【第三章】同じ人種  ニ.異空間

 先程受けた傷口をかばいながら、村長は政府側を睨みつける。頼もしい姿ではあったが、やはり無理だ。村長だけではどうにもならない。

「一緒に逃げよう!」

『彼』がそう言うと、村長はそっと振り向き、その顔は笑っていた。

「大丈夫だ。何も心配するな」

あまりの落ち着きっぷりに、『彼』とライリーは一瞬黙る。『彼』はまだ動揺していたが、ライリーがすぐに行動に移した。能力で片手に盾を出し、もう片方に銃を出した。村長が何か隙を作ってくれると信じて。


 村長が政府の連中に向かって話し出す。

「お前たち、『何も無い世界』に行ったことはあるか?」

何も無い世界……そこにいた皆が、何を言っているんだろうと思った。そして村長はおもむろに政府側の少し横の方に右の手のひらを向けた。

「君たちは何かに掴まってなさい」

そう言った途端、政府の連中がいるすぐ横の空間がねじれ出した。『ねじれた』という言葉が合っているのかは分からないが、確かにそこで何かが動いてる。そしてそのねじれがだんだんと開き、真っ暗な楕円の空間が生まれた。

「なんだ!?」

政府の人間が困惑していると、だんだんと風が吹き出した。本や紙切れなどがその空間に吸い込まれている。だんだんとだんだんとその吸い込む力が強くなる。

「まずい」

政府の上の立場の人間が咄嗟の判断で家の柱に捕まったが、他の奴らは一歩遅く吸い込まれていってしまった。


 『彼』とライリーもその力に必死に耐える。そしてライリーを先頭に、徐々に地下室の出口へと向かった。

「アレはきっと能力」

ライリーが話す。

「村長もそうだったんだ。とても頼もしいわ」

ライリーはこの状況下で嬉しそうだった。しかし『彼』はなんだか違和感を感じた。まだあの空間はあり、残り一人の政府の人間が必死に耐えてる。

「よし!」

急にライリーが何かを決意したように、真剣な顔つきになった。そして手に持っている銃を政府の人間に向ける。狙いを定める。


 一発の銃声が鳴った。その銃弾は、政府の人間が必死吸い込まれまいとし掴んでいる木の柱に命中。柱が壊れて、真っ暗な空間へと吸い込まれて行った。

「すごい! やった!」

『彼』とライリーは喜ぶ。そして村長の方を向いた。……村長は床に倒れていた。口から血を流して。

「村長!」

二人が急いで駆け寄ると、村長はもう生き絶える寸前だった。

「待って! 僕が今治すから!」

『彼』がそう言うと、村長は『彼』の手を押さえ、小さな声で話す。

「もう……無理だ。それにこれは私の能力のせいだから治すことができん……」

村長の最後の言葉だ。二人は直感的にそう思い、黙って話を聞く。

「黙っていて悪かったな……。私にも名前があるんだ。最後に二人を守ることができで良かった……」

泣きそうなのを必死に堪えて聞く。

「私の名前はな……私は……ミリアっ……」


 村長の顔はとてもよく笑っていた。何かを成し遂げた人間のように。村長の声はもう無く、地下室にはただ二つの啜り泣く声だけが聞こえるーー。

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NAME〜覚醒と希望〜 ひろ丸 @HiRo1204

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