Shall We Guns?

North.s.Traveller

第1話


 〜 ……ブロロロロォォォォォォ……! 〜



 サンサンと照りつける日差しに……見渡す限りの赤茶けた大地……知らぬ間に喉が干上がる程の渇いた空気……! それらが支配する不毛の荒野を、一台の”軍用装甲車両ハンヴィー”が疾走していた。

 アメリカ、アリゾナ州にある”セドナ”などじゃあ、比較的良く見そうなこの光景であったが……中身は違っていた……!



 〜 ……ガツガツガツガツガツ…… 〜


「プハ〜! おいしかったぁ〜!」


 〜 ……ポイッ! ……カラン! 〜



 開けた後部座席で胡坐をかきつつ、空の缶詰の山を積み上げていた女性が居た。

 鮮やかなレディッシュ赤髪で、毛先に向かう程”炎のような真紅”の髪色に変わる、珍しい髪を持つ彼女の風貌は”ワイルド”な一言に尽きたが……普通じゃあない部分があった。


 ……それは”耳”だ。真横じゃあなく、真上……そこに獣のケモ耳があったのだ……!

 嘘でもなく、冗談でもなく、コスプレですらない……正真正銘の猫科のネコ耳だ……!



「……チェスカさん? もう少し静かに、お行儀良く食べてくれませんか……?

 後、アルギエさんが戦闘糧食レーションを幾らでも出せるからと言って、そんな何十缶も食べてるのは……流石に食べ過ぎだと思いますよ……!?」



 その対面に座るは、”チェスカ”と呼ばれた彼女と同じぐらいの長さに伸ばした、白銀を思わせるセミロングのプラチナブロンドを持つ女性が居た。翠色の目には”古風な丸眼鏡”が掛けられ、その視線の先には”小説”らしき本が握られている。


 ……その他の特徴? そうだなぁ……チェスカが首に巻きつけている”オレンジ色のスカーフ”と似た”エメラルド色のスカーフ”を、三つ編み状に髪に編み込んで左肩に掛けている事であろうか……。

 あぁ、もう一つ! 芸がないと思わないで欲しいのだが……彼女もまた、”耳の形状”が普通ではなく”耳の頂点が尖っていた”のである……!



「……別にいいじゃん、ビーちゃん……?

 アルニィだって言ってたでしょ? ”ジャッポーネのコトワザ”って奴で、”腹が減ってはイクサはデキヌ”……とかって、あったじゃん!? だからボクは……」


 薄々気づき始めている”◯者の皆さん”を他所に、スプーンを咥えながら語るチェスカ。


 「あのですねェ……今は真面目な話なんですから、ちゃんと”ビーチェ”って私の名前を……!」


 「お前さんら! うるさいワイッ!

 せっかく、気を効かして流しておるクラシックが良く聴けないじゃあないかッ!?」



 一方で、運転席から怒声を飛ばす声があった。

 サンタと思われるような豊かな口髭を蓄え、首にエンジニアゴーグルを掛け、頭にはチェスカ達似た”青いスカーフ”を海賊風に頭に巻いているのが特徴だが……ハゲスキンヘッドが隠しきれていないのは内緒なつもりなのだろう……。


 それと、最も特徴的なのは……この老人は”非常に小柄”だと言う事だ。

 具体的に言えば、運転するアクセルなどを踏み込むのに……特製と思われる、厚底の”天狗の下駄らしき物”を履いて運転している程にだ……!

 ……小人病かって? 残念、彼はそんな事で病院に相談に行った事は一度もない……!



「……すみません、アーモリさん……。

 チェスカさんが私の意見を聞かず……我儘を言うモノなので……つい……」


「そんな言い方ないじゃん!?

 て言〜か? リ〜ジィ? 前、前、前を見なって……!」


「話を逸らそうとするなって……のわぁぁぁぁぁぁッ!?」


 〜 キキキキィィィィィィッ! ……ブロロロォォォォ……ッ! 〜


 咄嗟にしては見事な急カーブで、岩を回避するアーモリ。


「あ……危なかったワイ……!

