10話.[行きましょうか]
返事がなかったからもう1度ちゃんと言った。
聞こえなかったというオチだけは勘弁してほしい。
というかこの静かな校舎内でそれだけはないと思うし。
「もう……なんでいま言うんですか」
「え、雰囲気は良かったでしょ」
「確かに悪くはなかったですけど……不意打ちは心臓に悪いです」
なるほど、これは少し考えなしだったか。
これこそ自己満足というやつになってしまったということ。
やっぱり咲耶は相談する相手を間違えていたなと内で呟いた。
「『あたしとあんたの場所よ』なんて言っていたのにいいんですか?」
「別にそれは関係ないもの、あそこを知っていたのはあの時点ではあの子だけだったから言ってみただけよ」
「依存するって言ったのに?」
「冗談よ……」
「ふふ、なら良かったです」
まあ元々彼女はこちらにストレートにぶつけてくる人間だから気になったりはしない――ようにしているがなかなかどうして難しい。
自分もしていたかもしれないが意地悪をされるとむかつく。
……チンケなプライドは捨てておかないとすぐ喧嘩になりそうだ。
「この後はどうする?」
「それなら咲耶さんと彪葉さんに会いに行きましょう」
「了解」
このような雰囲気になっていないことを願っておこう。
流石にいちゃらぶモード状態のふたりには近づきにくいし。
「お、戻ってきたのか」
「いま、彪葉が咲耶の足の間に座っていなかった?」
「座っていたな、彪葉は私のことが好きだからな」
あ、髪の房で攻撃されている……。
良かった、喧嘩しているよりは断然いい。
「で、なんで朝美はそんなに嬉しそうなんだ?」
「少しいいことがありまして」
今日は珍しく4人で帰ることになった。
何故かあたしの隣に彪葉、咲耶の隣に朝美となっている。
まあいい、色々と聞きたいことがあるからね。
「彪葉、咲耶のこと好きなの?」
「……好きじゃない」
「の割にはさっき」
「好きよ……なんか悪いっ?」
「別にそんなこと言ってないでしょ」
恋に落ちるのなんてあっという間だからおかしなことじゃない。
あ、こっちは急に落ちる感覚というのはわからないが、だからといってそれがおかしいだなんて言えることではなかった。
結局はいかに濃密な時間を過ごすかどうかだろう。
つまり彪葉にとっての最近は本当に濃密だったということ。
「ということは耳に一目惚れとか嘘だったんだ?」
「違うわ、本当にあんたの耳に惹かれたのよ」
「じゃあその先にたまたま咲耶がいたというだけ?」
「というより、朝美や咲耶がいるのもわかっていたから……」
大西朝美とこそこそしているのを知っていると言っていたか。
なにがあるかわからないな、ある程度想像はしていたけども。
「まさか好きになるなんて……思わなかったけど」
「いいじゃない」
「別に悪いなんて言ってないわ! つかっ、なんで私は美心と歩いているのよ! 普通自然に咲耶と私になるところでしょ!?」
「あたしは彪葉と話せて良かったけど?」
「うっ……わ、私だって別に美心と話すの嫌なわけじゃない……」
それでもこれ以上怒られても嫌だから組み合わせを変えてもらう。
そうしたら意地の悪い咲耶によって今度は咲耶が隣に……。
「まあまあ、朝美とは後でゆっくり話せばいいだろ?」
「あんたと彪葉が並んでいると姉妹に見えるわ」
「いいじゃねえか、姉妹っぽく見えるなら仲がいいってことなんだから」
あー……これは大変そうだ。
好きだと言ってもありがとなとしか言われなさそう。
平気でもっとお前に相応しい人間がいるとか言って考えなさそう。
受け入れられないならそんなこと言わないでさっさと振ればいいのにと恋愛物を見ていて思わなくもないので、彼女には是非想像通りにならないように振る舞ってもらいたいと思った。
「つか、いいことってなんだよ?」
「好きって言っただけよ……」
「おぉ、ずっと考え込んで言わなさそうなお前がちゃんとするとはな!」
うぜぇ……もうこちらのことをわかった気になっている。
咲耶には生えていないから尻尾を掴むなんてこともできない。
「冗談だ、その勇気は凄えよ」
「あんた本当に煽るのやめなさい」
「う・る・さ・い」
「おぇ……つ、掴むのやめなさい!」
これ以上掴まれても構わないから今度こそは朝美の横に戻った。
「やっぱり朝美の側が1番だわ……」
「ふふ、咲耶さんも彪葉さんもいい子ですよ」
「わかってるけどさあ……あ、いやあんたも意地悪だから微妙か」
「なんでですかあ……」
「冗談よ、あんたの側が1番よ」
だって好きな人間なわけだし。
その好きな人間に先程好きだと言って関係が変わったわけだし。
「いまはもうあんまり意味なくなっちゃったけどあそこにいてくれてありがとね、いい場所といい子を見つけられたんだから」
「……今日は攻め攻めモードなんですか?」
「駄目なの?」
「だ、駄目じゃないですけど」
どうせもうこの組み合わせが変わることはないから彼女の手を掴んで足を止める、彼女もこちらが止まったせいで強制的に同じになった。
「好き、だからあんたの家に行くわ」
「ふふ、わかりました、それでは行きましょうか」
それで今日はたくさん引き出そうと思う。
こっちばかり吐かされるのは不公平だからだ。
こういうのが昔から嫌いな自分だから我慢してもらうしかなかった。
11作品目 Nora @rianora_
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