第5話 さぁ、今日も楽しいゲームを続けましょう!
「え? ちょ……、み、みんな! 見えてる?」
自分でも目を疑ってしまった。ゲームのキャラクターがこちらに話しかけているなんて、正常だとは思えないじゃない。
私は疲れていて、幻覚が見えているんだ。
同時に考えてしまう。こんな夢みたいなことが自分だけに起こったら、どんなに素敵なことなんだろうかって。
期待と不安でごちゃ混ぜになる頭を整理しようと思ってリスナーに助けを求めたけれど……
み、ミツルちゃん? さすがにおかしなった?
もうダメです、限界です
衛生兵ー! 衛生兵ー!
中に誰もいませんよ
コメント欄におっさんがいまーす
なんか草とは言えない状況やし、もう寝よ?
「えっと、アハハハハ〜。やっぱり少し疲れちゃったかもねぇ」
私だけにしか見えていない。やはり幻覚を見てしまっているんだろう。
でもそれならさ……逆に面白いじゃん!
私は椅子から立ち上がり、キッチンに鎮座する相棒に駆け寄った。もちろん出すのはお馴染みのコイツ! キリリと冷えた最高にハイになれるやつ!
私の出した結論はこうだ。
”全部、夢ってことにしようぜ!”
マイナスな感情を、500ml缶に閉じ込められた炭酸で一気にお腹のそこまで押し込む。
難しいことは何にも考えない。ただやるのみだ!
「さーて、ガソリン入ったらし! ぜっったいに中ボス倒すところまでやっちゃうんだから!」
炭酸でやける喉に、大声は少し辛い。でも爽快感と高揚感が身体中を駆け巡っていく。
キターーー!
安直だが、良いでしょう!
草
草
草
なお、自枠で飲酒しながら配信をするのは初めてである
踊るコメント欄も私のことを励ましてくれている。こんなに応援されているんだ。
もう弱音なんて吐かない!
そう息巻いていると、またキャラクターからメッセージが飛んでくる。
『貴女に伝えたいことがあっただけなんだ』
真っ白のずんぐりむっくりのキャラクターは「ただ……」と言い澱みながらも私の方を真剣に見つめてくる。
なんでだろう? 夢だって言うのに、こんなにリアルな感じがするんだろう?
思わず「なによ、どうしたのよ?」と言う言葉が口から溢れ出していた。きっとこれもマイクには入っていない、ほんの小さな音だ。
それと同じくらいの音で、キャラクターは呟く。
『続けてほしい……どうか、私たちを見捨てないでほしい』
目が、胸が熱くなる。ダンディな声してるくせにこんな弱々しいところ見せられちゃさ。
『神様(プレイヤー)がやってくれないゲームなんて、本当に寂しいじゃないか?』
一瞬視界がぼやける。ダメだ……なんだか泣きそうになっちゃってる。モニターから視線を外し、そして自分の気持ちを整える。
「あったりまえじゃない……始めたからにはやってやるわよ!」
そんな風に言われちゃさ、こう返してやるしかないじゃない!
「私を誰だと思ってんのよってね! みんなに笑顔を届ける……櫻庭ミツルだってぇの!」
そう宣言して、私は再びゲームの世界に身を投じた。
その瞬間、彼が私に言った言葉に胸を打たれた。だから集中してゲームに臨めたんだと思う。
そこから程なくして、私は中ボスを撃破することができた。
でもなんで適性の武器がハンマーなのか……もう少しカッコいい武器が良かったなぁなんて思いつつ、そのままゲームを続けてどうにかクリアすることができたわけだ。
これが私が『クソゲーキラー』だなんて呼ばれるキッカケになったお話なんだけれど……また機会があったら続きのお話でもしましょうか。
それまではまた、細々と配信を続けることにしましょうかね!
中堅の個人Vtuberなんだけど……ゲームに息詰まってスト◯ロ飲んでたら、ゲームキャラの声が聞こえて来るようになった私はそろそろダメかもしれない。 桃kan @momokwan
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