第8話 叔父と甥

ここは、ヘルエルド王国。多種族が共存し、様々な文化が生まれた芸術と文化の発展途上国。もともとは、戦闘民族エルド人が増えて出来た国。最初、戦闘力で王を決めていたが、エルフの賢者ミフィルガルドに知略で敗北。それから、他社族共存の旗を掲げ友好的な民族国家として世界に認められている。


だけど、戦闘民族の血のせいか気性も荒く、いまだに戦闘力主義者が多い危険な国でもある。


ちなみに、ミフィルガルドは母の兄らしい。王の相談役、巫女の家系の現在当主でもある。僕からすれば、叔父になるね。まあ、エルフの国には帰らないし、会う事も無いと思ってたけど。ちなみに、僕はエルフの国ではエデルと呼ばれているらしい。


意味は、楽園の守護者。


由来は、楽園を意味するエデン。それと、天使の名前に使われるエルから来ているとか。命名者は、不明だけど凄まじい力を持つ名前らしい。


何故、この話をしたかと言うと…この国に、ミフィルガルドが滞在しているらしいんだよね。


という訳で、エルフはここでは余り好まれない国。しかも、ミフィルガルド滞在中!しかも、宿で鉢合わせちゃった!いや、話はかけられてないけど。


けど、視線を感じる。


護衛さんが、冷たい視線を僕に向けている。うーんとだね、骨董品や画作の品定めと頼まれていた商品を渡したら、のんびり観光しようと思ってたんだ。


これは、無理だよね!


あ、このお肉ホロホロして柔らかい。きっと、じっくり煮込んで時間をかけて作ったんだろうなぁ。


現実逃避中…


さて、ここは素早く商品を渡しに外に行こう!


お代を払い、素早く宿屋を出る。あー、うん…。着けられてるね。まあ、やましい事は無いし良いけれど。でも、もう少し気配を消してくれないかな?中途半端に、気配を消しているせいか、視線を向けてしまいそうになる。ちなみに、住民さんもチラホラ気付いている。何か、すみません…迷惑かけます。


さて、訪ねるお家は此処かな?


「すみません、ハルジオン商会の者です。」


すると、曲剣が飛んでくる。まあ、殺気は感じていたのでナイフを抜き回避。すると、一気に距離を詰められる。回避できない、そう思っているからか笑うエルド人。別に、回避しなくても受け流せば良いんです。驚きに、目を丸くしてから体勢を整えようとする。しかしながら、僕はナイフを手放し腕を掴みそのまま、エルド人の青年を地面に転がす。


「さて、挨拶は終わりにしてくれませんか?」


ルカは、思わず冷たい笑みを浮かべて言う。


「うっ…、すまん。これが、ウチの挨拶なんだ。ようこそ、ヘルエルド王国へ。初めましてだな、ハルジオン商会随一の頭脳にして若頭の右腕…ルカ。俺は、マーブラ伯爵家の時期当主デルローだ。」


「私など、まだ未熟者ですよ。それより、商品をお持ちしました。ここに、サインをお願いします。」


ルカは、呆れた雰囲気で紙を渡す。


「分かった。それより、お前エルフだよな?」


「正確には、ハーフエルフ…まあ、エルフとヒューマンのまがい者だと思ってくだされば。さて、確かにサインを受け取りました。商品は、こちらです。それでは、私はここで失礼しますね。」


ルカは、立ち去ろうとするが腕を掴まれる。一瞬だけ、警戒したルカだが優しい掴み方なので止まる。


「ルカ、お前さ着けられてるぞ。その顔、知ってて放置してるのか…。まあ、気をつけろよ?」


心配そうに、ルカを見るデルロー。ルカは、軽く頷き笑顔で大丈夫だと言うとデルローは驚き笑う。


「まあ、何か困り事が有れば相談にこい。」


「えっと、大丈夫だと思いますが。そうですね、僕も半分エルフですしね。何かあれば、いろいろと相談したいと思います。まあ、早々に旅立つ可能性も有りますけどね。では、ここで失礼します。」


