第5話 言えよねーちゃん

って言ったって、結局は何も変わらない。

あれから何度か、オレがブチ切れて、「オレは知らないからな!」って、片付けをしないと心に決めたけど、

ねーちゃんは、まったく気にせずに、自分の部屋からリビングにいろんな物を運んで来ては荒してくれる。足の踏み場がなくなるほどに。

キッチンなんてひどいもんだ。

ねーちゃんはゴミ出しもしない。

1週間で、家は住まいではなくなった。

見て見ぬふりをするというのは、簡単なようで難しい。せめてリビングやキッチンを通らずに生活できたらいいのに、トイレや風呂を使うためにはやっぱりリビングを通るし、なんだかんだでキッチンは使う。

見て見ぬふりをしたら結局、それが自分に返ってくる。

大事な休日は、大掃除の日となるのだ。

オレは現実から逃避するための修行をしながら、家事手伝いという花嫁修行をしているのか…。いや、オレは嫁ではないな…。

結婚など遠い夢だ。だってずっと彼女もいないし。「健太には彼女いんのかなぁ…」ついぼやき、人と比べて『俺も、ずっといないよー』と言うのを期待してしまう。

人の幸せを願う余裕は今のオレには無い。

だが1人。世界にたった1人、誰か好きになってくれる相手と出会い、幸せに暮らしてほしいと願う人がいる。ねーちゃんだ。

だけど、奇跡でも起きない限り、ムリだろうな。はい、ため息。

さてと。オレはゴミ袋を片手に、この荒れ地を開拓すべく立ち上がる。

服やタオル、本、ハガキ、チラシ、の中からとりあえず拾いあげるバーキン。1週間分のバーキンの残骸。

ねーちゃん、頼む、片付けろ。

せめて、これぐらいは片付けろ。

そして、オシャレなわけじゃないんだから、服を散らかすな。

ええい、服もゴミ袋に入れちまえ。

オレは諦めた。きちんとたたんで整理した服や部屋を見せればねーちゃんだって学習して、片付けるようになるのではないかと考えていた。けど、もうそれを期待するのは止めた。散らかったねーちゃんの物は、全部半透明のゴミ袋に入れてねーちゃんの部屋の前に。

「これでよし!」

窓を開けて、テーブルの上を拭いて、掃除機をかける。

穏やかな風が通って、、いい、、き


ガチャッ。

ねーちゃん帰って来た。

あれ、いつものあれが無い。

「ねーちゃん、バーキンどうしたんだよ」

「聞いて!! わたし、賞とったの!」

「(無視か…) ぇ? え? なんの??」

「聞いてください! 私の書いた小説が! 賞を取りました!! 嬉しくて!! この何年も何年も書いて書いて頑張った気持ちをあんたに伝えたくて、走って帰って来たんだよ〜♪ 弟よ! お姉さんは、やりました!! ぅほ〜ぅぃ♪」

「ショウ? 小説?」

「うん!!」

「…って、ど、どんな話し?」

「んとね! ある日、ハンバーガーショップで働く平凡な男が不思議な力を持って、美しい地球を守るために、戦う話し! 巨大な悪の力で何度も地球をめちゃくちゃにされるんだけど、どんなに辛く悲しいことがあっても、絶対にあきらめないで、美しい地球に戻すのよ。」

「へー。どっかで聞いた話だな」

「読む??」

「ぅん、、いいや、だいたいわかる。

おい、ねーちゃん、その前にさ、オレになんか言うことないのか?」

「…。…。…ぁ、」

「なに」

「ただいま」


ちがうよ!!!

片付けてくれてありがとうございますだろうが!!

散らかしてごめんなさいって言えよ!!!

お前が悪の巨人じゃぼけ!

オレは今まで何度も吐き出してきた、今にも口から爆発して出てきそうなそれを飲み込み、

「うん、おかえり」と、言った。


人は何故、どうでもいいようなことに夢中になるのだろう。そして人生までも捧げてしまうのだろう。冷静に考えれば、なんでもそうだ。夢中になれる事があって羨ましいって?

まあ、、そのおかげで迷惑を被っている人がいる事をお忘れなく。

 

「ねーちゃん、お祝いに、鍋でも食うか」

「うん!」

「野菜も食えよ」

「うん!!」


どうやら、ねーちゃんは空想の世界に迷い込んでいたらしい。地球をめちゃくちゃにする巨人が、ねーちゃんの頭の中で大暴れしていたのだから散らかしっぱなしもしょうがない。バーキンのヒーローに、オレも救ってもらえないだろうか。

ねーちゃん、次は、片付けられない女子が、恋でもして、ときめく生活を送るようになる小説を書いてくれ。



結局オレ達はお互いに現実から逃避しながらしばらくこうやって暮らして行くだろう。

              〔じゃあな〕











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ねーちゃんは上の空 モリナガ チヨコ @furari-b

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