零話ノ弐――子守唄と――
「――」
次に意識が覚醒した時、私はあのよくわからない光で闇の中でない温かさに包まれていた。ふわふわしている。レンと一緒に暮らしていた時のように思ってしまえる。
つまり、幸福、なのか? どうして、幸福を感じて、否、思いだしているのだろう?
温かで、優しくて、身も心も溶けてしまいそうなほどの幸福がそこにある。すべてがある、と言っても過言でない。そんな光の中で揺蕩う私。脅威、というものがなにひとつないそこで私は安心している。安心してまどろんで在った。……過去形。今は違う。
いや、そもそも、これは私の記憶か? 私は悪魔。闇にだけ在れる者。だから、これは幻。幻で夢でしかないの。光の中では在れない。あっという間もなく焼かれてしまう。
仕方がない。闇に分類されたその時から私はこうだから。どれほど、いかほどに憧れを持とうとも叶えられない。だというのに、みっともなく縋りたがるこの愚かしさ。
「――……――」
聴こえてくる。静かで温かで、柔らかで、でも、力強い声が歌うひどく優しい子守唄。
久しぶりに聴いた気がするのは気のせいに違いない。私は子守唄など歌ってもらったことない。ない。ない、のに、どうしてこんなにも懐かしい? イミフ。
「……――、おや、起こしましたか?」
「んーん。おはよう、ルゥリィエ」
「もう夕刻ですよ。――、それに――も」
くすくすと笑う声。唄がやんだことにひどく悲しみを抱いたのに、どうしてか、歌声の主に声をかけられて溢れんばかりに喜びが湧いてきた私。我ながら現金なことで。
悲しみをすべて吹き飛ばすほどにそのひとの声はとても安心できるし、あったかい気持ちになれる。そして、同時にとても幸せな気分になれるの。バカバカしい妄想なのに大切でかけがえのない
でも、どうでもいい。そのひとのそばはそれくらい心地いいから。でも違う。これは私の記憶である筈がない。私は闇に生きる悪魔。こんなぬくもり、知らないのだから。
こんなもの、幻。くだらない幻に決まっている。わかっている。だから誰もなにも言わないでください。バカか、とそう貶さないでいい。自分でやるから。堕ちていくから。
偽の幸福などで私の卑しさを引きだそうなどとそんな手に乗るものか。腐った思考に反吐がでる。ああ、でもしかし、よくできている。ついうっかり、耽ってしまいそうだ。
「ルゥリィエ、レン、お腹すいた」
「ルゥリィエ、レンもぉ」
「そうですね、夕飯まではまだありますね。では、――でもつくりましょうか?」
「わーい。ルゥリィエの――~♪」
なんだ、これ。
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