中堅の個人Vtuberなんだけど……ゲームに息詰まってスト◯ロ飲んでたら、ゲームキャラの声が聞こえて来るようになった私はそろそろダメかもしれない。
桃kan
第1話 私の日常
「さーて、セーブだけはちゃんとしといて……うわぁ、これ絶対にクリアしてやるんだから! それでは、また次回の配信でお会いしましょう、お疲れ様でしたぁー」
お決まりのセリフ。
お決まりの締め方。
でも普段なら絶対忘れない『チャンネル登録』ってワードを言い忘れてるじゃん。
本当に詰めが甘いよなぁと、椅子から立ち上がりながら軽く伸びをして……さて、ここからは配信終わりのルーティーン。自分へのご褒美タイムというやつだ。
きっちり配信画面が終了していることを確認。よし。
回れ右して、目指すは一人暮らしを始めた時からの相棒に飛びつく!
「もぉー今日もキンキンに冷えてるじゃーん、最高だよ!」
相棒から取り出したストロ○ング・○ロをそっと頬に近づけてみる。
配信で少し熱くなってしまった私にはこれくらいの冷たさが心地よい。
「そーして、この……くぅーーーー! この音とこの喉越しよねぇ!」
控えめに言って最高! この時のために生きているって言っても過言では……ないよねぇ。
慣れっていうものは不思議なものだ。正直このお酒だって最初は好きじゃなかったけど、尊敬してやまないお方が嗜んでいたのにあやかってみたら知らず知らずの内に、一日に数本飲まないと我慢できなくなっていた。
こんな毎日を続ける私の名前は櫻庭ミツル。一応個人でVtuberをさせてもらっている。まぁ完全にオフモードなので、今は本来の姿である『迎川美知』と名乗っておきましょう。一応平日は会社員。特段厳しくもない会社で定時までお仕事に励み、そして仕事終わりやおやすみの日は趣味でVtuber活動に勤しんでいるわけです。
『特徴がないのが特徴』と言われる、某MSみたいな人間。あ、ちなみにこれはこの間配信中にそんなコメントがあったなぁ。
「あぁ。自分で言ってて悲しくなってきたし」
ベッドに身体を預けながら、宙を見つめながら独りごちる。
まぁ基本的には何をやってもすぐに慣れて仕事もある程度の成果を出して入るし、配信だってある程度の人に見てもらえているみたいだし、ちょっとは満足すしている。
「でもこのゲームは、慣れないかもなぁ」
缶に口を付けつつ、先ほどまで必死に睨みついていた画面を今度はぼんやりと見つめてみる。
画面に踊るのは今日から挑戦し始めた、どの家庭にもゲーム機があるのが当たり前になった頃に発売された、少し古めかしいゲームのタイトル画面。今から何年くらい前だろうか、私が小さな頃にお兄ちゃんがやっていたのを見ていたから、発売はかなり昔のはずだ。
今は当たり前になっている、『建築』とか『生産』とかそんなものの一切用意されていない、まさにお一人様専用のRPGみたいなものだ。
よくあるRPGなんだけれど、それにあって然るべき『魔法』というものが存在しない。ただ自分が作り上げたキャラクターに、適性のある武器を持たせて戦うだけ。そう。ただそれ『だけ』なのだ。
そして最終的には魔王みたいな、明確な『悪』みたいなものを打ち倒すのが話の本筋。
さすがにそんなお話が今の世の中には受けるはずもなく、世間に皆様から最初に下された評判は『クソゲーなの? 誰も埃の被ったようなシナリオじゃ喜ばねぇよ!』だった。
それでも何故か根強い人気があって続編こそは出ていないものの、新しいプラットフォームになるたびに再移植を繰り返しているらしい。私も念願の○○itchを手に入れて、オンラインストアで色々と物色していた時にこのタイトルを見つけたので、思わず即買いしちゃったのである。
まぁお兄ちゃんが子供の頃にやってたくらいだから、きっと今の私がやったらスッとクリアできちゃうんじゃないかなぁなんて思っていたんだよね。
「あ゛ー、そう思ってたのよ。最初はねぇ、私も」
あ、ヤバイ。酔いが回りはじめてるかも。声もガラガラし出してるじゃん……ま、いいか。
本当にいいのかよと自分でもツッコミを入れたくなりながら、相棒の中に収められた2本目を勢いよく開けて一気に飲み干しす。
あぁ、たまんない。これよこれ! でも間違いなく明日の朝後悔するやつだよなぁと思いながら3本目を手にベッドに戻ろうとした時、机の上に置いたままにしていたスマホの振動音が私の耳に届く。
「だーれよぉ、せっかくいい気分……あぁ」
画面に映し出された名前を見て一瞬、酔いが冷めたような気がした。何だか現実に引き戻されたような気分だよ。
「うん、いいや。無視しよ」
ほら、着信も止まった。もうね、今日はだーれとも話しませんよ! 今の私は無敵! アルコールも入ってるんだからまともに話をできる自信もないしね! と、思っていたらまた鳴り出す机の上の騒音発生器。
どうせまたすぐに切れるでしょうだなんて考えながら、3本目に口を付けて半ばまで飲み干してもなかなか音は止まない。それどころか一回切れたと思ったら何度も何度もかけてくるし。
「……あぁ、もう!」
あまりのしつこさに一言言ってやろうと、机の上で震える騒音発生器を掴み取り受話のマークをタップすると、私よりも早く相手がこう声をかけてきた。
「あーそぼ!」
「は?」
「だから、あーそぼ、みっちゃん?」
「いや、昨日伝えといたけど、今日の配信終わったら今日は閉店ガラガラー。何もしなーいって、言ってたじゃない?」
「んー、でも今ディス○取ってくれたじゃない? このまま遊ぼうよ?」
「だから話聞いてくれない? もう私お酒入れちゃってるんだけど?」
「いいじゃん! 正直みっちゃんってちょっとお酒入れてるくらいが面白いんだから!」
なんて失礼なやつなんだろうか。この人は私よりも少し早くVtuberを始めた遠野美空さん。一応先輩なんだけど、あまりにも人の話を聞いてくれないからいつの間にかタメ口で話すようになってしまった。
まぁオフで会ったことはないけど、多分いや間違いなく良い人ではあるんだけどなぁ。
「いや、ちょっと失礼だって」
「ちなみに今何本目?」
「えーっと、3本目飲み終わるとこ」
そう返しながら、再び相棒の中から500ml缶を一本取り出し、デスクの前のゲーミングチェアに腰掛ける。
我ながら少しペースが早いような気もするが……まぁ良し!
私の返答に「結構入れちゃってるじゃーん」なんてチャチャを入れてくる美空さんだが、次の瞬間私は彼女の言葉に耳を疑ってしまった。
「えー、でもわたし配信はじめちゃってるんだよねぇ。そのままで大丈夫?」
え? ……え? どうゆうことよ?
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