 ハッ!? そうじゃ、ワシのショットガンちゃんは……!?」


 「おいッ! アーモリィィッ!?

 調子に乗って、毎回危険なドライブをするなって言ってるだろうがッ!?」



 急カーブの勢いか助手席で倒れてしまっていた、ショットガンに飛び付こうとしていたアーモリ。

 しかしながら、車両の屋根から響いた怒声によってその行動は阻止され……彼が座る運転席に、ヒョッコリ顔を覗かせる人物が居た__!



「あっ! アル兄ィッ! おはよ〜! よく眠れた?」


「……すみません、アルギエさん……。私の不注意で起こしてしまって……」


「Oh〜シニョリーナ達、謝る事はないぜ? オレは心が広いからなぁ〜」



 「フ〜ン」、「……また始まった……」……と、運転席の窓から逆さに顔を覗かせる男に、女性陣の反応は微妙そのものであった……。 ……が、この男もまた”ただの陽気で軽そうなオッサン”で済むような人相ではなかったのである……!


 金髪の短髪、面長な顔、ここまでは普通だが……目が違い過ぎたのだ。

 その”殺し屋”のような浅葱色の切長な目は、まるで数多の”死”を見てきたかのように目の輝きが燻んでしまっている。女性陣を見ていた際には、少し輝いていた気もするが……それでも「死んだ魚の目」と言わんばかりながらも鋭く、もの悲しいのである……!



「アルどん、お前さんはまた……」


「シニョリータ達がどんな失敗をしたとしても、ドンと構えてるのが男ってモンじゃあないか? なぁ〜ア〜モリィ?」


「ハァ……その性でワシャどんだけ苦労したか……」


「苦労以前に、お前のショットガンやこのハンヴィーを出したのは誰だと思ってるんだ?」


「ハイハイ、アルどんじゃな。分かっちょるよ……」


「フゥ……本当、気を付けて運転してくれよ? ……んッ?」



 車両の屋根に設置されていたビーチチェアに戻り、悪態を付こうとした時……アルギエと呼ばれた男は、双眼鏡を腰のポーチから取り出しては覗く。すると、遠方に何かを見つけたのか、「マンマ・ミーアマジかよ?……準備しとけ、お客さんだ」……と、車内に居た三人に呼び掛けるのであった。


 数分後、車両が止まった先に居たのは、数百は超えるであろう”謎の団体さん”であった。ただ……アルギエが”お客さん”と呼ぶには、剣や弓矢、更には投石器など……随分と物騒な顧客ではあったが……!?



「よお、アルちゃんッ!

 こんな辺鄙な場所を優雅に観光とは、随分偉くなったモンだなぁ!」



 団体から歩み出た後、気さくに声を掛ける一人の男……。

 粗末なズボン一丁に、半裸ベストとはこれまたワイルドであるが……胸や顔にある無数の傷が、”一般人カタギ”じゃあない事を容易に物語っていた……!



「……はて、どちらさん?

 オレらは隊商どころか、アンタと友達になった覚えもないぞ?」


 車上のビーチチェアに寝そべりながら、ほくそ笑むアルギエ。


「ホザケェッ!

 チョッピリ強いからって、調子乗ってスッとボケてんじゃあねェよッ!? 先日、内の大事な”主力商品”を逃した犯人は、テメェらだって分かってんだからなぁッ!?」


 発情した猿の如く怒り狂う男。それに対し、余裕のあったアルギエの表情が一瞬鬼のように歪む……!


「あ〜あ、思い出したよ。

 オレも買おうと思ったんだけど……即刻辞めたんだった。

 ”奴隷”……だなんて、この世で最も”理不尽”で”クソ過ぎる”物を売り捌いている……ゴミカス供だって事が分かってなぁッ!?」


 しかし、アルギエの怒声の前には……さっきの男の怒りは、余りに滑稽であった。睨み殺す……一言で言えば、そんな”気迫”と”スゴ味”を件の男は感じ、ブルッちまったのだ……!


