第10話 ツクネ要警戒!

1号線をガンガン進み、車は湖西道路に進入する前の最後の信号まち。


このまま1号線をまっすぐ進めば蝉丸神社がある。あの百人一首の蝉丸法師を祀る神社だが、まだ一度も参拝したことがない。


車や原付バイクでこの横はたびたび通るのだが、なぜかご縁がなく気になりつつも素通りするのが通例になった。もちろん歴史好きの私からすれば、いつか立ち寄りたい場所ではある。


しかし進入路や駐車場の関係から車での参拝は避けたいし、公共交通機関はコロナの影響で使いづらい。残ったのは原付バイクだが、もうすでに廃車すんぜんの年寄りバイクなので、新車でも購入しないかぎり遠出は不可能だ。


それでも強行して、逢坂の関でエンストしたらこんな歌を蝉丸法師にささげたい。


「止まったよ 車がビュンビュン 怖いよね 行くも帰るも 逢坂の関」


我ながら良い歌だと思うので、百人一首プラス1として認定してくれ、文科省の方々。


ここから先は大津市。湖西道路を北上しても1号線を東上しても、大津市圏内をとおる。


大津市と言えば、紫式部の引きこもり場所として有名な『石山寺』、格宗開祖オールスターがご自慢の比叡山延暦寺、延暦寺と長年犬猿の仲だった三井寺、ちはやふるで名を馳せた近江神宮、などなど私が行った場所だけでもこれだけある。


それ以外に個人的な関係で、すぐキレる我がまま皇子の日本武尊やまとたけるのみことが御祭神の『建部たてべ大社』も、穴場スポット。どう穴場かと言えば、ときどき真夏の日に運が良ければ琵琶湖の風がふく。


涼しかった思い出、それが超穴場の所以ゆえんだ。文句あっか?


おっと、これを忘れてはいけない。ある日、2代目家主様の気まぐれで高級ファーストフード『モ○バーガー』をご馳走になったことがある。いやあ、今思いだしてもあそこのフレンチポテトは絶品だった。


(正式名称はフレンチフライポテト、検索して判明)


他にもフィッシュバーガーをポテトの副食としていただいた。めったに食えないだけに思いだすと腹が鳴る。ぐぅぐぅうるせえな。


残りの大津市ヒストリーの中では、運送屋時代に大手化学企業『東○』へ、ボックスティッシュを運んだことがある。でけえ工場にびっくらこいたもんだ。


私も偉くなったらこれぐらいの工場で、エビせんを作ろうと心に誓う。


いまだに工場はおろか、マイホームもマイカーも持ててはいないが、死ぬまでにいつか夢を叶えようと、日々精進する毎日。


断っておくがいつかいつか詐欺ではない、必ず成しとげるべき既定路線、なので貧乏人のひがみと勘違いするんじゃないぞ下々しもじもよ。


大津市の行った場所については、いずれ『うろうろ日記』でばっちり書くので、読みたい人は有料で購入してくれ、値段は1話25円。まあまあ高額だが、文学賞の『ドブ川で賞』を受賞する予定の私の文章、安いと思わない奴らはケツバットだと思え。


ケツバットがわからないだと?


尻をふにゃふにゃの棒でたたく刑罰だ、なんでも叩かれるのが好きな奴は悲鳴をあげて喜ぶらしい。それを人は変態さんと呼ぶ。



信号が青になり、グローバルカンパニーのコンパクトカーは前進をはじめ、いよいよ湖西道路に突入。


湖西道路は無料だが、自動車専用道路で125CC以下のバイクは通行禁止。あんがい知らないで侵入してしまう原付バイクのなんと多いことか。


侵入したら最後、お巡りさんの営業活動に引っかかるので、原付バイクや自転車の人はじゅうぶんに気をつけよう。


私は自動車なので安心して侵入し、長いトンネル1つと短距離のトンネルいくつかを通りこす。トンネルの照明光度は・・


光度についてはどうでもいいと、読者からクレームが聞こえてきそうなので、今回だけは割愛する。


左に比叡山の山容をながめ、右に琵琶湖(通称大きな水たまり)の下流域をチロッと横目に入れてる最中、タイミングよく東○秀樹氏の『越天楽えってんらく』が、カーステレオから流れてきた。


現代楽器と和楽器のコラボはいつ聞いても清々しく荘厳で、琵琶湖と空と自然の風景と見事にマッチする。


犬もそう感じているはずと、後部座席をバックミラーで確認。


老犬は思った通り何も感じないようで、クッションの上で丸まってやがる。


しょせんは畜生、高尚な楽曲など理解できるわけもなく、夢の中でお肉やメス犬の尻を追いかけるのがせいぜいだろう。


崇高なる犬の夢は置いといて、車は紅葉にはほど遠い比叡山のよこを進軍。最初は2車線だった道路も、ナメクジに塩をかけたようにしぼんで1車線へと変更。


制限速度を守ろうと守るまいと、1車線に逃げ場はなく追い越し不可なので、遅い車両を先頭にカルガモの親子的に車列がのびる。


私は制限速度が心情なので問題ないが、普段からバヒョンバヒョンスピードだすヤツにとって、ここは地獄の路線。


スピード狂にざまぁみやがれ、などといつもは抜かされる立場の私は、密かに心の中で舌をだす。みたいに性格の良いドライバー、それが私だ。


このようにカルガモの親を先頭に車が大渋滞も、湖西道路のあるある風景。


気長に音楽やラジオを聴いたり、ときおり住宅街を見つけては、家屋の1つ1つに人の生活や人生があるのだと、作詞家的な思考をめぐらしたりもする。


夜の走行になれば、この灯りの1つ1つに個人の人生や生活があるのだと・・


車は妄想にふける私とオムツ犬を乗せて雄琴おごとインターチェンジへ。


雄琴ICインターチェンジでは、何度も一般道にチェンジしたことがある。例のことだが初代家主様の尿意が近い。したがってパーキングエリアの少ない湖西道路では、トイレ確保がむずかしく何回も途中下車する。


コンビニやスーパーなどに立ち寄り生理現象を処理、トイレだけ借りるのは気が引けるので、体裁を整えるため商品を購入。そんなことは日常茶飯事。


雄琴ICを降りるとすぐのところに、近畿圏ではそこそこ名を知られるスーパーがあり、そこが初代様のマーキングポイント。(マーキングとは犬が縄張りを主張する行為)


私は安全確保のために、初代様がトイレで生理現象を処理中、店舗内に不審者がいないかチェックを入れる。


あのコロッケが怪しい、その惣菜は都会にはない珍しいタイプ、この菓子パンはどこにでも売ってるけど、美味そうだ。


などなど、室内点検に余念がない。


厳重に警戒しているうちに初代様がトイレから店舗内へ。私は初代様のそばを警護し、初代様がショッピングカートに商品を入れるのを、徹底的にチェックを入れる。


献身ぶりが評価されたのか、初代様はたまに私の好物をカートに投げ入れる。


私は目ざとく惣菜棚にならぶ甘辛い豆腐ツクネに視線をおくり、初代様に警戒をうながすと、ツクネはカートの中へ。あとで私が毒味をする予定だ。


そんな風に、緊張感のあるボディーガードを終えて車内に戻ったことは、1度や2度ではない。


これも重要なる任務で、欠かすことのできないドライブワーク。


今は亡き初代様との懐かしい思い出を胸に、私と老犬を運ぶ車が雄琴を過ぎてゆく。

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犬の話かジジイの話か? 枯れた梅の木 @murasaki123

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