第14話 同意と登録にはちょっと慎重なくらいがちょうどいい
どういうわけかスライム達のヘイトを一身に集めている猫耳のゴーレム。
何はともあれコイツを助け出さない事には始まらないと猫耳ゴーレムの救出に乗り出した俺達は、大量のスライムの中からゴーレムを傷つけずに救い出すためにスライムがもつ”強い光を嫌う”という習性を利用する事にした。
火山地帯などに生息する一部のスライムを除き、多くのスライム種は普段から水気の多い場所を好み乾燥や熱を苦手としている。
乾燥や熱に弱いという特性上、真夏日など強烈な日照りが続く時期スライム達は洞窟などの日陰でじっとしている事が多いのだが。
ライリーが放つ強烈な光を夏の日差しだとスライム達に勘違いさせる事で、乾燥を恐れたスライムの群れを猫耳ゴーレムから引き剥がす事に成功したのだ。
ただ単にスライムを倒すだけであれば火術魔法を直接ぶつけてやれば良いのだが、間違って猫耳ゴーレムまで燃やしてしまっては目も当てられないのでライリーが持つ発光能力に今回は助けられた。
「おー、スライム達が蜘蛛の子を散らすように逃げていくぜ。 ありがとな、ライリー」
「えへへ…大活躍だね、ライリーちゃん」
「ううう…。 まだ少しネバネバしてるような気がするのデスヨ…。 とても酷い目にあったのデス…」
心なしかグッタリとした様子の猫耳ゴーレム。
言葉を喋ることができ、またメモに記された姿形とも一致している事からコイツが俺達の探していた”ゴーレムもどき”である可能性が高そうだ。
「まずはアンタが無事でよかったぜ、えーと」
「ミュ? これは失礼したのデスヨ! まずは恩人たちにワタシの自己紹介をするデスヨ。 ワタシは最新型超高性能パロマシーン、個別名称ボロニャ。 親しみを込めてボロニャちゃんと呼ぶといいのデスヨ」
「その、パロマシーンってのはいまいちピンとこないが…自己紹介ありがとなボロニャ。 俺はジル。 そして、こっちが…」
「ね…ネルミ、です。 あと…この子はライリーちゃん…」
「ホミュホミュ。 名称登録完了したのデスヨ! 以後お見知りおきをなのデスヨ。 それで、質問なのデスがアナタ達はどこの所属なのデス? 」
「所属? なんの話だ? 俺達はマーカスのおっさん、いや正確にはおっさんの知り合いに頼まれてボロニャ、アンタを探しに来たんだ」
「ミュ? ミュミュミュ?? では、アナタ達はボロニャが送った救難信号をキャッチして救援に来たわけではないのデス…?? 」
「は、はい。 違うの、です」
「ああ。 救難信号? ってのはよく分からないけどさ」
「ミュ? ミュミュ?? ミュミュミュミュミュ???? 」
「お、おい。 大丈夫か? 」
「ミュィー!!!!! ピ。 ピピ。 ミョ!? し、失礼したのデスヨ。 少々思考の迷宮に囚われていたのデス。 ですが、だいたいの話は読めてきたのデスヨ。 救難信号を受けてきた者でないとすると…アナタ達は恐らく、ボロニャを修理してくれた方の仲間なのデスネ?? 」
(ん? 修理…? たしか手紙には作成したって書いてあった気がするが…)
「あー、実はそこらへんの詳しい事情は知らないんだが…。 ボロニャの捜索を依頼した人は機装技師っていう特殊な職に就いててさ、いろんな物の修理なんかも得意としてるから恐らくボロニャを治してくれた人と同一人物だろうな」
「ホミュ! なんという幸運デショー! ちょうどワタシも最初の恩人であるエンジニアさん…キソウ技師さんとは合流したいと考えていたところなのデスヨ。 アナタ達に同行すればまたキソウ技師さんに会えるというわけデスネ? 」
「ああ、そういうわけだ。 っても、困ったな…。 俺達の予定ではこのあと一つ用事を終わらせてから街へ帰るつもりだったんだが…」
「ボロニャちゃんには、安全のために…宿泊地で待っててもらいましょうか…? 」
