第10話 その後のトゥリオ3

***トゥリオside***


「旦那様?」

「ああ、悪いね。寒かったかい?」


 ことが終わった後、1人でこっそり晩酌をしているとラウラが起きて来た。


「いいえ。……眠れないのですか?」

「そうではないんだがな…………なあ、ラウラ」

「はい」

「殿下に許しが貰えたらだが、チモライに行ってみないか?」


 やっぱり人に聞くだけでは不安が残る。ちゃんとこの目で見てみたい。人の命に関わることなんだ。出せる案は全て出したとは言え、もしかしたら何か思いつくことがあるかもしれない。何より、きちんと現場に俺の考えが伝わっているかを見ておきたい。


「あら……ふふ。それは素晴らしいお考えですわね。旦那様を讃える声も更に高まることでしょう」

「いや、それは望んでいないんだが……実際に見てみたいと思ったんだ」

「……そんなにご不安そうなお顔をされなくとも、結果に示されているではありませんか」

「だが、見落としがあるかもしれないだろう?」

「ふふ。そうですわね。本当に……旦那様は人が良すぎますわ」


 そんなんじゃない。ただ俺は一般人なんだ。国政に関わったり、人の命を救う対策を取ったりするような重責に慣れないだけ。ただ、それだけなんだ。


 でも、もうラウラがいる。クラウディオ殿下だって俺は見捨てられない。何もかも放り出せる程、俺は身軽でもないし、考えなしでもない。ここで王太子の側近頭兼秘書として、次期公爵家当主として生きていくしかないんだろう。

 それが俺のこの世界で生きて来た結果だ。


「子供が産まれた時に、尊敬できる父親でいたいからな」

「まあ。お継ぎに対して前向きになって下さっていて嬉しいですわ。仕事も大切ですが、今年中にお父様達に吉報を届けられるよう頑張りましょうね」

「……そうだな」


 酒の力もあってか、素直にそう返していた。

 お陰で笑顔のままラウラにベッドに誘われ、翌日寝不足で王城に上がることとなったが仕方がないと言うものだろう。



 それから、クラウディオ殿下にもマウリツィオ陛下にもディナーレ公爵夫妻にも素晴らしいと褒められた。そして現場であるチモライ訪問はあっさりとお許しが出た。我が家に感謝を述べに来たチェルニック子爵も大歓迎するとおっしゃってくれ、俺はラウラと共にチモライ訪問を果たした。


 チモライに行くと、チェルニック子爵は大々的に俺の功績と共に俺が来ることを告げていたようで、船乗りだけでなく平民達からも好意的な目を向けられた。その度に俺の功績じゃないと言いたくなったが、前世の知識を使ってここで良い結果をもたらしたのは事実なのだ。学生自体で分かっていたはずだ。例え自分が研究して得た知識でないとしても使い様によって良くも悪くもなると。

 だから、良い方に使えた分くらいの称賛は受け入れても良いのだとそう思って耐えた。


「……ラウラ」

「はい、旦那様」

「私は、ラウラに結婚を後悔されるような夫にだけはなりたくないとそう思うよ」


 不安に思うのは、不相応なまでに称賛を浴びせられるからだろう。皆が見ている虚像は俺ではないのだと。


「ふふ。後悔ですか。それはあり得ませんね」

「何故だい?」

「例えこのような功績が1つもなくとも、私は旦那様を愛しておりますから」


 そうだ。例え功績とズレた俺というのが皆から見た俺であったとしても、ラウラへの愛だけは俺のありのままでありたい。

 きっとそこにこそ、俺の居場所はあるはずだから。


「ああ、私もラウラを愛しているよ」


 そんな陳腐な台詞しか言えない俺だけど、ラウラが横に居てくれる限り、きっとこれで良いのだとそう思う。

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本当に現実を生きていないのは? 朝樹 四季 @shiki_asagi

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