「ちょ、調子に乗んのは今日までだよぉ〜クソアルギエッ!

 今までテメェの被害に遭ってきた、商売仲間を引き連れて……実に”五百人”と言うこの精鋭揃いでやってきたんだ……! そしてェ〜! 今日こそォ〜! お前らの墓を此処におっ立ててやるよぉ〜ッ!」



 相当自信があるのだろう……恨み節に語る男の言葉に続いて、後ろの団体さん……いや、ならず者軍団が「ニヘ〜ヘッヘッヘッヘッェェェ〜!」……といやらしく不気味な笑い声を上げる。



「……そうだな。流石に、お前との腐れ縁はもう飽きたモンだ……」


 〜 プッツン 〜


「この野郎ッ!

 何処までもオレらをコケにしやがってッ! やっちまえェェェッ!」


 男の叫びの後に、ならず者達の雄叫びが響き……無数の矢の雨がアルギエ目掛けて降り注ぐッ!


 〜 ダッ! ブゥォォォンッ! ……パラパラパラパラ……スタッ! 〜


「なッ!?」


 しかしッ! 後部座席から突然躍り出たチェスカが大ジャンプ!

 空中で放った回し蹴りの風圧によって、矢の雨を瞬く間に散らしてしまったのであるッ!


「……アル兄ィ? ”セイト〜ボ〜エ〜”、セイリツだよね?」


 ビーチチェアに触れ、光の粒子に変化させて片付ける最中のアルギエの近くに着地し、蛙のように両手両足を付けてしゃがんだまま彼に尋ねるチェスカ。


「……あぁ、好きにやっちまいな」


「うん! それじゃあ……行っくよォォォォッ!」



 そう言ったチェスカは両手で前髪を掻き上げ、”オールバック”の髪型に変えるのであった。

 やる気を奮い立たせる動作スイッチなのか……その出で立ちは、彼女の鮮やかな髪色や”獣人”という種族も相まって……宛ら、「猛々しい獅子」を思わせる物となっていたッ!



 〜 グッ、ズキュ〜ンッ! ザザザザザザザザ……ッ! 〜


「ッ!? ひっ、怯むなァァ! 撃てッ! 撃てェェェッ!

 後、盾を構え忘れるなぁぁぁぁッ!」



 車両の屋根から弾丸のように飛び出したチェスカは、一気に敵集団の方へと爆走して行くッ! しかしッ! 前方から迫る矢の雨が彼女の行手を阻もうとするッ!



「ホラッ! 新鮮な”リンゴ”をプレゼントするよッ!」


 〜 ピンッ! ポイッ! ドッグォォォォンッ! 〜



 だがッ! そんな事は意にも介さず、ヒョイヒョイッとチェスカは速度を落とさず、易々と右に左に躱し続け……前方にズラリと並ぶ盾の壁を目にすると、腰のポーチから何かを取り出し、その集団の中心辺りに放り込んだのだッ!

 そして数秒後に響く爆音ッ! 彼女が投げた”リンゴM67手榴弾”が爆発し、密集し固まっていた盾部隊を一瞬にして、撃破したのであるッ!



「ドハァッ!? イテテ……クッソッ! あの獣風情が……ッ!?」


「チェスカアッパーッ!」


 〜 ダッ! ボゴォォォッ! 〜



 しかし、それでも被害は五百人の一部分……爆風を逃れ、軽症で済んだ者も少なくなかった。奇襲にも近いチェスカの攻撃に、ならず者の一人が”差別らしき言葉”を呟いた瞬間ッ! 彼の顎骨が砕け散る……ッ!

 驚異的な脚力で肉薄したチェスカのアッパーカットによって一瞬、宙へと誘われた彼は次の瞬間では、この世を去る事が確約されていたのだ……ッ!



