『辻沢のアルゴノーツ ~鬼子のエニシは地獄染め~』は、現代と江戸時代を舞台に繰り広げられる壮大な物語です。物語の舞台となる辻沢は、遊里の華やかさとそこに潜む陰影が見事に描かれ、読者をその魅力的な世界へと誘います。鬼子という異界の存在や「エニシ」にまつわる謎が幻想的な味わいを添えつつ、歴史研究や人と人とのつながりを丁寧に紡いでいます。
主人公クロエと伝説の遊女・夕霧太夫、二人の女性が時を超えて交錯する宿命の物語には、心を動かされずにはいられません。遊里の賑やかな空気感や祭りの熱気が生き生きと描かれ、あたかもタイムスリップしたかのような感覚を味わうことができます。読み進めるたびに、辻沢という町がまるで自分の故郷であるかのような親しみ深さを感じさせる、非常に心地よい作品です。