第9話 聖獣信仰国ノマルニ
さて、相馬車では基本は寝られない。特に、夜は命の危険が有るからね。やはり、多いなぁ…うーん、座ってばかりで体がバキバキ!
市場では、果物が多いかな?
「聖獣様が通られるぞ!」
なるほど、聖獣信仰国とは聞いてたけど。流石に、他国の商人や旅人…冒険者には、強制しないのは良心的かな。さて、何処に行こうかな?取り敢えず、宿を探したい。でも、その前にギルドに行ってみようかな。まだ、早朝だし依頼書も多くあるはず。
「うーん、なるほど。」
依頼は、小物ばかりだね。瘴気の被害も、聖獣様がいるせいか少ない。ただ、少し気になるのが妖精が少ないんだよね。となると、妖精喰らいが森に居る可能性がある。妖精喰らいは、早めに殺さないと土地が荒れて草木も生えない場所に高確率でなる。
まだ、影響は見られないけどね。
すると、妖精が肩に止まり助けを求める。
『あのね、妖精喰らいが暴れてるの!ねぇ、助けてよ!このままじゃ、皆んな死んじゃう!』
やっぱり、ここは平和だし森に行こうかな。
「大変だ!聖獣様が、お倒れになられた!」
気になるけど、森の方が最優先かな。
「お前、何処に行く?怪しい奴だな、捕えろ!」
いきなり、囲まれると捕まえられる。フードが外れて白銀の髪が乱れる。妖精達が、激怒して暴風が吹き荒れる。ルカは、驚き叱るような口調で言う。
「やめて、僕はそれを求めてない…」
すると、ピタッと妖精の攻撃が止まる。ギルド職員も含め、全員の視線が向けられる。乱暴な捕らえ方に、身体が痛むが表情に出さず傷などを癒す。
「すみません、お騒がせして。」
ルカは、困ったような笑顔で紳士に謝る。それを見て、冒険者達は優しく微笑む。そして、微笑んだ冒険者達はルカが癒した、冒険者を奥へ連れて行く。
「お前さん、ずっと真面目に依頼板を見てただろ?依頼書は、国の状況が見える際も身近なものだ。お前さん、険しい表情してたが何が見えたんだ?」
「……すみませんが、言えません。」
ルカは、悩む表情をして謝る。それを見て、青年は優しく笑う。そして、ルカの美しい見た目と疑問をぶつける。勿論、争いを避けるためだ。
「ふむ、お前さんハーフエルフか。だが、それにしても妖精や精霊に愛されてるな。何か、特別な血筋だったりしないよな?え、まさかのまさか?」
しまった、体が痛すぎて表情にでかな?あ、妖精達が慌てた様に集まって来た。だんだん、痛みが柔らぐのを感じて、フードを被ろうとする。
「待て、フードはおろしとけ。獣人は、顔を見せない奴を怪しむからな。取り敢えずだ、場所を移そうぜ?えっと、戦争とかは回避したいし!」
「それは、大丈夫かと。私は、旅商人ですから。その、ギルドの空き部屋を借りても良いですか?」
ルカが、困った様にギルド職員を見れば頷く。
「さっき、掴まれた時に千切れてしまって。」
肩掛けを見ると、ナイフで切り裂かれている。肩紐も千切れて、物が散らばっていた。ルカは、ため息を吐き出して散らばった私物を拾う。妖精も、一緒に集めるのを手伝っている。ルカは、思わず微笑んでいる。優しい子達だ、後でお菓子をあげないと。
一方で、獣人の青年は青ざめる。
「すぐ、誰か鞄を買ってきてくれ!」
「…大丈夫です。この国に、長居する気はありませんので。取り敢えず、お部屋をお借りしますね。」
ルカは、部屋に足早に行ってしまう。そして、着替える。すると、ノックがして返答する。
「ここには、俺しか居ない。だから、正直に答えてくれ。お前さん、実は高貴な血筋だな?」
「……さあ、知りません。ですが、高貴と言われる様な生活をした記憶は御座いませんし。」
ルカは、素っ気なく言うと座る。獣人の青年も、反対側に座り真剣にルカを見ている。
「俺は、獣王国の第五王子パルゴスだ。王位継承権は、無いから冒険者として過ごしている。」
「私は、旅商人のルカと申します。」
互いに、黙り込んでしまう。そして、パルゴスは沸を切らしてルカを真剣に見つめて問いかける。
「教えてくれ、依頼書から分かった内容を!」
ルカは、考え仕草をしてから説明する。
「街に、妖精が少な過ぎです。それも、異様な程にです。この場合、3つのパターンが考えられます。1つ、この国が禁忌を犯した。2つ、対等の誓いを破られた。3つ目は、妖精喰らいが出たです。」
ルカは、深いため息を吐き出して言う。
