第4話 どん詰まりの息詰まりだ


 『今日で絶対にクリアのきっかけを掴んでやるんだから!』


 なんて意気込んで始めたのがおよそ6時間前。調子にのってた時期が私にもありましたよぉ、なんてね……


 シャワーを浴び、色々と家事をこなした上でいざ戦闘体制が整ったと言わんばかりに椅子に腰掛けた私こと、櫻庭ミツル。


「みなさーん、おはようございますー! 今日もパッと笑顔のお花を咲かせましょう、櫻庭ミツルです!」


 正直ゲームスキルも特筆したものはなく、トークもそこまで面白くないと言われた私がリスナーの皆さんにアドバイスをもらってようやくこの挨拶に落ち着いたんだけど、


 昨日、配信後すぐにストゼロをキメた人の配信ってここですか?

 キャラ付けに必死で草

 飲んだ翌日でも結構綺麗な声してるのは素直にすげーよ

 美空様の配信を見るに、間違いなく10缶は飲まれていた様子

 どんな胃袋してんだよww

 そこだけは普通じゃない、みっちゃんすげーわ

 とりあえず草

 草

 草

 草


 今日もコメント欄では『草』の文字が踊っているけれど、もうそれも慣れたこと。まぁ最初は泣きそうになったけどさ。


「なんか今日も見知ったコメントばっかりだけど、昨日のゲームの続きをやっていきましょう!」


 不思議と今はそれも笑ってスルーできると言うか、むしろコメントを残してくれることがありがたいことだなって最近は思えている。だから出来ればもっと楽しんでもらいたいとすら今は思っているし、もっと見てくれる人が増えてくれればなぁって……うん、ちょっと邪な考えが頭をよぎったからこれ以上は考えないでおこう。


 とりあえず今はこのゲームを少しでも進めるのだ! ちょうど配信画面上では、セーブをしてくれるキャラクターが相変わらず気怠そうにこちらを見ている。


 そんな顔しないでよ。今からじっくりプレイするんだから。



「さーて、今日はがっつり進めちゃうよ!」


 とリスナーの前で公言していた自分を殴ってやりたい。


 理由は簡単。ゲームを再開してからこっち、ほとんどシナリオが進んでいない状態なのです。


 なに? 6時間も何してたんだよって? そりゃこっちの台詞ですよ!


 その理由を語るには、改めてこのゲームのシステムというものを整理しなくてはいけないのですが……このシステムこそがこのゲームを『クソゲー』たらしめている理由なのです。


 このゲームは到ってシンプルで、『キャラクターに適性のある武器を持たせる』だけなのです。しかしこの『武器を持たせる』と言うところにこのゲームの落とし穴があるのです。


 世界中に武器がどれほどの種類あるか、そう想像したことはあるでしょうか? 剣? 槍? 弓? メリケンサック? 鎖鎌? 挙げたらキリがないってことくらいは容易に想像がつくはずです。振り回す類だけでも、投擲する類のものでも数多あるわけですよ。


 このゲーム、その中からキャラクターに適性のある唯一つを見つけ出さないといけないのです。

 それだけなら簡単じゃないか、と思うでしょ?


「でも二刀流とか使いたいじゃん……厨二心がくすぐられちゃうじゃない」


 そう。そんな武器でも使えるからこそ、自分が好きだなって思うものを使いたくなるのは仕方がないことではないでしょうか?

 実際に私もゲームを始めてから、自分が格好良いなぁ思うものを優先して装備して戦闘を続けていたんだけれど、全然成果を得ることが出来ていない! 具体的には一番最初に出てくる中ボスが全く倒せない! 


 本来なら中ボスが倒せなくて詰みになるから、レベルを上げてと言う話になるんだろうけど、昨日もおさらいした通り、このゲームにはレベルというものが存在しないのです。ただあるのは『武器を試しに使ってみて、相性の良いものを見つける』だけなのです。しかもステータス上では判別できないからとりあえず使ってみるしかない。そしてこのゲームの憎いところは戦闘すればするほどお金だけは溜まっていくと言うもの。とりあえずお金はあるので、いろんな武器を試してくださいねーと言うような気前の良さなのである。


「今朝から始めてほっとんどおんなじ画面だよ。撮れ高も何にもないよ」


 思わず握りしめていたコントローラーを机の上に投げ出し、コメント欄を横目に見ながら身体を椅子の背もたれにグッと預ける。


 さすがに飽きてきましたな

 でもこのゲームクリアしたことなかったから、ミツルちゃんがクリアするのを期待している

 このゲーム、まじでドM製造機ですわ

 このヒントのない感じ……興奮せずにはいられないなッ!

 とりあえず草とだけ


 少しずつコメントの数も少なくなってきてるし、私も体力的に辛くなってきたかもしれない。思い返す冒頭の自分の台詞に少し頭を抱えながらもう何度目になるか分からないセーブをしてくれるキャラクターの顔が画面に現れる。


「ほんと、これ……どうしたら良いのかなぁ」

 思わず泣き言が口から溢れる。しまった! そう思いながら配信の画面を見るけれど、私の呟きには誰も反応していなかった。

 その代わりに、「黙りこくってどうした?」「まさか自棄になってストゼロキメに行った?」などと文字が踊っている。


 マイクにはほとんど入らないくらいの音量だったんだろう。私は胸を撫で下ろしながら、ゲームの画面を再び見るとまた文字が踊っていた。



『まだまだ諦めるには早いんじゃないか?』



 それは励ましの言葉だった。今度は見間違いじゃなく、間違いなくその言葉がこの可愛らしいキャラクターのメッセージボックスに描き出されていた。

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