 〜 グッ、チャキッ! バババンッ! ドサァァァッ! スタッ! 〜



 ……「グロック18c」。

 オーストリア製のこの銃は、拳銃ながらもフルオート自動連射に対応したマシンピストル機関拳銃だ。空中で錐揉み回転しながら、脚のホルスターから2丁を抜き放ったチェスカは……見事、この銃でならず者の頭に三連射をブチ込み、仕留めたのだ……ッ!

 ただ本来は、”三点バースト”はこの銃では出来ない事は、注意しておこう……。



「……そう言うならボクだって、”ニンゲンフゼイがッ!”……って、言っちゃうぞ!? ……まぁ、アル兄からは”差別はいけない”……って、言われてるケド?」


「チクショォォッ!

 訳分んねェ事言ってんじゃあねェよォォォッ! クソ猫がァァァァッ!」


 〜 チャキッ! バババンッ! ドサァァァッ! 〜


 虚しいかな……着地後のチェスカが明後日の方向を向いていたのにも関わらず、彼女は横から斧を振り上げ襲い掛かって来たならず者の表情も見ずに、頭に三連射をブチ込むッ!


「……別に、アル兄の考えを分かろうとしないキミ達は、分かんなくてイイよ。

 でも、この先もずっとアル兄の事をジャマするなら……ボク達はヨウシャしないよッ!」


「ホザけッ! 囲めッ! 囲んで一気にっちまえェェッ!」



 隊長格と思われるならず者が叫んで、一気に数十人がチェスカに襲い掛かるのだが……結論から言えば、それでも”無駄”であった。四方八方から襲い掛かるならず者達に、彼女は”キックボクシング”を主体に……”カポエイラ”と思わしき奇抜な蹴り技を織り交ぜつつ、次々に伸していったのである!


 無論、伸した直後に”3連射”を頭にブチ込むのも忘れなかったが……。

 しかしながらその動きは、まるで情熱的なダンスを見ているかのように苛烈だが、機敏で美しさすら感じる程の物であった……ッ!



 〜 ドゴォォッ! バババンッ! バキャァァッ! バババンッ!

 ゴスッ、バキィィッ! スカッ! スカスカッ!〜


「……おっといけない! リロードリロードっと……」


 次々と散って行くならず者達相手に、彼女の表情がジョジョに”怖い笑顔”へと変わり切る寸前……彼女の持つ二丁拳銃の残弾が”空”になってしまったようだ。


「このクソ猫ッ! よくもダチをォォォォッ!」



 真後ろから大斧を掲げた脅威が迫るにも関わらず、涼しい顔で腰のポーチから予備弾倉マガジンを取り出し、手早くリロードをして行く彼女。このままでは……!


 〜 ズダァァァァァンッ! バタンッ! 〜


『もうッ! チェスカさん! しっかりして下さいッ!』



 ……大斧が振り下ろされるよりも早く……突然、ならず者の頭が”潰れたトマト”の如く弾け飛ぶ……!? そして、糸が切れた人形のようにチェスカの死角で死体が倒れる中……既にリロードを終えた彼女は、トアル方向に手を振りながら”心の中”でこう呟くのであった……! 



『大・丈・夫ッ! ビーちゃんがヤッてくれるって、信じてからね〜ボクは!』


『ハァ……全く、チェスカさんってば……私の支援狙撃で”いつでも助かる”とは思わないで下さいね!?』



 ……「Kar98k」。

 ビーチェがホフク状態で握るこのドイツ製の小銃は、チェスカの拳銃よりも強力な「ライフル弾」を使用する事で……"500m"前後に居る敵を、一撃で屠る事の出来る狙撃銃である。

 因みに、普通は遠距離狙撃を行う場合は大体、”光学照準スコープ”を付けて行うものなのだが……「森の貴婦人エルフ」とも呼ばれ、視力に優れた彼女は”光学照準ナシ”に”一撃必殺ワンショットワンキル”を叩き出し続ける程の腕前を持つ……ッ!



