第66話 二つの世界(2)
「和也君の手術が成功したよ!」
明菜が拓馬の病室に飛び込んでくる。
「本当か! 良かった……」
左足をガッチリとギブスで固められて、ベッドで寝ている拓馬が喜ぶ。
結局、拓馬は命に別状はなかったが左足を骨折しており、今日は入院する事になっていた。一日だけの予定なので、今は空いていた個室に入っている。
「あれ? お母さんは?」
「ああ、急に入院する事になったんで、着替えとか取りに行ってる」
「そうなんだ……」
明菜は急に個室で二人っきりと言う事を意識してしまった。
「和也が死ななくて良かった……」
明菜がベッド横の椅子に座ると、拓馬はしみじみと呟いた。
「もう、あんな無茶はしないでよ!」
明菜は本気で怒って拓馬を責めた。
「無茶でもやらなきゃいけなかったんだ。和也が死ぬと、彩さんと明菜さんが不幸になる。あんなに仲が良かった二人が喧嘩して悲しむのは見たく無かったんだ……」
「そんな事言って……もし拓馬君が死んだら、今度は私が彩みたいに悲しむ事になるんだよ!」
明菜が泣きそうな顔で怒る。
「えっ? そんな事になってんの?」
大人の拓馬と目の前の明菜の関係が分からず、拓馬は驚く。
「そう言えば、和也君を救う事が出来たら、私と付き合うか拓馬君に返事を貰う事になってたんだ」
「ええっ……ちょ、ちょっと勘違いしてるかもしれないけど、今の俺は、大人の俺じゃなくて、高校生の俺なんだよ。明菜さんが好きなのは大人の俺だろ?」
拓馬はこちらの世界に来ても、大人の自分にコンプレックスを感じなきゃならないのかと、悲しいやら情けないやら複雑な気持ちになった。
「それは違うよ。私は拓馬君の人間性が好きなの。中身が大人か高校生かは関係ないわ」
拓馬は大人の明菜の言葉を思い出していた。
――七年前に出会っていても、あなたを好きになるか……明菜さんの言っていた事は本当だったんだな。
明菜は「それにね」と言い、二人きりなので必要は無いのに、椅子から立ち上がって拓馬の耳元に顔を近付けた。
「和也君を助ける為に一生懸命だった拓馬君……あんなカッコイイ姿見せられて、惚れない女の子なんていないよ……」
「えっ?」
明菜の囁いた告白に驚いた拓馬は、椅子に戻った彼女を見つめる。明菜は照れているのか、頬を赤くして横を向いている。
そんな明菜が、拓馬は今までに見たどんな女の子より可愛く見え、胸がときめいた。
「あ、あの、俺の方からお願いします。俺と付き合ってください!」
真剣な様子で頭を下げる拓馬を見て、明菜はクスッと笑う。
「返事はこれよ」
明菜はもう一度立ち上がり、拓馬の頬にキスをした。
了
彼女が俺を知らない世界と俺が彼女を知らない世界 滝田タイシン @seiginomikata
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