第3話 始めたからにはやり遂げるしかない。
「え? えぇ!!」
一人ぼっちの部屋の中、素っ頓狂な音が口から漏れた。思いの外大きな声になってしまったかもしれなかったのだけれど、そこは頑張って防音設備を整えた部屋なだけに、反響はほとんどしなかった。
見間違いだったのか? それとも本当にそんなメッセージが映し出されていたのか……
「ダメだぁ、ちょっと飲みすぎたかもしれないや」
ボンヤリする頭を抱えながら、机の上をふと見ると調子に乗って私の身体の中に収められたアルコールの残骸が5、6本積み上がっている。
それに続いて、自分がおかしくなってしまったのかもしれないと思える、画面に映し出されたメッセージ。
「これは……今日はもう寝た方がいいかな」
ゲームのキャラクターが話しかけてくたら面白いよねなんてそんなことを空想しながらも、自分が正常な思考をしていない。酔ってしまっているんだと断じることにした。
そうして私が選んだのは完璧な思考停止。
いわゆるお布団の中に入って『すやー』と言うやつだ。
自分の熱で布団が温められていくに連れて、アルコールのせいでぼうっとしていた意識が薄れていく。多分これは明日起きたら二日酔いで頭を悩ませるやつだなぁ。でもいいや、何だか心地良い感じもするし……
あぁ、ゲームの画面消し忘れちゃった。
でも……まぁスリープモードになるからいっか。
煌々と光るモニターを薄らと眺めながら私の意識が夢の中へと消えていく。
いや、もう夢の中だったのかもしれない。またそのキャラクターが話しかけてきたような気がした。何ともキザったらしい、少しウットリしてしまうバリトンボイスで。
『休みことも重要だ。明日への活力を養いたまえよ』
大きなお世話だよ。でも……ありがと。
「……何だか思った程ヒドくないなぁ」
朝。普段なら酒盛り明け特有の気持ち悪さで唸っているところだけれど不思議とそんな様子はなく、むしろ爽快な気持ちすらあった。だからかは分からないけど、起こした身体は不調を訴えるどころか空腹を知らせる音を鳴らしていた。
昨日は配信を始める前に少しおにぎりを食べただけで、その後お腹に入れたのがスト○ングゼロだけ。
一度お酒を飲み始めるととことん飲ん兵衛みたくなってしまう自分にため息を吐きながら、昨日の残骸を片付けるべくキッチンからビニールを準備して机の前を睨みつけた。
酒盛りの後、一番億劫なのはやはり片付けでございましょう、みなさま。
「しかしこの机の惨状たるや……やっぱり私って酒乱なのかな?」
昨日机の上に積み上げられていた缶は確か5、6本くらいだったかと思っていたのに、今数えてみると軽く10 本超えている。調子にのって飲み過ぎたことには後悔しつつも、中身がしっかり空になっていることを確認しながら一本一本袋の中に放り込んでいく。
机を占領していた缶の山が片付いていくに従って、昨日の『あの出来事』が気になってしまった。
「昨日……絶対に聞こえたよね?」
そうだ。聞こえていたし、見えていた。眠る前のことを思い出しながら、最後の缶を袋に入れ終えてゲームのスイッチを入れた。
「そうだよ、このキャラクターがなんかすごくダンディな声で話しかけてきたんだよ」
ゲームのタイトル画面を確認しプレイ画面に切り替わると、画面に映し出されたの私が操作するキャラクターとプレイヤーのセーブを受け付けてくれるキャラクターだ。
ずんぐりむっくりとしたマスコット然とした風貌から、あんなダンディな声が発せられたと思うとすごく来るものがあるなぁ。
「でもまぁ、美空さんも言ってたしね、クリアしますよ……絶対にね」
そう呟きつつ、キチンと頭を起こすために一旦汗を流すことにする。
今日は仕事もお休みだからね、今日で絶対にクリアのきっかけを掴んでやるんだから!
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