「それで?」
「まず、1番は有り得ません。瘴気が、見えないからです。2番もっと、有り得ません。もし、誓いが破られたのなら妖精は消えますから。となると、最後のが当てはまります。もし、妖精喰らいが居るなら、聖獣様も危険ですからね。妖精喰らいは、聖獣をも喰らう饑餓と枯渇と瘴気の精霊です。別名、黒精霊とも呼ばれます。それで、どうしますか?」
ルカは、真剣な表情でパルゴスを見る。おそらく、聖獣が倒れたのも黒精霊に取り憑かれたからかな。だとするなら、急いで黒精霊を祓う必要がある。
悪魔や幽霊、生き物に取り憑く厄介な存在は全て、最終的に取り憑いた者の命を奪う。
そして、聖獣が死ねば瘴気が侵蝕するんだよね。
祓うには、教会の教皇か神殿の神子様またはエルフの神巫女に頼むしかない。後は、僕が祓うかだね。
でも、僕はやりたくないかな。
魔力が無駄に、多過ぎるせいで姿を偽ってエルフの魔法は使えないからね。ルピカの姿は、なるべく見せたくない。けど、ヤバそうなら覚悟を決めよう。
エルフの魔法は、歌だからバレやすいんだけど。
「どうやって、その精霊を祓える?」
聞かれたので、取り敢えず答えるルカ。
「神殿の神子または教会の教皇、他国ならエルフの神巫女しか出来ません。この国に、教会は無いので神殿ですかね?でも、治ってない所を見ると……」
「ああ、治せる実力者が居ないんだろうな。」
さて、お昼になっちゃた。うーんと、宿も取らないとだし此処で切り上げよう。ゆっくり、したいけど慌ただしい生活だなぁー。お仕事もあるのに。
というのも、ハルジオン商会、やっぱり抜けられなかった。冒険者にはなって良いけど、やはり辞めると後ろ盾を失う事になるからだ。そうなれば万が一の時に助けられないかららしい。それに、信頼と実績が高いというのも問題だった模様。
他の商会に、奪われる可能性があるから。
という訳で、旅商人してる訳なんだよね。何で、一人で行動しているか。それは、僕がアイテムボックスやアイテムバック、異空間収納スキルを持ってるから。だから、荷物持ち…ポーターが必要ない。急ぐ訳じゃ無いから馬車も必要ない。身軽に行動できて、たくさん商品を運べるし戦闘も出来る。
まあ、いつかは仲間を付けるとは言われてるけど。
「あの、そろそろ良いですか?」
「ああ、すまんな。そうだ、分かってはいると思うが、この事は他言は無用で頼むな。」
パルゴスは、そう微笑むと手を振る。
「分かりました。」
ルカは、部屋を出てギルドを出る。
何とか、宿を探すと深いため息を吐いて予備の鞄を置く。そして、旅人のコートを脱いで掛ける。
「さて、定期報告しないと。」
ルカは、机に水晶鏡というアイテムを置く。床に魔法布陣を敷いて、品定めした商品を上に5個乗せてから立ち上がる。そして、水晶鏡に魔力を流す。
『ん?お久しぶりだな、ルカ。』
「やあ、お久しぶり。取り敢えず、品定めした商品を送っても良いかな?35品、取り敢えずある。こっちの旅は、トラブルだらけだよ。今は、聖獣信仰国ノマルニに居るけどそっちは大丈夫?」
取り敢えず、5品と書類を魔法布陣に魔力を流し転送する。ちなみに、転送布陣は希少品だよ。
『おう、いつもと変わんない。にしても、トラブルに好かれてんな。鑑定詳細と物品書類、それと買取価格と相場価格の書類も有るじゃん。さすが、有能な相棒だぜ。これで、捌きやすくなる。まあ、無茶だけはするなよ?取り敢えず、元気で良かった。』
ヤックは、心配そうに僕を見る。そして、嬉しそうに書類を流し読み。そして、お頭に書類を渡すと素早く部下に指示を出し、商品を倉庫に持って行かせる。ルカは、次々に転送する。
「さて、これでおしまいかな。」
『ルカ、儲け額はギルドの口座に入れとくな。』
ヤックは、暢気に書類を書きながら言う。
「うん、お願いね。じゃあ、また夜ね。」
『おう、俺もこれから会議だしまたな!』
ヤックは、若頭として忙しそうだ。まあ、僕には関係ないけど応援だけはしよう。若頭の右腕…か。うん、考えない事にしよう。それより、ご飯だ。
やっぱり、お肉ばかり…うーん、胃もたれしそう。
部屋に戻り、胃薬を飲む。それより、食堂で聞いたけど聖獣はついに動けなくなったみたい。仕方ないか、死んだら後が厄介だし夜に行く事にしよう。という訳で、夜に備えて寝ようかな。
さて、夜になったし通信しても良いかな?
