【読切短編】殿堂勇者makita

よっち

殿堂勇者makita

「ダメよマキタ!この魔物甲羅が硬すぎて斬撃も魔法も効かないわ!」


「流石は四天王玄武様ってか?俺に任せろ!

【ハンマァァァァ!ドリルッ!】


 俺は具現化したハンマードリルで甲羅を打ち砕くっ!


 工具魔法、それは工具を具現化できる召喚者だけが使える魔法だ...そう、俺とアイツだけが使える魔法。


 ◆◆◆


 現場の休憩時間、俺たちはタバコを吸いながらいつも口論していた。


「やっぱ電動工具は大正義マキタだろ」


「いーや、日立のクオリティをなめるな!」


 俺、牧田充まきたみつる日立光輝ひたちこうきはどの現場にもいる工具マニアである。

 お互い自分の苗字と同じメーカーに心酔しているためよく口論が起きる。


 そもそも現在の現場は充電工具を使う事が多く100Vのコンセントを使うものと違い充電池を使い回すために工具のメーカーを揃えるのは半ば常識と化している。


 各メーカー得意分野があるため一概には言えないのためこう言う自慢とも批判とも言える話はよくあるのだが俺と光輝は工具マニアの為ついつい熱くなってしまうのだ。


 工具マニアとは電動工具や充電工具を個人所有したがる人間で年に1〜2回しか使わない工具でもお金に余裕があれば買ってしまう習性がある、普通は会社所有の物を借りたり業者からレンタルするのが普通なんだが。


 その日もそんな言い合いをして休憩を終わり作業に戻ろうしていたら所だった。


「あぶない!」

 誰かの声が響いた瞬間、俺と光輝の足元にあった床が無くなった!

 崩落事故!?

 と思いながら俺と光輝は闇の中へ落ちていった...。


 ◆◆◆


「それが勇者召喚と魔王召喚だったなんて...なっ!」


 甲羅を失った玄武にトドメを刺しながら俺は呟く。


 あの後俺は気がつくと城の大広間にいて勇者の事、工具魔法の事などを説明されたのだが光輝の姿は無かった。


 魔王軍との戦いが避けられず仕方なく戦い始めた俺に届いた一報は魔王復活の知らせだった...。


「まさかアイツが魔王になっちまうなんてなぁ...」


 俺は工具魔法を具現化出来る伝説の武具、ペンインパクトドライバーを鞘...じゃないホルスターに差しながら振り向いた。


「ありがとうございますマキタ、貴方のおかげでここまで来れました」


 そう言うのは旅の連れの聖女騎士、アリアだ。


「おいおいまーだ最後の難関が残ってるだろ?四天王は倒したんだから次は魔王だな。

 というかアリア、あまりにも他人行儀すぎないか?昨夜はあんなに「ミツル!ミツル!」っておうわ!」


 唐突なビンタによろける俺。


「い、一線を超えたからってそんなに馴れ馴れしく出来るか!

 お前はマキタだ!マキタマキタマキタ!」


 四天王最後の1匹である玄武を倒せばあとは魔王の元まで一息だったからな、俺から思いを伝えて昨夜やっと結ばれたってわけだ。


「そ、それに...私を本当の意味で欲しいのならば見事魔王を討ち取って...その...改めて結婚を申し込んでくれ...ミツル...」


 あー!ハイハイ!可愛すぎるだろうちの彼女!真っ赤な顔して最後なんか消え入りそうな声で俺の名前呼んでくれたし!


 この世界で最愛の女を手に入れた俺は魔王を倒したあと戻れるという選択に悩むことが無くなった。


 アリアを連れて戻れるなら戻る、それが無理ならこの世界に骨を埋めるつもりだ。


「さーて、じゃああのヒタチマニアにちょっくらお仕置きしに行くとするか!」


 ◆◆◆


「ここが魔王の間か」


 やけに大きく豪華なドアの前に俺たちはたどり着いた。


 これまで倒してきた朱雀、白虎、青龍、玄武。

 四天王のいずれも巨体と魔法を誇る強敵だったのだが全員城に入れないデカさだった。


 故に城に入ってしまえば出てくる敵はそれ以下しか居らず俺とアリアはサクサクと魔王の間までたどり着いたのだった。


 まぁ普通の軍隊だと四天王の1匹も倒せないんだから仕方ないのかもしれないけど。


 バァン!


