第25話

シモンとナナは警戒しながら下りて行ったが、まったくの杞憂だった。

下りる途中で何度か銃声がしていたことから、ある程度は予想していたが。

3階を下り2階へ。

2階では数人の死体を発見しただけで、生きている衛士はいなかった。

そして1階のフロアを抜け、2人で両手を上げながら出口付近に停まっているトラックに近づいて行った。

ゆっくりと歩くシモンの視線の先には1人の衛士の後ろ姿が居て、小脇に見覚えのあるヘルメットを抱えている。

「誰だ!?」

と怒鳴りながら銃を向けたのは別の衛士であり、その赤いラインの入ったヘルメットを抱えた人物もまた、こちらに振り向いた。

その人物はもちろんアルバートであり、シモンは初めてその素顔を見たが「父親には似てないな」と思った。

金髪は同じだが、父親であるドン・ガバレロのムキムキの身体や厳つい顔と違い、ほっそりとしている。

「よお、隊長さん。生きてたんだな」

そう言ってひらひらと上げた手を振るシモンを見て、アルバートは空いている手を振って銃を向ける衛士を制止した。

「ジミー、大丈夫だ。…お前たちも無事だったんだな。他にあの階に居た衛士は?」

恐らく、質問するまでもなく理解しているのだろう。

その緑の眼が、シモンの身に着けている装備や2人が手に持っているライフルへと注がれている。

それらを最初から装備していないことは分かっている以上は、どこからどうやって調達したかは明白だ。

「あんたの元部下たち、っていうよりも副衛士長殿の潜り込ませた奴らなら全員あんたと落ちたよ。この装備は別口からだ」

シモンのその言葉に、ジミーと呼ばれた衛士が目出し帽の下で驚いた顔をしたのが分かった。

それは隣に立つアルバートも同様だったので、「ダスティから話しを聞き出した」と言うとジミーにビル入り口の見張りを頼んで歩き出した。

入り口で警戒していた衛士とアルバートも含め、4人の衛士が生き残っていた。

しかし、生き残った4人=裏切らなかった衛士という訳ではなく、残念ながら死んでしまった者も居たのかもしれない。

残った衛士たちは1人が乗ってきたトラックを調べたり、もう1人が物を運び込んでいる。

着いて来るように手招きされたシモンとナナがついていくと、作業しているのとは別のトラックの陰に入ってからこちらに向き直った。

「…話しを聞かせてくれ。ダスティからという時点で嫌な予感がするが」

顔を顰めながら言うアルバートに、ダスティの言っていた話しを伝える。

ついでにアルバートが落ちた後に何があったかも報告しておいた。

それと、ダスティを縛り上げて上の階に放置してきたことも。

そうすると、アルバートの顰めていた顔がますます強張っていき、最後には「くそっ、あの野郎」と悪態を吐いた。

悪態の相手は裏切った部下へか、ダスティか、ベンジャミンか、それともその全員なのかはシモンには分からなかった。

「ベンジャミンはここに来ていたみたいだが、既に帰還した後のようだ。奴の専用車であるハンヴィーの轍が残っている」

アルバートが指す方を見ると、確かに町の方から来たタイヤ跡がまた町へと戻ったことが分かる。

「俺たちはすぐに準備して、ソールに戻る。幸い、俺が運転できるから足の心配はない。お前たちも直ぐ出れるように…」

準備しろ、と続けたかったのだろうが、その言葉はシモンが遮るように上げた手に阻まれた。

訝し気に見るアルバートへ、シモンは疑問をぶつけた。

「あの空を飛ぶサッキはどうするんだ?まさか、あのままって訳にはいかないだろう?」

シモンの言葉に、アルバートは眉を寄せた。

それと同じく、今まで大人しくしていたナナも無表情のままではあったが、シモンの横顔をじっと見つめた。

「それはそうだが、今の装備ではどうしようもない。幸い、ビルの上階に居なければ見逃してくれるらしいし、真っ向から挑めるような相手でもないからな。…心配しなくても報酬はしっかりと払うさ」

それを聞いて、シモンは安心した。

お宝を全て回収するためにはキジへの対処が必要不可欠になってしまった以上、それにも巻き込まれるのではないかと思っていたが杞憂だったようだ。

その後アルバートはジミーと共に上階へ行き、キジに見つからないようにこっそりとダスティを回収、残った衛士はいくつかのパソコンや死んだ衛士の持っていた銃器をトラックに載せていった。

様々なアクシデントが起こった今回の探索は散々だったが、一応収穫もあった。

ただ、町に帰還した後にまた厄介ごとに巻き込まれる可能性を考えると手放しで喜ぶことはできないが…。

(…とりあえず、今のところは喜んでおこうかな)

シモンはそう思った。

死人や裏切りが起こったりサッキからの襲撃があったが、シモンとナナには怪我らしい怪我も無く、失ったものは何もない。

それどころか銃器やタクティカルベストなどの収穫さえあった。

ソール内のゴタゴタはシモンにとってはどうでもいいし、知ったことではない。

(ま、なるようになるだろ…)

そう考えるシモンを乗せて、トラックは町への帰路を走り出した。







「第2フェイズ失敗。対象は脅威から逃亡。計画の変更が必要」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る