四話――話していたら……
「んと、なにから話せばいいかな?」
「不思議ねぇ。でもそう、あなたはここ、ナシェンウィル中央国の首都フィフラーバルにある公園に隣接している林の中で倒れていたの。目立った外傷もないけど、密入国かもしれないって思って私たちが通う中央校の教頭先生に相談したら「保護してあげて」って」
「きょうとう?」
「教職員のまとめ役、って言えばいいかしらね? とにかく、学校で三番目に偉いひと」
「それで、保護してくれた、と?」
「そうね。それに見ちゃったし、見捨てちゃうのはなんだか気が引けるような感じがしてね。で、教頭先生が東方国の出身だと思うからいろいろ面倒を見てあげるようにって」
「なぜか」
「……。んー、最近東方系の入国者が多いから、そのうちのひとりでいき倒れって思われたのかもしれないし、単純に同年代のコだからかもしれないわね。見捨てないでって」
つまり実際問題、この三人はわけもわからず教頭先生とやらの指示に従った、と。となればその教頭先生とかに会えば詳しく話を聞けるのだろうが、生憎三人の反応からしてちょい無理臭いというのが知れてシオンはそこを深く追求しないことにした。
その代わり、別を質問した。
「で、これから私はどう身を振ればいい?」
「それなら心配要らないわ。教頭先生からすぐに冊子と資料、書類が届いたから」
「?」
「シオンさんは」
「さん、は要らぬ」
「え? でも歳……」
「十五だ」
「え、嘘っ!? 歳下あいたっ!?」
クィースの若干失礼な驚きにシオンは無言で彼女のデコに加減しつつもチョップを喰らわせた。横薙ぎチョップ喰らったクィースは涙目であるが、以上にシオンの年齢をつつこうとしなかった。腹いっぱい先のだけで痛かった。加減があったのが信じられないほど。
クィースがそれ以上つつかないことを察してシオンは凶器の手をおろした。無表情でこいつらの方が歳上か、と思いつつ。あまりそうは見えない。ただそれを言うとココリエもあまり歳上っぽくない。なかったので普通にため口で失礼ぶっこきまくりだったが。
ふと不意にココリエのことを思いだして胸の奥がずきりと痛んだ気がしたシオンだが気のせいで片づけ、三人が先を話してくれるのを待つ姿勢に落ち着く。
ヒュリアとザラはクィースのある意味自爆に苦笑していたが、シオンが話を聞きたそうにしているのを感じて蹲っているクィースを放って質問おぅけー状態になった。
「なにの資料集が届いたのか」
「ああ。中央校へ編入学の書類や冊子、それと入国に関する書類諸々ね。要はこの国で暮らし、学校に通わない? っていうお誘い、といったところかしらね。……はい、これ」
はい、と言われて渡されたまま大量の紙束にシオンは無言で「げぇ」だが、瞳は戦国にいた時と変わりなく内心駄々漏れなのでヒュリアとザラはもうひとつ苦笑する。
ただ、とりあえずお誘いであり、こうして準備をしてくれているので一応学校紹介の冊子をめくってみる。表紙には「ナシェンウィル中央国立小中高等学校」とある。
どうやら初等科から高等科までのエスカレーター学校らしい、と知れてどこの科に編入させる気だ? とちょい不安になりつつもう一枚めくる。と、メモ書きがあった。高等科二学年編入時の必要書類、と綺麗な字が走り書きされたインデックスが貼られていた。
そのひとのひととなりがわかる字体はシオンに親しみをこめているような変な気分を抱かせた。ちらっとヒュリアたちを見ると、きょとんと首を傾げられてしまった。
「その教頭先生とやらは私を見たのか?」
「いいえ。お電話で連絡したの。特徴は伝えたわ。少しだけ間、空いたけどそれでもすぐ未成年者なら保護してあげて、って言われたから誰も相部屋していないクィースの部屋に運んで寝かせておいたってわけ」
ヒュリアの答にシオンはなおさらイミフ。どうして面識もないのに字に親しみを感じるのだ? うぅむ? と思っていると部屋に奇妙にして珍妙な怪物の呻き声が響いた。
これに女の子たちはきょろきょろしたが、シオンは音の発生地点を正確に射貫き見る。
「あ、朝練してそのまま来たんだよっ」
「なにも言っていない」
「ぐ、うぐぐ……っ」
ザラの腹の蟲が盛大に大合唱した音、だと気づいてヒュリアたちはなんだ、という顔。
だが、すぐクィースが両手を三回打った。
はて、とシオンが不審に思っていると、急に寝室に通じる扉の横にある壁が開いて銀色の台所がせりだしてきた。これにはシオンもびっくりだ。びっくりなのだが、相変わらず顔は無表情のまま。クィースは驚かないシオンにびっくりしつつも冷蔵庫へ向かった。
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