三話――変わった自己紹介
「シオン・ツキミヤ?」
「うむ。別に呼びたくば好きに呼べ」
「……。じゃあ、もう一個の質問」
「期間は短いが直近でいたのは
「……。お、うらい、じ、ま?」
自己紹介を適当簡単に済ませたシオンは出身国を覚えていないので、世話になっていた国を口にした。そこでの時間が最も充実していたし、いいも悪いも思い出がある。
……だというのに、だ。シオンが口にした国名を聞くなり相手の女性、ヒュリアと手帳で名乗った女はびっくりしすぎて固まっている。シオンは首を傾げる。そんなすごく驚くようなこと言っただろうか、と。が、やがてヒュリアの口がパクパクしだした。
なんだ、発作か? とシオンが失礼考えると同時に女がきらきらした顔で迫ってきたので思わず躱す。そのまま壁に額からいくか、と思ったがどうやらヒュリアはドジと遠いらしくちゃんと壁の手前で停止。そしてぐるんっ、と反転してシオンに迫りまくった。
「あなた、あの鎖国から来たの!?」
「どの?」
「だから、
「鎖国……。それは知りえぬがそこから来」
「ホント!? じゃあじゃあ、ぜひ詳し」
「その前にここはどこでなぜ私が己らに看病(?)されていたのか教えてくれ」
「えぇえええ、殺生ぉ……っ」
「待て待てヒュリア。そのひとの言うことの方が真っ当だ。まず事情を説明すべきだ」
言いつつ、青年は自分も手帳をだして自己紹介に代えてきた。シオンが開いてみる、とジュニセル・ウラ・クルブルト、と名前が記載されていた。シオンが青年に手帳を返しながら首を傾げる。寝室へ聞こえてきた声はこの青年を「ザラ」と呼んでいたからだ。
「ああ、ザラってのは愛称みたいなものだ。だいたいザラだ。長いからな、俺の本名」
青年、ザラの説明で納得してひとつ頷くシオンはついで、つ、っと連続おドジに見舞われている女に目を向ける。少しくすんだ金髪に桃色の瞳。ただ、こちらはどちらかというとシオンより幼く見えた。あまりにもドジすぎて歳下に見えてきてしまうのである。
で、観察している間に女はゴミを残らず屑籠に返し終わったようで気まずそうにシオンを見、自分の手帳を取りだした。シオンが確認する。クィース・ミンツァ、と名があり、生年月日を見て生まれ年が他のふたりと同じだったので、気のせいか、と思って返した。
ただ、疑問点をあげるとしてどうして暦が二千何年でなく、四千何年なのだ? だ。
シオンが元々の元いた世界ではまだ西暦二千何年だったと記憶しているので、イミフ。
だがまあ、これで三人の名と顔は覚えた。……筈。多分、おそらく、きっと。
シオンはひとの顔と名を覚えるのが苦手。どうせ数秒後には消える命。そう思って。まあ何事にも例外はつきものでいやいや世話になったりなんだりの相手は覚える。
ハイザークソじじいがその筆頭だった。そして、戦国に渡ってからは世話を焼いたり焼かれたりで覚える顔が増えた。世話、というか手間がかかる筆頭はウッペ王女だった。
ウッペ。サイであったシオンを裏切った国だが一番思い入れがあった国でもある。特に王子には世話になった。暗い闇の奥底からすくいあげてもらった。でも、結局シオンは死んだ。死んでそしてなぜか異国に来ている。本当、心の底からイミフである。
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