第10話 不安定な心
おや、お祭り騒ぎの中に勇者一行が来て、更に騒ぎが大きくなってるね。取り敢えず、ギルドに行こうかな。依頼は、相変わらず平和的だね。
さて、これからどうしよう。
「おはようございます。」
あら、勇者一行が入って来ましたね。
ルカは、サッとフードを被り人混みに紛れる。そして、さりげなく冒険者ギルドから去った。しかし、冒険者達はそれを見ていて勇者を見る。
「勇者トウヤ様、ルカって商人を知ってるか?」
パルゴスは、素っ気ない雰囲気で問いかける。
「ルカさんって、ハルジオン商会のかな?」
勇者トウヤは、驚いてから明るく笑う。
「えっ!?あいつ、ハルジオン商会の商人だったのかよ!白銀の髪のハーフエルフ、合ってるか?」
「はい、ルカさんが何か?ルカさんは、ハルジオン商会の若頭の右腕にして商会1番の旅商人だよ。」
勇者トウヤは、周りを見渡しながら暢気に笑う。それに青ざめる、周りの冒険者達とルカに怪我させた荒くれ者達。パルゴスも、内心は焦るが堪える。
「実は、冒険者達が乱暴をしたらしくてな…」
すると、無表情になり笑ってない目で笑う。ゾッとして、思わず後退る。受付嬢は、気絶している。
「誰が、ルカさんに乱暴をしたの?」
「えっと、言えない。ルカが、許したからな。それより、勇者様はルカとどんな関係が?」
すると、勇者トウヤは真剣な表情をして言う。
「僕が召喚された国は、勇者を大事にせず経費をケチるような酷い国だった。でも、ある日に彼が手を差し伸べてくれたんだ。この世界の、常識や価値観などを教えてくれて。関連する本や地図を、紹介してくれたり食料を提供してくれたり。そして、あの酷い国から僕達を連れ出してくれた。彼は、僕達勇者パーティーの命の恩人なんだよ。」
パルゴスは、その言葉を聞いて気絶しそうになる。勿論、周りの冒険者達も手を止めて固まる。ギルドマスターは、苦々しく笑うと書類を書き始める。
そして、パルゴスは気になる事を聞く。
「なあ、黒髪を結んだハーフエルフを知ってるか?みんな、聖女の村を焼いたルピカって言ってる。」
「!?彼を、この国で見たんですか!あ、ルピカさんは無罪でした。魔法大国と練金国家が、ちゃんと証明しました。出来れば、会いたいのですが!」
勇者トウヤは、驚き真剣にくいつく。
「聖獣様が、黒精霊に憑かれてな。そしたら、月の綺麗な夜に闇中から現れてな。ルピカは、祈りの歌を聖獣様に捧げて帰った。聖獣様が、敬う仕草をしたから偉い立場なんだろう。とても、美しくって綺麗な歌声だった。聖獣様は、彼を導師エデルと言っていたが。導師って、勇者の導き手だよな?」
「つまり、ルピカさんは常に身近に居た?でも、ハーフエルフの知り合いはルカさんしか居ないし。ルカさんは、旅商人で僕達とは行動が出来ない。」
勇者トウヤは、うーん…っと考える仕草をする。そして、勇者トウヤは大事な事を告げる。
「それに、導師って直接的な干渉は禁止だよね?ルカさんは、ガッツリ食料提供や知識をくれてるし。それは、無いよね。けど、僕達に助言もしてるんだよなぁー。例えば、過去の勇者についてとか……」
すると、勇者トウヤ以外の全員が驚きの声をあげている。そして、勇者トウヤは迷うようにため息。
「取り敢えず、ルカに聞いてみたらどうだ?」
パルゴスは、暢気に言えば苦笑する勇者トウヤ。
「聞いたけど、はぐらかされたよ。本当に、不思議な人だよね。温厚で、聡明かつ気遣いも出来る。けれど、勇者関連はガードが硬いしミステリアス。」
ルカは、仕事を終えて帰ってくる。そして、勇者トウヤを見て固まる。えぇー…、まだ居たの?って雰囲気である。しかし、一瞬でいつもの笑顔。
「おや、勇者様こんにちは。」
「ルカさん、お久しぶりです。あの、今から暇はありますか?良ければ、お茶をしたいなって……」
勇者トウヤは、オズオズと言いながら首を傾げる。
「お茶ですか?その…、お仕事がまだまだ残っていまして。荷物を送ったり、リストや詳細を作る必要がありまして……ちょっと、今は無理ですね。」
ルカは、困ったように笑い謝る。
「いえ、僕の方こそごめんなさい。忙しいのに、お茶なんて無理ですよね。では、また誘いますね。」
「うーん、明日であれば大丈夫ですよ。明日は、観光をしようと思って予定を空けていたので。」
ルカは、少し考えてから優しく微笑み言う。勇者トウヤは、驚いてから年相応の嬉しそうな笑顔。
「やったぁ、良いんですか?あの、それと観光なら僕と行きません?他のメンバーは、別用があるんですよ。だから、1人なんですけど。」
興奮したように、嬉々と聞き返し提案する。
「それは、良いですね。お茶は、10時頃に僕が泊まっている宿でどうでしょう?セッティングは、僕に任せてください。勇者様達には、申し訳ないですがご足労ください。えっと、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ルカさん、ありがとうございます。いつも、断ってたのに何故許可したんです?」
