第9話
雫を受けた蓮の葉が、たおやかに揺れる。
リィシアは庭に降り、いつもより強い雨に眉をひそめた。軒下に戻り、庭を眺める。思い出されるのは、昨日の葬儀だ。
一条の光が差し込んだのも束の間、空は再び雲に閉ざされた。
夏季の訪れを待たずして、養老院の老女・ヨウラは永眠した。
身寄りのないヨウラの葬儀は、養老院でひっそりと行われた。
ある者は俯き、ある者は手巾で目元を押さえ、涙をこぼした。管理者夫妻も、スンも、王弟とその側近も。
全く泣かなかったのは、リィシアだけだった。
絹雨は止むことを知らない。明くる日も変わらずに、空はさめざめと泣く。
衣ずれの音で、リィシアは我に返った。
「……おはようございます、殿下」
こちらから挨拶すれば、相手も気づき、言葉を返してくれる。
「おはよう、お嬢さん」
王族も貴族も、たやすく名乗らない。王弟も、リィシアを「リンハン家の娘」としか知らない。リィシアも、王弟の真名を知らない。名を明かすのは、親族か、愛する仲の者だけだ。
「殿下は、もう少しお休みになられては」
「雨の音がうるさくて、寝られない。それよりも」
王弟は目を細め、リィシアを凝視する。
「きみのことが心配だった」
歩みを寄せられ、リィシアはその分だけ下がり、距離を置かんとする。しかし、庭に降りる段差の手前で、これ以上下がることができない。リィシアは抱きしめられ、息をのんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます