第7話 やる気なし殿下と苦労旅商人

あれから、勇者達と食事をする事になった。別に、王太子とか他の皇子が居るのにな。あいつが、ルピカが紹介状を出したせいだ。まったく……。


「ルディアス皇子、ルカさんについて知りたいのですが。何か、教えてくれませんか?」


勇者が、真剣に聞いてくるけど無視する。不敬なのは、分かってるが親友の事を探るのであれば……


いくら、勇者でも許さん。


「ルディ兄様、勇者様に失礼では?」


「失礼なのは、勇者もだろ?本人の知らん所で、勇者の立場を利用して、探りを入れるのだからな。」


俺は、素っ気なく言うと上品に食べる。周囲から、俺を非難する声がするが構わない。あいつは、俺の初めての友達で唯一心底、心を許せる相手だから。


あいつは、知られたく無いと言っていた。だから、俺だけでも口を閉しあいつを守りたい。


**


あれは、俺に生きる希望をくれた。かつて、俺は帝宮で要らない存在として扱われていた。毎日、食事の隣に毒が置いてあり、食事にも毒が入ってた。


それが、嫌になり外に抜け出していた。お金は、持っていた。だから、一人で抜け出したのだ。


何をするか、迷っているとあいつは来た。


「ん?こんな所で、迷子か何かですか?」


「いや、暇だから休んでるだけだ。」


すると、あいつは何かに気づいて青ざめる。服装には、帝国印が刺繍されていた。そいつは、慌てて上着を被せると深いため息を吐き出した。


「君、護衛は?何で、変装してないの?」


真剣な表情で、初めて俺を怒ってくれた。


「護衛は、信用できない。服装は、いつものだ。」


すると、深いため息を吐き出して言う。


「取り敢えず、服を買った方が良いかも。」


「これで、買えるだろうか?」


白金貨を3枚出せば、あいつは苦笑して言う。


「足りるけど、庶民の服を買うんでしょ?なら、白金貨を出せばトラブルになる。仕方ない、僕は旅商人だから揃えてあげる。明日、ここに来て。」


「なぜ、俺に親切にする。何が、目的だ。」


俺は、警戒しつつも言う。こいつが、悪い奴では無いのは分かってた。けど、疑ってしまったのだ。


「君が、寂しそうだったから。目的は、何も無いけど強いて言うなら暇潰しかな。僕は、旅商人で帰ったばかりでね。とっても、暇なんだ。」


あいつは、そう笑うと手を振り去った。


次の日、あいつは庶民というより少し裕福そうな服を持って来た。俺には、貴族っぽさがあるらしい。仕草や、行動に気をつけても、分かる人には分かると言った。着心地は、普通だしそこまで悪くない。


「お金は、崩して来た?」


「いや、崩そうにも出来なかった。」


すると、あいつは俺を連れてお店に入る。紅茶とケーキを、頼むと店員が去ったのを見おくる。あいつは、鞄からお金をだして白金貨を崩してくれた。


「それは、商会のお金か?」


「違うよ、これは僕個人のお金。鞄から出したように見えて、実は異空間ボックスの魔法を使ってるんだ。だから、音も聞こえないし安全だよ。」


あいつは、あっさり崩して俺にも確認させた。


「使えるなら、君もそうした方が良いよ。」


ケーキと紅茶は、とても美味しく驚いた。


「美味しい…な。そうだ、お前の名前は?」


「僕?僕は、ルカだよ。君は、ルディって呼んでおくね。愛称だけど、駄目なら言って。」


紅茶を飲みながら、優しい目で俺を見る。


「怖くないのか、俺は黒い髪の人間だぞ?」


「ん?んー、それがどうしたの?」


キョトンとして、あいつはイヤリングと眼鏡を外した。俺は、驚いて固まった。俺よりも、黒い髪そして知性と優しさを宿す翡翠色の瞳。


「僕も、君と同じだから。大丈夫、怖くない。これは、秘密だよ。もし、誰かにバレたら僕は…。いいや、何でもないや。取り敢えず、約束してね。」


そう言うと、変装してから紅茶を飲む。何か、訳ありなのだろうか?一応、しっかり調べるか。その日は、そのままルカに夕食を奢って貰った。ルカは、食事が終わると仕事書類を見ている。


「そろそろ、旅に出ないと行けない。楽しかった、また何処かで会おうね。もしかしたら、その時は皇子と旅商人としてかもしれないけど。」


「そう…か。それは、寂しくなるな。」


俺は、思わず言葉に詰まる。


「そう?あはは、2日間ありがとう。」


あいつは、嬉しそうに笑うと静かに部屋を出た。


「また、俺は1人になるのか…。」


ルカについて、深く調べた。


本名は、ルピカ・セフィアス。世界樹を守る、エルフの巫女の血筋で神樹に選ばれし者。そして、聖女の許嫁。しかし、世間では村を焼いた犯罪者。しかし、それは嘘で彼は被害者である。父親は、Sランク冒険者で現役活躍中で世界を飛び回っている。


