第2話 いつだって、図星を疲れるのは痛い
美空さんの言葉に頭が混乱しながら、彼女の配信ページに急ぐ。
画面に映し出されれているのは最近美空さんのお気に入りのブロックを積み上げて色々作っていくオープンワールドゲーム。ピョンピョンと画面の中で飛び跳ねている美空さんのキャラが可愛らしいなぁとぼんやり考えながら、少し声を出してみる。
「えっと……」
案の定配信画面から聞こえてきたのは、先ほど「ガラガラするな」と形容した私の声。
流れていくコメントを見ても
配信終わりに即ストゼロとかw
まさに中毒者のそれww
オフでもキャラ付け頑張ってて乙
でもストゼロに頼っちゃうのは安直じゃね?
みっちゃんの魅力は『普通すぎるところ』なんですがね?
とりあえず草
草
草
草
うん、バッチリ私の声聞こえちゃってるも見たいですねぇ。って草生やしてんなよ! そう言うノリは私のチャンネルでやってほしい。人様のチャンネルにご迷惑はかけちゃいけません!
「あー皆さんご機嫌よう。櫻庭ミツルですぅー」
全然配信のスイッチが入らない。
私の反応にコメント欄はもちろん通話の相手である美空さんも大笑いをしている。
「いやーごめんごめん、本当に完オフだったんだね? 絡んできてよってネタふりなのかなって思ってたよ」
「いや、まぁ……ここまできたらそうゆうことにしときましょうか?」
「だよねー? もう配信にのっちゃってるもんねぇ?」
こんの! かわいい声じゃなきゃ説教の一つでもかましてやりたいところだけれどさぁ。
「と言うことで、今日は櫻庭ミツルちゃーんと2人で1時間でダイヤ幾つ掘れるか勝負をやっちゃうよぉ!」
「えーっと、準備するんで待ってくださいねぇ〜」
完全に美空さんのペースになってしまっている。でもこんな風に強引にでも色んなところに出させてもらえるのはこちらとしてはありがたい。こんなことでもなかったら本当にコメントで書かれた通りの、何の特徴もないVtuberになっちゃうもんなぁ。
そこから美空さんと一緒にダイヤを掘ったり、マグマに落ちちゃってあわや全ロスしかけたりと色々あったけど、どうにか一時間の配信を終えようとしていた頃、美空さんがこんなことを言い出した。
「でさーみっちゃんは何であのゲームやり始めたの?」
「っく……ぷふぁ! ふぇ? あのゲームって?」
配信しながらも飲みが進んでしまっていたから、頭がぼんやりしちゃってて美空さんの言った『あのゲーム』と言うのがすぐに出てこなかった。
「あーもう! 飲み過ぎだってぇ! しょうがないなぁ。今日はここまでにするねぇ。今度はみっちゃんが正常な時にお話配信でもしよっかな? じゃぁまたねー」
「あぃー、またねー!」
私が見ていた美空さんの配信ページがオフラインになり、サムネイルが画面の真ん中で煌々と光っている。
しかしセンスのあるサムネだよなぁ。プロでもないのにこんなのを作れるのはさすがだよぉ。
ぼんやりと画面を眺めていると、「で、さっきの話の続きだけどさぁ」とヘッドフォンから聞こえてくる心地の良い優しい声。
「あぃ? えーと、ゲームのお話ですっけ?」
「そうだよぉ、正直さ、あのゲームに撮れ高って求められないじゃない?」
「……やりたいのやるのがやっぱりいいじゃない?」
言い捨てるようにボソリと呟くけど、美空さんの言いたいことはちゃんと分かっている。この人も何だかんだ私のことを心配してくれているんだ。
やっぱり自分の時間を使うのだ、費用対効果みたいなものは求めたくなるのも分かっている。
そんな中に私みたいに、周囲のライバーから浮いたような活動をしているのはやはり気になってしまうだろう。
「そりゃそうだよ? 私たちの活動なんて結局は自己満だよ? でもさぁ、見にきてくれる人を楽しませたいって言うのもあるじゃない?」
この言葉には流石にぐうの音も出ないよ。私だって、今も尊敬しているVtuberから元気をもらって、同じようなことが出来たらないいなって思って配信をし始めんだ。
「でもさぁ、それは……」
ダメだ、お酒が回って弱音ばっかりが口から零れそうになる。それを抑えようと手にしていた缶を一気に飲み干して、そして言葉を飲み込んでいく。
まるで飲み込んだ言葉が棘をもっていたかのように、喉を刺激する炭酸が私には痛い。
「まぁやり始めたんだから絶対に全部やり切るんだよ? 中途半端はダメだからね?」
「うん。ありがと、ございます」
そう言って、美空さんからのディス○ードが切られてしまった。
ただただ今の私に残ったのは机の上に積み上がった缶と、煌々と光るモニターの明かりだけ。
それがたまらなく意味のないものに感じた。
美空さんの言葉があまりに痛かったせい?
自分の考えのなさを意識させられたから?
浅はかな自分を理解しちゃったから?
もう一本、もう一本と飲み干してもう自分の許容量を超えようとした時、頭に過ぎったのはこの言葉だった。
「……続きやろ」
そうだ。美空ちゃんも言ってたじゃない。
『全部やりきるんだよ、中途半端はダメだよ』って。
だから私はもう一度ゲームを起動した。
憎らしいと思っていたタイトル画面を睨みつけて、次こそは先に進むんだぞとそう意気込んでコントローラーを握って、ゲームの起動を待っていると最後にセーブしたシーンが画面に映し出された。
セーブをしてくれるキャラクターの目の前に私の操作キャラクターがいる。
さぁ、再度冒険に出発だ!
そう思った時だった。
『君が始めた物語なんだ……心の赴くままにやればいい』
一瞬、そんなメッセージがモニターに映し出された。
見間違いかもしれないけど、そんな気がした。
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