 勢いよく扉を開け放つとそこは玉座のある部屋、そしてそこに座る一人の男。


「とうとうここまできたか、勇者マキタよ!」


「へっ、説教しにきてやったぜクソ光輝!」


 ウィーン


 俺がそう言うと魔王はくっくっくと笑い始めて。


「コウキ?ああ、この身体の主か。

 やつの意識なら出てこないぞ?

 我はコウキではない、魔王!HIKOKIハイコーキだ!」


 魔王軍なんてらしくねぇと思ってたがあの馬鹿身体乗っ取られてやがったのか。


「ふっ、ダラダラと喋っていても仕方あるまいさぁかかって来い勇者よ!」


 そう言って魔王は構える...あれは!?


「くっくっく、わかるようだな。

 これは伝説の武具、コードレスインパクトドライバーだ。

 此奴の身体を得た事で我も使えるのだよ!工具魔法がな!」


 ウィーン


 くそっあれは日立版ペンインパクト!しかも光輝の工具コレクションならほぼ俺と同等って事か。


「ああ、いいぜ!来いよ魔王!大正義マキタの力思い知らせてやる!」


 俺はペンインパクトドライバーを構えて叫んだ。


「くらえ!【全ねじカッター!】」


「ふん、【全ねじカッター】」


 ガキィン!


 ウィーン


 具現化した全ねじカッター同士が噛み合って刃の部分が欠けて対消滅する。


「やるじゃねぇか、だがこいつはどうだ?【ハンマ!ドリル!】」


「不毛な...【ハンマドリル】」


 ◆◆◆


 その後出す工具出す工具相殺されて対消滅を繰り返す。


「つまらぬがこうも工具を壊されては今後の人間界侵攻に差し支えるな、滅びるがいい!勇者よ!【クリンプボーイ!】」


「ぐわあああああ!」


 魔王の力で具現化された圧着工具をかわそうとしたが避けきれず左手を押しつぶされる!


「ふむ、仕留めきれなかったか。

 だがその怪我の痛みでは工具に集中出来まい?我の勝ちだな」


 そう勝ち誇る魔王。


「くっくっく、馬鹿が!やっちゃいけない事をやりやがったな!」


 ウィーン


 俺は圧着工具を出せなかったんじゃない!出さなかったんだ!


「たしかにカクタスのクリンプボーイはいい工具だ、俺も持ってるよ。

 だがなぁ!現場で使いはしてもこのバトルでは使わない!

 工具魔法は工具への愛だ!俺と光輝にはそれがあるがお前にはねぇ!」


 そう、圧着工具は30万オーバーの高級品だ、俺も光輝も推しメーカーから出たところで個人ではおいそれと買い換えれない物なのだ。


「愛がないお前ではその魔法はフルパワーを出せていない!ギリギリかわせたのがその証拠だ!そして日立を裏切ったお前にはもう工具のフルパワーは出せまい!」


「ぬう...」


 魔王が絶句する。


「もう相殺はさせねぇぜ?【36Vハンマドリル!】」


「うおっ!【ガードフェンス】」


 今度はミドリ安全のガードフェンスか、そういえばアイツ現場で必要だって買ってやがったな。


「かっかっか!愛がなんだと言うのだ!防いでしまえばそんなものどうでもいいであろう?

 これだけの工具を具現化したのだ、貴様の魔力も間もなく尽きるであろう、最後は我の魔力の前に沈む運命なのだ!」


 ウィーン


 確かにもうガス欠寸前だ、いいぜ?最後の仕掛け見せてやるよ!


 俺はフェンスが消えた瞬間魔王の前に飛び込みペンインパクトドライバーを振り下ろす!