「ミュ? 何処かに赴くのであればこの超高性能パロマシーンであるボロニャがお供するデスヨ! 」
「あーボロニャの気持ちはありがたいんだが。 俺達がこれから行こうとしてる場所は、さっきのスライムより強い魔物がウロウロしてる場所なんだ」
「ボロニャちゃんも…危ない目にあっちゃうかもしれないの、です」
「ミュィー! 心配ご無用なのデスヨ、さっきのネバネバ怪獣どもには遅れをとりましたが必殺のボロニャビームとボロニャパンチの前には敵なしなのデス! 」
「そうは言ってもな…」
「ムミュ~。 ボロニャの実力をそこまで疑うのであれば仕方ないのデス。 今から必殺のボロニャビームをお見せするのデスヨ。 ビックリして腰を抜かさないよう気をつけるのデス…! 」
ボロニャの丸い胴体の後につけられた尻尾のような部位が蛇のようにウネウネと動いたかと思えば、近くにある岩の方へ向けてピンと張りつめ暫しの間制止する。
「いくのデス! 必殺、ボロニャビィィィィィィィム!! 」
ちゅん、ちゅんちゅん。
「こ、これは…」
「あの音、なのです…! 」
「どーデス! ビックリしたデスカ!? 」
小鳥のさえずりのような発射音はともかくとして。
尻尾の先端に桃色の光が集まったかと思えば、二度、三度と細長い光の矢が射出された。
これがボロニャのいうビームという技なのだろう。
(ボロニャの戦闘力について少し疑っていたが…これはたしかに。 それに、この貫通力のある攻撃に着弾地点の円形の穴…。 先程見かけた木の根元にあった痕跡は、やはり。 ゴーレム…いやボロニャの攻撃によるものだったのか)
ボロニャはそのサイズ感ゆえ先程のスライムの群れのように囲まれてしまうとどうしようもないが、俺達が敵に囲まれないようカバーしてやれればこのビームという攻撃は頼もしい戦力になりそうだった。
「なるほどな、疑って悪かったぜ。 このビームってやつの威力があればこれからいく場所でも十分戦えそうだ。 ボロニャには俺とネルミ、ライリーの動きに合わせてもらうことになるが、ちゃんと指示に従ってもらえるか? 」
「もちろんなのデス! ミュ、そうデス! ひとまず、ジルさんの指揮下に入っておけば円滑に事が進みそうデスね」
「指揮下に入る? どういうことだ? 」
「少しジッとしていて欲しいのデス。 今からジルさんを臨時マスターとして登録するのデス。 マスター登録のためスキャンを開始しま―
し、シマ。 シマママママママ。 ピ。 ピピピ。 ピィィィィィ!! 」
「おいおい、またか。 ボロニャ、大丈夫か? 」
「最重要調査対象を確認。 短期最優先タスクの上書きを完了。 マスター登録を完了」
「ぼ、ボロニャちゃん…。 どうしちゃったんでしょう…」
「さ、さあ…。 とにかく見守るしか…」
「ピッ」
「……ミュイ!? い、一体何が起きたデス!? ……ミュ? とりあえずジルさんのマスター登録は完了してるデスね。 ムミュ? 何故か正規マスター登録になってるデス…不思議デス。 まあいいのデス。 こうなったら責任をとってボロニャの面倒を見てもらうデスヨ、ご主人サマ! 」
「へっ? ご主人様…? 」
「えっ…。 せ、責任って…! ちょ、ちょっとボロニャちゃん…!? 」
◇◆◇
拝啓マーカスのおっさん、並びに機装技師様。
ひとまず依頼されていたゴーレム(のようなもの)は発見しました。
発見したはいいのですが…何故か俺はこのゴーレムもとい自称、超高性能パロマシーン(ボロニャ)のマスターになってしまいました。
お二人には色々と聞きたい事がありますが、とりあえず。
当初の予定通り、リトルダンジョンを一つ攻略した後ポルータの街には帰還します。
ジルより。
追記。
依頼の報酬、期待してるぜ!
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