まて、神樹に選ばれた者って……。


まさか、本人は知らないとか無いよな?ちなみに、この世界には3つの神樹がある。1つは、精霊王が降り立つ場所にある精霊樹だ。守護するのは、確か歴代最強の賢者である森の賢者。2つは、エルフの隠れ里にある世界樹。守護するのは、エルフの巫女やその血筋の聖職者だ。3つは、世界樹の少し離れた所にある知恵の樹だな。これは、竜が守ってる。


世界樹は、太陽と生命を司る。


精霊樹は、月と死を司る。


知恵の樹は、星と生死の間を司る。


本人には、言えないな。というか、知らない方があいつには幸せな気がする。俺は、暖炉に紙を投げ入れた。そして、忘れる事にしたのだった。


次の日、ついにメイドが毒を飲むように言た。執事は、止めたが兄弟達もついには言い始め、嫌がらせがエスカレートしていった。心は、ボロボロだったんだ。だから、死ぬ前にあいつに会いに行った。


「ちょっ、こんな遅くにどうしたの?」


「別れを、言いに来たんだ。」


すると、あいつは振り向いてからいう。


「ごめん、席を外して!」


すると、その場の全員が足早に移動していく。そして、あいつは振り向いて心配そうに俺を見る。


「ルディ、お別れって?」


「もう、皇宮に俺の居場所なんて…」


ルピカは、驚くと真剣かつ優しく言う。


「いったい、何があったの?」


静かに、涙を流し苦しげに俺はあいつに言った。


「皆んな、俺に死んで欲しいらしい。俺も、死にたいはずなのに…それなのに、怖くて死ねない。」


「生き物が、死に恐怖を感じるのは当たり前だよ。同時に、君の本能は生きたがってる証拠なのさ。」


あいつは、優しく微笑むとそう励ました。


「俺は、死にたく無いのか?」


「少なくとも、僕には生きたいけど苦しいって、助けてって聞こえるよ。あのね、君がどんな苦しみと戦ってるかは知らない。けどさ、僕で良いなら吐き出しちゃえば良い。どんな言葉でも、しっかり受け止めてあげるからさ。大丈夫、僕は裏切らない。」


俺は、気付けば吐き出すように言っていた。ルカはただ、静かに頷いて俺が全部を言い終わるまで、ちゃんと待っててくれた。気持ちが、少しだけ軽くなった気がした。あいつは、おれにお茶を出してくれた。とても、甘くて優しい味だったのを覚えてる。


それから、暫くして父親が俺の周りの人達をクビにした。残ったのは、紳士執事のダミルだけだ。そして、新しいメイド達は俺を虐めなかった。


聞いた話、旅商人を名乗る少年がS級の魔物を倒す代わりに、俺の周囲に関して改善を要求した。そしてだ、討伐して帰ってきたらしい。そして、少年は俺と友達だと言ったから素早く改善された。父親である皇帝は、ルカとの敵対を避けたのだ。おそらくだが、皇帝もルカの正体を知ってるのだろう。


「ルカ、俺の為に動いてくれたんだな。」


「まあ、友達の為だからね。」


ルピカは、暖かい笑顔で言う。そして、ルピカに俺が過去を調べた事を正直に話した。


「もう、困った人だな。秘密だよ?」


ルピカは、笑うと暢気に言う。


「勿論だ。お前の秘密は、俺が墓場まで持っていくから安心しろ。もし、バレたら他の奴からだ。」


「うん、ありがとう。さて、仕事しなきゃ。」


ルピカは、鞄を持つと手を振り部屋から去った。それから、俺達は良くお茶をしたりふざけたりした。


ヤックとも、仲良くなり楽しい日々が始まった。


**


だから、勇者であっても言わない。周りは、俺を非難するが友人を売るくらいなら死んだ方がマシだ!


「えっと、ごめんなさい。けど、ルカさんにはずっと助けられてた。だけど、信用して良いのか分からなくって。その、敵か味方なのかが。」


「ふーん、ずっと支援を受けていて、更に助言をくれた相手を疑うのか。それは、あいつも傷ついただろうな。あいつの事だ、敵でも味方でも無いって言いそうだが。俺から、話せる事はない。」


俺は、冷たく突き放す。出来れば、ルピカには幸せになって欲しい。だが、一筋縄とはいかないか。


「そうですか。なら、行くしか無いですね。カーラムド、ルカさんが教えてくれた場所に。」


「カーラムドは、勇者達が治めた土地だ。勇者が、死んで人々は去りゴーストタウンとなった。帝国が、召喚した歴代勇者の遺物でもある。そこに、ルカが行けと言うなら、それは行くべきだと思う。」


さて、書類仕事が残ってるし行くか。


「あの、もし良ければお友達になってください!」


「俺の友達は、ルカとヤックだけで十分だ。」


そう言うと、立ち上がり部屋をさるルディアス。それを、落ち込んだように見る勇者だった。


ルカは、今どこに居るんだろうか?


**


うーん、海は綺麗だね。そろそろ、隣の大陸かな?よし、今日は寝て明日は街中を探検しよう。


ルピカは、布団に入り眠るのだった。


妖精は、優しくそれを見守る。疲れてたのか、すぐに安らかな寝息が聞こえる。妖精達は、そんなルピカを見て悪戯をしない事にするのだった。

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