第7話 孫の結婚式
晩年の母は、「孫の結婚式に出たい」が口癖だった。
お祭り事が好きだったからね。孫が5人もいるので、なんとか一人くらいは実現するかと思ったが、時世にもれず婚期が遅い子ばかりでかなわなかった。
亡くなった翌年に、長男(私の弟)のところの長男が結婚した。母が一番気をもんだ孫だった。
進学校でお行儀のよい学校に合格したのを喜んだが、校風に合わず退学になってしまった。その時に 校長に直談判に行ったのが母であった。
東京で同居してるわけでもないのに、熱海から乗り込んだのである。
両親を差し置いて余計なことをしないほうがよいと助言するも全く無視。
当時、そんなこんなでずいぶんしゃしゃり出た母だったが、そんな母を 弟のお嫁さんが赦してくれてたのは、今から思えば有難いことだった。
彼はその後も様々なことをやらかして、結局大学には行かず、いくつかの仕事に就いたが、落ち着いたのは 大きくはない広告代理店だった。
水を得た魚というのだろうか、人間適してる仕事に就くことが一番大切なんだなあと思う。
たちまちトップセールスマンになった。
が、両親はその姿を見ることなく 逝ってしまった。
先日 彼から3人目の子供の誕生の葉書をもらった。
両親の遺影の前に置き、久しぶりに両親に話しかけた。
「Yちゃんすごいよ。 東京の郊外に家を買って、こないだ3人目の子どもも生まれたって。
今や 社長なんだってさ。 それがさ、先代の社長が夜逃げした後、負債をきれいにして、社長になったらしいよ。
おかあさんが 乗り込んだ学校の校長に聞かせてあげたいね。
髪染めたくらいで大騒ぎするような担任教師にも。
遠くにいる孫のことでも 熱くなって行動せずにはおれなかったおかあさんの血をYちゃんは引き継いでるんだと思うよ。
行動せずにはおれない愛情深い血をね。」
亡くなって10年。つい先日 一番年下の姪、Yちゃんの妹のKちゃんが結婚式を挙げた。コロナ禍だったけど、アルコール無しだったけど、
ゴージャスな結婚式でしたよ。
これで5人全員結婚完了。
どこかでみんなの結婚式を見ただろうかね?! おかあさん。
黒いショール 文乃木 れい @hug377
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。黒いショールの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
壇上新作/@bokuwaryo
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
眼鏡拭き最新/レンズマン
★18 エッセイ・ノンフィクション 連載中 423話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます