第13話 こ、コイツ…属性に属性を…もりもりだッ!
運良くマーカスのおっさんに頼まれた探しモノの情報を得られた俺達は、大鎌の食物庫攻略を後日に見送り旅商人から聞いた話を頼りに宿泊地から一時間もかからずに着く湖を目指していた。
「…!! ジルさん。 いま、何か聞こえたのです…」
「ん? 俺には聞こえなかったが…どんな音だ? 」
「えっと…微かにですが…。 ちゅんちゅんと不思議な音がしてる…です」
「不思議な音か…。 ネルミ、その音を追う事は出来そうか? 」
「は、はい…! やってみる、です…! 」
不思議な音が聞こえたというネルミの言葉を信じ、俺達は湖へと続く山道から外れ獣道を慎重に進んでいく。
俺よりも格段に耳が良い獣人族のネルミがわざわざ”不思議な音”と表現したという事は森に棲む小鳥や動物の鳴き声ではないのだろう。
「あっ…! ジルさん、こ、こっちです! 気になる痕を見つけたのです…! 」
先行して歩いていたネルミが何かを発見したのかピョンピョンとジャンプしながら俺を呼ぶ。
ネルミが「コレです…! 見て下さい…! 」と興奮気味に指差したのは木の根元付近。
根元近くの木肌には幾つも穴のようなものが開いており、その穴の外周は黒焦げていた。
「この痕跡…。 誰かがこの辺りで交戦していたのか…? 」
木に開けられた穴は奥深くまで貫通しており、また綺麗に円形を描いていた。
「ジルさん…コレを。 周囲に飛び散っていたのを拾い集めてみたの…です」
穴の開いた木の周囲を調べていたネルミが黒ずんだ欠片を幾つか手の平にのせ近付いてきた。
俺はネルミから受け取った欠片を太陽にかざして詳しく観察してみる。
(コイツは…スライムに火術魔法をぶつけた時の残骸に似てるな…)
大鼠の穴倉にて、俺がヴォルガニック・スピアで貫いたスライムもどきも同じような残骸を残していた。
(とすると、この辺りで誰かがスライムと戦っていたのか…? )
改めて木に開けられた穴を観察する。
(だけど、この辺りのスライム相手にこんな貫通力のある攻撃を使うとも考えにくいよな…)
世界中ほぼどこにでも出現するスライム種の魔物だが。
ダンジョン内で出現する特殊なスライムを除き、外界に生息しているスライムの大半は危険度の低い魔物としてしられている。
このダンガロール山脈でも、山の生態系に異変が起きていない限りは新米冒険者であっても余裕で対処できるレベルのスライムしか出現しない。
この辺りの魔物に詳しくない遠方からの旅人であっても、スライムを相手にここまで高威力な攻撃を仕掛けるとは考えにくい。
グルグホーン・マウスダンサー戦のように、他の魔物と同時にスライムが出現し咄嗟に高威力の魔法を発動したという線も考えられるが…俺は少し、別の視点からスライムと交戦していた何者かについて考えていた。
(スライムと交戦していたのがゴーレム、あるいはゴーレムもどきなら…スライムが相手でも火力の調整なんてしない、よな)
定められた行動パターンの中で行動するゴーレムは、攻撃せよと命令が下れば優先すべきは対象の破壊であり、そのさい火力を調整して対処に当たるといった発想を持たない。
作成者が意図的に細かな命令を出していれば別だが、基本的に自己判断能力を持たないゴーレムに対象によって攻撃パターンを変えるよう指示を出すのはかなりの困難を極めるだろう。
ゴーレムを使役して戦う
旅商人が喋るゴーレムと出会ったという湖からはまだ離れているが、このくらいの距離であればゴーレムもどきの移動範囲としては十分考えられる距離だった。
「あっ…! また…。 ちゅんちゅんって音が聞こえてきたのです…」
「おっ、本当か! とにかく、音がする方へ行ってみようぜ。 何か手掛かりがつかめるかもしれない」
◇◆◇
「ムキー! ヤ、ヤメルのデスヨ!! 不浄なるネバネバ怪獣ども! わ、ワタシを食べても美味しくなんてないのデスヨ…! 」
「な、なんだ…アレ」
「ゴーレムもどき、さん…。 なのでしょうか…? 」
ちゅんちゅんという音を頼りに進んでいた俺達の目の前に、猫耳を生やした小さなゴーレムの姿が映った。
マーカスのおっさんがよこしたメモの絵柄とも一致するその小さなゴーレムは、大量のスライムに纏わりつかれており。
必死になってその粘液地獄から脱出しようとバタバタしていた。
「何故なのデス! この超高性能パロマシーンであるボロニャが、こんなネバネバ怪獣に遅れを取るなんてありえないのデスヨ…! 丸呑みエンドはイヤなのデス…そんな終わり方は認めないのデスヨ…! 」
「あっ、ジルさん…! 一先ず、あの子を助けてあげるです…! 」
「おっと、いっけねっ。 今助けるからな! そこの猫耳、じっとしてろよ…! 」
「ネコミミ?? だ、誰なのデス、アナタたちは! ウギ!? ま、まあ今はそんな事どーでもいいのデス、早くワタシを助けるのデスヨ! ムギャー!? ネバネバが、ネバネバが…! た、タスケテー!! 」
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