、マスタード、酢を入れてしっかり混ぜ、油を適量注いでドレッシングの完成となり、サラダにだー、っとまわしかけられる。それを端に除け、今度は卵を焼く。
簡単に目玉焼きだが、卵をフライパンに割って入れる速度の早いことといったらない。
超高速で手がかすんで見えるほどだ。シオンは卵を全部割り入れて、水を少量入れて蓋をし、蒸し焼きにしていく。割った時の色がよかったのでこれは半熟でも大丈夫そうだ。
とまあ、そんな確認をしつつ、シオンは取り皿をだしてサラダと一緒に運ぶ。戻ってみると卵がいい感じだったので個別に皿へ盛りつけていると、天火が加熱を終えた。
大きな皿に天火の中で調理していたものを取りだして乗せ、瓶詰のパウダーなのが残念だが香草を散らし、即席、でもかなり豪華な朝ご飯の完成である。
栄養のバランスもばっちりである。それににおいがもう、若い男子には堪らないようで先にも増してすごい腹の蟲の大合唱が起こっている。もう待ち切れない、とばかりに。
が、シオンはんなザラを尻目に卵の皿を呆然とする女の子たちに持たせ、自分はパンのアレンジ料理の皿を持って食卓へ向かう。ザラは早く朝食にありつきたいのを我慢し、ククッペ乳の瓶とコップをだして食卓へ運ぶ。その頃には食卓の上は朝食で彩られていた。
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