「念話での説教も程々にしとけ、ビーチェ」


「でも、アルギエさん! ああも、私に甘えていてはいつか……!」


「……全く、”アル”って呼んで良いって言ってるだろ? アンジェロ?」



 チェスカが大乱闘を繰り広げるよりも遠く……彼女達がギリギリ肉眼で確認出来る程の離れた地点から、ビーチェ達はハンヴィーで移動していたのであった。

 そして、車上で二人は横並びにそれぞれが持つ銃を構えつつも、呑気な会話をしていたのである……。



「やめて下さいよ……”天使アンジェロ”だなんて……。

 既に穢れたこの私には……度が過ぎますよ……」


「……”穢れた”とかもう関係ないだろ?

 お前らはもう、奴隷じゃあなくて……出身や身柄も、種族でさえも関係ない……家族だろ?」


「……アルさん……」


「フフン、じゃあご褒美のバーチョを……!」


 そう言うと、アルギエの唇がビーチェの頬に迫るッ!

 ……のだったが、彼女は慣れた手付きで左手で後ろへと押し退けた後……?


「……アルギエさん、私達に気付いてたくさんの”お客さん”が殺到して来ますよ?」


「……連れないなぁ……まぁ、お客さんのオモテナシは……大事だしなぁッ!?」


 〜 ガッシャンッ! 〜



 ……「ブローニングM2重機関銃」。

 アルギエがいつの間にかハンヴィーに車載させたこのアメリカ製の重機関銃は、チェスカの狙撃銃よりも更に強力な「対物ライフル弾」を使用する……非常に強力な重機関銃ヘビーマシンガンである。

 開発されてから”百年近い現役”を誇るその射程距離は、脅威の「約二km」! 軽装甲車の装甲をブチ抜く事も可能なその威力は、人間に向けられるとなると……?



「爆ぜ散れェェッ!」


 〜 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ! 〜


「……ウソだろ?」



 先程、アルギエと話していた男はまとわり付く蚊以上に厄介だと判断し、ハンヴィー目掛けて大人数を突撃させたのであろう……。

 頭、腹、腕、脚などなどと……「モザイク処理ナシでは、絶対に描写出来ない凄惨な光景」を前に、ただただ瞠目する事しか出来なかった……!



「旦那! ユダシタスの旦那ァァッ!」


「……ハッ!?」


「ボーッとしてないで指示をッ! 早くしないとオレらが全滅……」


 〜 ヒュゥゥゥゥ〜ンッ! ブシャァァァァッ! 〜


「ッ!? ウヒィァァァァァッ!?」


 ……一瞬であった。その一瞬で、目の前で起きた凄惨な光景に耐えきれずに男……ユダシウスは思わず尻餅を突く……!


「だ……だん……なぁぁぁぁぁ……!?」


 ……空耳と思ってしまう程の掠れた声を呟いた後……「M2重機関銃」によって、「上半身だけになった男」がユダシウスのズボンの裾を掴んだまま、息絶えてしまったが故に……!

 予想外の連続に、動悸がジョジョに激しくなっていく彼であったが……!?



「ッ! おいッ! 投石機! 投石機だッ!

 お前ら逃げ回ってないで、投石機であの”鉄の馬車”をサッサとブチ壊せッ!」



 「オレは学ばないワケじゃあないぞ! クソアルギエェェッ!」……そう思いながらもユダシウスは、手下達に怒鳴り飛ばす。”一瞬で死ぬ恐怖”よりも、”いけ好かないお頭”の方がまだマシだとでも思ったのか……獲物に群がるアリのように投石器の発射準備は進められ、準備完了の声が上がる……ッ!



「よぉし……放てェェェェッ!」


 〜 ドグゥォォォォォォォンッ! 〜


「……ヘッ!?」



 ユダシウスが放心するのも無理はない。

 何故なら突然、自身の掛け声と共に数十台はあった投石機が、同時に木っ端微塵に消し飛ばされたのである……ッ! それも、搭載していた弾薬に”火薬”などを一切内包していないのにも関わらず……!