「物理攻撃だと?そんな物防ぐまでも無いわ!」


 そして俺は唱える。


【ペンインパクト】


「ギャー!」


 魔王から悲鳴が上がる。


 ペインインパクト、すなわち永続的に痛みと衝撃を与え続ける魔法だ、さっき魔王が言ったように痛みが酷いと工具魔法は具現できない。

 工具の間違った使い方をした俺ももう工具魔法は使えない。


 ならばこの場で最強はアリアだ、すなわち...俺たちの勝ちだ!


「ぐおおおおおお!まだだ!ぐぁああああ!我も貴様も弱くなったならば...その聖女騎士の身体を奪うまでよ!」


 光輝の口からドロリと真っ黒な粘液のような物が抜け出しアリアに向かって地を這う!


「逃げろ!アリア!」


 ウィーン、シャカシャカシャカ!

 ギャー!


 あ、ロボットクリーナーに掃除されてる。


 そういえば囮にでも使えないかと部屋に入る前に具現化してたんだった。


「おわっ...たの?」


 アリアがペタンと尻餅をついた。

 俺はアリアのそばに歩み寄って。


「とりあえず左腕治してくんない?そのあとはあのクリーナーに浄化魔法をかけてくれれば終わるよ」


 と、にっこり微笑んだ。


 聖女騎士であるアリアの魔法で左腕は完治、クリーナーにかけて貰った浄化魔法で魔王は消滅した。


 あ、そういえば光輝。


 振り向いた俺が見たのは痛みで泡を吹いて気絶している光輝だった。


 ◆◆◆


 あれからしばらくして、今日は俺とアリアの結婚式、そして光輝が日本に帰る日だった。


「助けて貰っといてなんだけど正直死にそうな痛みの中ラブラブお医者さんごっを見せつけられた時は殺意が湧いたぜ」


 そう憎まれ口を叩く光輝もにっこり笑っている。


 あの後三人で城に戻った俺たちだがやはり帰還の魔法は一人しか戻れないとの事。

 ならば俺はアリアと生きていく為にここに残り魔法は光輝に使ってもらう事にした。


 王様としても魔王が滅び四天王もいない今工具魔法が使える光輝には日本に戻って貰った方がいいと言う判断をしたようだ。


 帰還魔法で戻ればあの日あの時間に戻れるらしく俺は。


「じゃあすまないが現場の続きは任せたぜ、俺の工具は全部お前にやるよ。

 メーカーはマキタだけどお前の工具愛なら日立と両方使いこなせるさ」


 そう言って車の鍵や家の鍵を渡す。


「しゃーねーな、使ってやるよ。

 ま、一番は日立だけどな」


 光輝はそう言って笑った。


 その後世界の救世主である俺とアリアの盛大な結婚式が行われ俺は褒美として一生遊んで暮らせるだけの財産をもらった。


 だけどこっちでもちゃんと働かなきゃな!可愛い嫁の為俺は頑張るぜ!


 ◆◆◆


 そして夜になって城の大広間。

 俺とアリア、それに王様達が見送る中光輝の足元の魔法陣が光りヤツは日本に帰っていった...。


 ◆◆◆


「おっと、やっと帰って来れたぜ!本当にあの時の休憩開けなんだな」


 俺、日立光輝は帰って来たことを実感しながらも休憩明けですぐに作業に取り掛からなきゃいけない事を思い出して動こうと思ったが次の作業に必要な工具を車に取りに行かないといけなかった事を思い出す。


「ふっふー、数年ぶりの俺の工具ちゃん達ー」


 この世界では時間は経っていないが体感的には数年ぶりなのである、俺はウキウキでバックドアを開ける。


「え?壊れてる?これも!これも!嘘だろ!?」


 俺は嫌な予感がして充からもらった鍵で充の車も開ける。


「こっちも全部壊れてるじゃねーか!」


 ああ、あれだ。

 魔王に乗っ取られてた時に見た光景。


 アイツの工具と俺の工具が相殺してぶっ壊れる光景だ。


「あれ比喩表現とかじゃねーのかよ!ちくしょー!ぶっ殺してやる!」


 その光輝の叫びは異世界へと聞こえる事は無かった...。


 電動勇者makita


 完

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