【第三章】同じ人種  一.緑色の光

 ライリーの意識はだんだんと薄らいでいく。『彼』が近くにいるのを感じるが、力が入らない。『彼』は必死にライリーに声をかける。

「ライリー! しっかり! 死んじゃ駄目だっ」

もう彼女に対する怒りという感情は無くなっていた。ただただライリーを死なせたくない。その思い一つだけがある。『彼』の優しさは、人並み以上であった。

「そこを動くなよ。全員殺してやる」

政府の人間のその声は、今まさに銃弾を浴びせようとしている声だった。圧倒的な絶望感を感じながらも、村長は『彼』と倒れているライリーの前に立ち塞がる。

「お前だけでも逃げるんだ! ライリーはもう……」

村長のその言葉は、『彼』には届いていなかった。『彼』の頭の中では、いろいろな考えが入り乱れて混乱していた。


 また銃声が鳴る。村長の右腕に銃弾が命中する。痛みで苦しむ声。その声にようやく『彼』が反応する。

「村長っ!」

もう駄目だ……。そう思った時、『彼』の目線に先程の本が見えた。そして、ふと思い出す。

「さっきの一ページ目……」

そう言うと『彼』はそっと目を閉じて、ライリーの体に両手を添える。


 緑色の光。それが『彼』の手のひらで光出した。右の手の甲にあった傷跡も一緒にーー。

その光に周りの皆が唖然とする。そして最も驚く事が起きた。両手を添えていたライリーに緑の光がまとわり、なんと銃で撃たれた傷が塞がり出したのだ。出血も止まり、ライリーの顔にだんだんと生気が戻ってくる。

「能力……」

村長が驚き、そして少し嬉しそうな顔をする。

「お前もやはりそうだったのか」

光が消えた。ライリーをじっと見つめる。政府の連中もその場をただ唖然と見ていた。そして……ライリーが目を開けた。


 「あれ?」

ライリーは何が起きたかも分からず、『彼』と村長を見た。

「私、撃たれたはずじゃ……」

そう言った瞬間、『彼』はライリーに抱き着いた。

「良かったっ。本当に良かった」

心から『彼』はそう思う。

「何っ。ちょっと離れて!」

ライリーは少し照れ臭そうにする。そこへ村長が話しかけてきた。

「どうして能力が使えた? まさか……」

『彼』が答える。

「うん。この本に僕の『名前』が書いてある。それに能力のことも」

ライリーが驚いた顔で『彼』を見ていた。

「あなたにも『名前』があったの!?」

はしゃいだ様子で聞いてくる。ライリーにとって、同じ境遇の人物がいたことは嬉しいことだった。

「ライリー、君の傷を治したのは『彼』の能力によってだ」

村長がそう説明すると、ライリーはまた驚いた顔をし、そして感謝をする。

「そうだったんだ。ありがとう」

素っ気ない言葉ではあったが、それは確かに心のこもった言葉だった。


 ライリーがはっとしたように質問する。

「それで……『名前』なんていうの?」

『彼』がその質問に答えようとした、その時だった。地下へとまた違う政府の人間が降りてきた。他の政府の者とは違い、体格は大きく、武装している武器も大きい。

「さっきの見ていたぞ。やはり全員殺さねばならん」

そう言うと、さっきまでいた政府の人間が道を開ける。恐らく上の立場の人間なのだろう。

その威圧感に圧倒される『彼』とライリー。しかし村長は違った。

「二人は逃げなさい。私が時間をかせぐ」

村長が血迷った……そう思ったが、村長のその言葉がこれから真実になるーー。

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