『おわっ!ルカか、どうした?』
「実は、聖獣が死にそうなんだよね。」
単刀直入に言えば、ヤックは驚いた表情である。
『それは、困るな。何とか、出来るかルピカ。』
「良いの?絶対に、騒ぎにはなるよ?」
ヤックは、真剣に頷く。お頭も、無言で頷く。そして、師匠達や商会の重鎮からもGOサインを貰う。
「分かった、行ってきます。」
ルカは、眼鏡とイヤリングを外し微笑む。
『後で、ちゃんとヤックに報告しろよ?俺は、暫く商会にはいねぇからな?怪我するんじゃないぞ?』
お頭は、優しくルピカに言う。ルピカは、それに対して悪戯っぽい雰囲気で可愛いらしく笑う。
「あはは、怪我したら後で師匠達が怖いから。絶対に、無傷で帰って来るよ。お頭に、心配させると重鎮達の説教も長いし。皆んなも、頑張ってね。」
すると、師匠達の賑やかな笑い声と重鎮達の当たり前だろ?と言う雰囲気が聞こえ伝わる。
ちなみに、ルピカの時は敬語禁止だ。親に、敬語を使う子供は居ないだろ!って事らしい。ルカの時、敬語を使うが言われないのは仕事だから。
ルピカは、戦闘服に隠密コートを着ると姿を消し、窓から外に出る。そして、神殿に入り込む。
そこには、白銀の毛並みの青い瞳の王狼が、苦し気な息づかいで横になっていた。助けを求める様な、必死な視線で此方を見てくる。死ぬのが、怖い。そう、言われた気がした。大丈夫、絶対に助けるよ。
ルカは、ゆっくり座り優しく微笑むとフサフサの毛並みを撫でる。すると、王狼は目を静かに閉じる。
「うん、良い子だね。そのまま、ゆっくりして。」
そう、優しく言えば耳をピクピクさせる。
ルピカは、立ち上がり祈りの体勢になる。そして、周りの妖精を見れば真剣に頷く妖精達。ルピカも、無言で頷く。ルピカは、優しく微笑む。
「我、汝が為に祈りを捧ぐ。奏でたまえ。」
すると、妖精達が精霊楽器を構える。ルピカは、目を閉じて歌いだす。一言一言を丁寧に、しっかり魔力と祈りと慈愛を込めて。すると、大勢の人達が入って来る。そして、武器を構えるが動けない。
広がる魔法陣、そして祓われる黒精霊。
ルカは、歌い終わり王狼を見る。すると、王狼は平伏して敬う仕草をする。ルピカは、王狼を撫でると姿を消した。そして、全力で宿まで帰るのだった。
はぁ…、疲れたし寝ようかな。
ルピカは、ドアが開かないように魔法をかける。そして、報告を簡単にすると深い眠りに落ちた。
次の日、街中がお祭り騒ぎである。ルカは、小さく欠伸をすると露天を見て回る事にする。
「よぉ、おはよう。」
「おや、おはようございます。どうかしました?」
ルカは、微笑んで朝食を頼む。
「……お前か?昨日、聖獣を治したのは?」
「ん?えっと、聖獣様は治ったんですか?」
ルカは、え?そうなの?という雰囲気だ。そして、おめでたいと笑う。パルゴスは、それを見て勘違いだと思う。雑談をして、それぞれ宿から出た。
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