さて、宿に戻り夕食を食べる。前に座る、ミフィルガルド様。そして、優しいイケメンスマイル。護衛さん達は、別の人に代わってますね。おおかた、昨日護衛が表情に出過ぎていたので外したと予想。


「こんばんは、今夜は月が綺麗だね。僕は、そうだね賢者ミフィーとよんでおくれ。ここの宿は、かなり高いはずだけど君は若いのに凄いね。」


ミフィーは、エルフ語で優しく微笑む。ルカは、話しかけられるとは思わず、キョトンとしてから笑顔を貼り付ける。勿論、警戒を隠しながら。


「こんばんは、そうですね。私は、ルカとお呼びください。かの有名な、賢者様にお声をかけて貰えるとは光栄ですね。私は、これでも旅商人でして。ハルジオン商会で、お世話になっているおかげですかね。それなりに、稼がせては貰っていますよ。」


ルカは、白々しいと思いつつ顔に出さずエルフ語でスラスラと話す。ちなみに、普段は帝国言語。


「なるほど、所でルカくん。何故、君は姿を偽るんだい?とても、美しい姿なのに勿体ない。」


なるほど、精霊眼…。つまり、僕の本当の姿が見えているという事だ。ふーむ、困ったなぁ…。それにしても、美しい…か。失笑して、ルカは発言する。


「……冗談が、とてもお上手ですね。私は、罪深い存在です。分かってて、言ってらっしゃるのなら大変失礼な発言かと思いますが。」


思わず、冷たい声音になったのは仕方ない。


『その身は、生まれた罪で穢れ、その魂は神聖樹に戻る事も許されぬ。汝、災厄の化身となりて、世界を脅かし滅びを生み出すだろう。ここで、浄化されるが良い。お前は、禍種なのだから…。』


記憶に残る、エルフ司祭の言葉。僕は、5歳の頃に母に連れられエルフの村に初めて入った。しかし、そこで待っていたのは母と引き離され、首を絞められ殺されそうになる悲劇だった。


あの、トラウマは今でも忘れられない。


「君は、罪深くなんかない。ルカ君、いや我らがエデル。悪いのは、いつも我々なんだ……。」


「エデルが、何の事かは存じませんが。見えている貴方に、一言申し上げますね。私に、近づけばその身が穢れますよ?では、私はこれで失礼します。」


ルカは、素早く部屋に戻る階段を上がる。


「これは、嫌われてしまったかな?」


「あの日から、8年経過しましたが。傷は深く、触れれば痛むのでしょう。それに、彼は村を焼かれています。もしかしたら、本当に自身の事を…」


護衛ターヤは、深刻な表情で階段を見つめる。もう1人の護衛エドガーも心配そうである。


「…私は、どうすれば良い?分からないな。」


ミフィーは、苦悩するように悲しげな声をこぼす。


ルカは、翌日に旅支度をして外に出る。ミフィー達は、驚くがルカは何事も無く外へ去ってしまった。


ミフィーは、ルカもといルピカと仲良くなりたい。ただ、それだけで良かった。しかし、エルフ達がルピカにした罪の事実は消えない。ルピカは、警戒して懐には絶対に入れてはくれないだろう。


出来れば、戻って来て欲しいが、差別が完全に消えた訳ではない。また、きっと彼を傷つけるだろう。


ミフィーは、ゆっくり目を閉じて思考する。


ルピカ君の事は、ずっと調べていた。


何でも、ハルジオン商会随一の頭脳にして、勇者を始めとする権力者達が入れ込む凄腕の旅商人。優しい笑顔と、人当たりが良く紳士な態度で気遣いも完璧。そして、会話も面白いと人気なのだとか。エルフ国には、彼は来ないから人伝の情報だけどね。


確かに、姿の事を話すまで紳士で、優しくて良い雰囲気だったね。怒らせたのは、僕が悪かった訳だしね。困ったなぁ…せっかく、彼に奇跡的に出会えたのに…。彼は、するりと逃げてしまう。




はぁ…、とても疲れたなぁ…。次は、獣人国かな。


ルカは、無言で相馬車に乗るのだった。

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