 勿論、投石器周辺に居たならず者達への被害も甚大であった。

 運良く、爆風に飛ばされても軽症で済んでいた者も居たが……!?



 〜 ボコォッ! ドパァァァァンッ! 〜



 突然の爆発による恐怖の余り、逃げ出そうとしたならず者の腹が弾け飛ぶッ!?

 しかもソイツだけじゃあない。次々とである……!

 次々と……一方的なこの戦場から逃げ出そうとする者達の、腹や頭が弾け飛んでいるのだ……ッ!


 その光景を前に放心しつつも、その原因をユダシウスは見ていた……!

 彼のボキャブラリーにはなかったが、例えるなら「ハイレベルのモグラ叩き」の如く……。



 〜 ボコォッ! 〜


「お前さんらみたいな屑供クズどもは、ワシら亜人のためにも逃す訳にはいかんからのぉ……!」


 〜 ジャッコンッ! 〜



 ……「Kel-Tec KSG」。

 放心するユダシウスの両脚の間から、モグラの如く上半身を出したアーモリが握るこのアメリカ製のブルパップ式ポンプアクション散弾銃は、通常の散弾銃では不可能な「14発」と言う装填数を「チューブマガジン」という部品を”2本”備える事で可能にした……継戦能力に優れた戦闘用散弾銃コンバットショットガンである。


 散弾銃に使う「弾薬ショットシェル」は、発射時に無数の小さな弾丸散弾が飛び散るのが特徴である。ただし、「小さな弾丸」一発一発の威力は拳銃弾並か、それ以下であるのだが……至近、近距離に”まとめて”当てる事で、大ダメージを狙える大口径の銃であるのだ。


 つまり……土魔法が得意であり「鍛鉱族ドワーフ」とも呼ばれるアーモリが……今回のように奇襲気味に魔法によって高速で穴を掘り、至近距離で現れたとなれば……?



 〜 ドパァァァァァァァァンッ! 〜



 ほぼ至近距離での腹への一撃は、有無を言わさずユダシウスを昏倒させるには十分であった……ッ!





「うっ、ウゥゥゥゥン……?」



 数十分後、何故かユダシウスは目覚めていた。

 腹に残る鈍痛に顔を顰めつつも、不思議に思って周囲を見回すと……?


「……おっ、おい……!? ウソだろ……ッ!?」


 信じたくないのであろう……!

 彼が”精鋭揃い”と自慢し、引き連れていた者達全てが……”ゴミの山”となって、赤茶けた大地を覆い尽くしていたのである……ッ!


 〜 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…… 〜


「信じたくないのは勝手だが……」


「ッ!? ヒィッ!?」


「……ここまでヤラかした”ケジメ”は、キッチリと取ってもらうぞ?

 えェェ? ……ユダシウスゥ?」



 ゴミの山を見て以来、腰が抜けてしまったユダシウスは後退る……!

 彼の背後からゆっくりと……各々の銃を構えたまま近づいてきていた、アルギエ一行に気づいてしまった故に……ッ!


「まっまっまっまっ、待ってくれよぉぉぉ! アルギエェェェッ!

 しっ、仕方なかったんだよぉぉぉッ! そっ、そう! 脅されてたんだッ! 借金で首が回らなくなってさぁぁぁぁッ!?」


「……ほぉ?

 ”お前らの墓を此処におっ立てる”……とかって言ってた奴が良くもヌケヌケと言えるなぁ? ……誰が、言ったんだ?」


「……ぶ、ブランドーの奴に……」


「ソイツは先週、オレらが始末した奴だよなぁぁぁッ!?」



 嘘だと断定したのか……ユダシウスの額に、銃口を捻り込むように押し当てるアルギエ。

 「あ〜アイツかぁ〜」、「あの最低”吸血鬼”の……」、「弱い癖に、只々胸糞悪かった奴だワイ……」と、チェスカ達に口々に言われる中……情けない悲鳴を上げるユダシウス……!