ルカは、苦笑する。その瞳には、一瞬だけ悲しみと苦しみが過ぎる。パルゴスやギルドマスター、ベテラン冒険者達は真剣にルカを見ている。
「いつも、断ってばかりでなので。特に、意味とかはありませんよ。さて、仕事途中に狩った魔物を売るので、僕はここで失礼しますね。」
「あの、ルカさんはルピカさんですか?」
すると、ルカはキョトンとして笑う。
「違いますよ。何です、勇者様は僕が犯罪者だと思われているのですか?いくら、同じハーフエルフだからって失礼ですよ。まあ、良く同じ事を問われますが。僕だって、傷付くんですよ?まったく…。」
拗ねた雰囲気のルカに、勇者トウヤはオロオロ。
「やはり、名前ですか?名前が、似てるから?」
子供っぽいルカに、思わず場違いながら笑う勇者。
「すみません、何か可愛いく思えて。」
「まったく、変な事を言うし疲れてるのでは?」
ルカは、ジト目で勇者トウヤを見てため息。勇者トウヤは、頷き嬉しそうにその場を去る。
「さて、僕に質問でも?まあ、答えませんが。」
人払いされ、冒険者ギルドにはルカと受付嬢1人とギルドマスターとパルゴスが残る。人払いというより、正確にはギルドの閉店時間なのだが。
「お前、勇者に複雑な感情を持ってるな。」
パルゴスは、真剣にルカを見ている。
「さて、どうでしょうね。」
ルカは、素っ気なく言うと荷物を持ち歩き出す。
「お前は、勇者の敵か?」
すると、ルカは首を傾げる。
「逆に、敵だと思います?」
「いいや、敵には見えないが……」
パルゴスは、真剣だがルカはキョトンとしている。ルカは、困ったように笑うと素っ気なく言う。
「なら、良いのでは?」
3人を置き去りに、ルカは帰ってしまった。
ルカは、お茶の準備をしながら、少しだけ考える。今日は、勇者トウヤとのお茶会の日だ。ルカは、疲れたようにため息を吐き出している。
「何してるんだろ、僕。いつもみたいに、断って逃げれば良かったのに…。僕、どうしたんだろ?」
ルカは、お菓子を運ぶ。ルカ…いや、ルピカは分かっているのだ。勇者は、国の陰謀に巻き込まれただけで、自分と同じ被害者であると。そして、エミリーの事は友達としか思ってない事を。
僕は、あの日に恋心を諦めたのに…。まだ、諦めなくて良いのかと思う自分が居る。婚約は、破棄されてるのにね。我ながら、諦めが悪い。忘れてしまえれば、身も心も楽になるのに…。神様は、とても意地悪だ。何で、忘れさせてくれないのやら。
この思いを、消してはくれないのかな?
ルピカは、苦笑して深いため息を吐き出す。何にせよ、神様は僕の恋心を消す気はないようだ。
いつまで、僕は苦しめば良いのかな?僕が、何か悪い事をしたの?黒髪で、エルフの忌み子だから?そんなの、僕にはどうしようもないじゃない。
考えても、無意味だ。僕は、ルカとして楽しもう。
大丈夫、僕は分かってる。彼も、被害者だ。さて、準備は出来た。どうせ、お茶会するなら全力で取り組もう。美味しいお菓子、季節のフルーツを使ったものからバリエーション多めに揃えてみた。
お茶も、この季節に美味しい国の物、なおかつお菓子に合わせた茶葉を買ってみた。一応、食べたりして美味しさは確認済み。ルカは、小さく一息。
少しでも、勇者達がゆっくり出来たら良いなと用意してみた。そして、周りを見渡す。
そろそろ、勇者達が来る。
ルカは、ノック音に微笑むとドアに向かった。
「ルカさん、お邪魔します。」
勇者達は、嬉しそうに紅茶を飲む。そして、旅の話や愚痴をルカは優しく聞く。ルカは、たまに雰囲気を変えるように雑談を入れながら、勇者達のストレスを吐き出させる。最終的に、全員がリラックスしながら今後の予定話に花を咲かせる。
ルカが、自分が聞いて良い話なのか?と言えば勇者達は、信じているから大丈夫と笑い。ルカが、今後の旅路ルートを言えば、逆に聞いても良いのかと言われる。それにルカは、大丈夫だと笑う。
「久しぶりに、こんなにリラックスしました。本当に、ありがとうございますルカさん。」
「いえいえ、此方こそ楽しかったですよ。」
ルカは、片付けようとするが、既に女性陣が終わらせていた。ルカは、感謝の言葉を言って解散。
そして、勇者トウヤと待ち合わせをする事に。
ルカは、仕事用の服を着ずに、私服になる。待ち合わせ場所には、勇者トウヤ以外も居た。そして、ルカの私服姿に驚き感想を述べている。ルカは、微笑むとONと OFFのメリハリはつける事にしていると言う。そして、2人でお祭りの屋台を巡った。
ルカは、部屋に入ると苦笑する。
思いの外、精神的に疲れたと。そして、襲い来る眠気に身を任せ眠りにつくのだった。
安息の地を探して…旅紀行! @Kurohyougau
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