口が裂けても言えないこと
「断ったんだよ、…俺。」
遠くから電車が走ってくるのが見えて、遮断桿が大きな音をたてて降りてくる。そんな喧噪の中にいるはずなのに、2人は静寂に包まれていた。真理は俯いたまま顔を上げることなく、小さく一言だけ呟いた。
「どうして、、なの?」
「それはっ…。」
言えない言えるはずがない真理が好きだなんて、この関係が壊れてしまいそうで。そう思えば思うほど、洋介の顔が真っ赤になる。あの日とは全く逆の状況になっていた。
「ごめんね。私が訊いて良いことじゃない、よね。」
訊いて欲しかった、何でなのかを。そうすれば、「真理が好きだから。」と言えそうな気がしたから。待ち合わせ場所に到着してから数十分しか経っていないはずなのに、久遠の時間を過ごしているように感じる。
「私、今日は1人で帰るね。じゃあね。」
そう言うと真理は遠退いていってしまう。元々、小さかった背中が、さらに小さくなる。手を伸ばせば届く距離、いや、それ以上に近くにいたにはずの真理が、どれだけ手を伸ばしても届かない距離に行ってしまう。その距離が、今の真理との心の距離を表しているようで、どうしようもなく胸が熱くなる。これ以上、離れて欲しくない。
「まっ待って!」
周りに人がいなくて良かったと思えるぐらい、予想以上に大きな声が出た。しかし、そのおかげで今までの心の中の葛藤が吹き飛んだ。
「待ってよ、真理。言わなくちゃいけないことがあるんだ。」
「・・・・・・。」
真理は小首をかしげて不思議そうにする。
「本当は言うつもりは無かったんだ。でも、今ではそんなこと馬鹿馬鹿しいと思ってる。」
「何のこと?田端さんとのことかな?『ごめん』の言葉ならいらないよ。」
「違うよ、その話じゃない。そもそも田端とは知り合いでも何でもないんだ。」
「信じられないよ。いきなりそんなこと言われても。」
洋介の中で「信じられない」の言葉が反芻して、決意を弱まらせる。負けそうになる意思を何とか立て直して、言葉を紡ぎだす。いつかは信じてもらえるように。
「今は信じてもらえなくても良い。真理に知って欲しいことがある。」
綺麗だった夕陽は既に沈み、気づけば辺りは真っ暗になっていた。坂に設置されている街灯が灯り始める。丘の上高校の生徒は既に帰宅したようで周りに人の姿は見えない。折り返しの電車でも通るのだろうか、遠くで遮断桿が降りる音が聞こえる。
「本当の俺を、見てほしい。そのうえで、真理の思いを聞かせてほしい。」
そう言うと突然、洋介の口が左右に大きく広がり始めた。何事かと目を白黒させている真理に、洋介は真理への全ての思いをこの言葉にのせて問いかけた。
「俺、格好いい?」
————Fin————
口が裂けても言えないこと… Protain公爵 @1-page
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