「おっ、お願いだよぉぉぉッ! 助けてくれよぉぉぉッ!」


「アル兄、聞かなくていいよ? ボクの”ウルディ50口径マグナム”で終わらせる……ッ!」


「……いえ、この外道は……私の兄の仇です。私が引導を……ッ!」


「いんや、ワシの同胞も多くコキ使われ、あの世に行っちまったからのぉ……? ワシのショットガンちゃん……いや、あのオンボロ投石器を吹っ飛ばすに使った”C4爆弾”で、此奴の最期は汚い花火に……!」



 正座をしながら両手を合わせ、祈るように慈悲を請うユダシウスに対し、無慈悲かつジョジョに迫る”三つの銃口”……ッ! 彼女らのリーダーは、止めはしないかと思ったが……?


「……止めとけ、お前達」


「「「えッ!?」」」


 意外や意外!

 ”拭い切れ無い過去”が仲間達にあるにも関わらず、アルギエは彼女達の銃口をそっと後方に押し退け……自身が前に出たのである!


「あっ……アルギエぇぇぇぇッ!」


「ちょっと! アル兄ィッ!? なんでこんな奴を庇うのッ!?」


「そうですよ! 私の兄の無念を晴らすために、貴方に付いてきたというのに……ッ!」


「……見損なったぞい、アルどん……?」


「静かにしろ、お前達?

 別にオレは”殺さない”とは言ってないぞ……?」


「「「「へッ!?」」」」



 一つ余計な声が混じってもいたが……そんな声達を他所に、アルギエは鼻歌混じりに握っていた拳銃の”遊底スライド”を引き、中に入っていた初弾を除いた。

 そして、腰のポーチから弾頭が奇妙な色になっている銃弾を”薬室チャンバー”に込め、ユダシウスに向けるのであった……!



「なっ、何を……!?」


「一つ、この質問に答えられたらお前を逃してやるよ?」


「へっ?」



 間抜けな声を上げるのも無理はない。

 何故なら、アルギエが弾をこめる際……剣呑な雰囲気だった彼の仲間達が、急に三人揃って”ほくそ笑み”出した事と……?



「shall we guns? (撃って良いか?)」


 この世界の住人には、分かる筈もない……”英語”での質問であったからだ……!


「……はっ? はい……」


 〜 ズガァァァァァンッ! 〜






 ゴミの山が広がる荒野に、最後の銃声が轟いた数ヶ月後……。

 ユダシウスが関わっていた”汚職貴族”や”人身売買”などの数十以上もの「犯罪組織」が次々と逮捕……あるいは謎の死を遂げていたと言う事が、広大な大陸各地で起きていた。

 しかも何れの死体は、”弓矢では確実に出来ない奇妙な傷”を受けて死亡していたと言う……。

 ただ……その詳細を語るのは、また別のお話……と言う奴である。


 ……えっ? 「とある傭兵団の”些細な日常”を描く物語」……という、”あらすじ詐欺”だって?

 ……終始圧倒していたとは言え、こんな”激しい戦闘”があったというのに……だと?

 いやいやいやいやいや……詐欺じゃあないぞ? この物語はチャンとした彼らの”日常”だよ。


 このような恨み辛みを買いつつも、その信念を貫くために”修羅の如き日常”を、鼻歌混じりに突き進んで行く……!

 それが、地球で傭兵として”多くの罪”を犯してきたアルギエがこの世界で誓った”贖罪”であり……彼が救ってきた人々によって結成された、「ラ・リベルターズ(自由な者達)」の宿命であるのだ……ッ!


 ○者の皆さんも、もしも異世界に”転生”や”転移”をした際は……彼らに頼ってみては如何だろうか?

 何せ……アルギエ達は日夜、”理不尽”に潰されそうな”原住民”や”転生・転移者”を救うため……今日も何処かで”ハンヴィー”を走らせているのだから……!

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