第12話 肉まんとあんまん、塩味と甘味は無限ループを引き起こすから危険だってあれほど…
「えへへ、いい香り…です。 キノコ、たくさん取れました、ね」
「だな! ネルミのおかげで、納品の期日より随分早く終わぜ。 ありがとな」
「えっ、あっ…ど、どーも…です。 そ、それにしても…。 マーカス、さんに頼まれた…ゴーレムもどき、さん。 今回の探索では見つからなかったです…ね」
「そうだな…。 だがまあ、紛失した正確な位置も分からないし。 俺達の探しモノはゴーレムのように自分で動き回れる可能性が高いときた。 根気よく探してくしかなさそうだぜ」
「です…よね。 コツコツ、です」
鑑定のため、マーカスのおっさんの店を訪れたあの日から二日後。
おっさんから俺達のもとに追加の資料として、探しモノの依頼主がゴーレムもどきの姿を思い出しながら描いたという絵のメモ書きが送られてきたのだ。
その姿は、東方の国でよく食べられている饅頭のような形の頭部に猫のような耳が生えており。
体はずんぐりとしていて丸っこく、手足も同様に丸っこい。
全長はリトルアカデミーに入学したてくらいの子供程度で、メモに記載された情報によると言葉も話せるらしい。
(言葉も話せるってなると、誰かしらから情報を得られる可能性が高いんだよな…)
メモ用紙に描かれていたゴーレムもどきの姿は、愛玩用につくられたゴーレムにも似たようなタイプがいるため特別物珍しい感じではないが。
会話ができるゴーレムとなるとそうそういない為、もしもダンガロール山脈で俺達が探しているゴーレムもどきと遭遇している人がいればどこかしらで話題に上がる可能性は高い。
(山脈内の宿泊地を行き来している商人とかなら…もしかすると。 何かしら知っているかもしれないな…)
「ネルミ。 宿泊地に戻ったら少し聞き込みでもしてみないか」
「聞き込み…です…? 」
◇◆◇
「っと、アタシが知ってるのはこれくらいだけど…どう? 少しは役に立てそう? 」
「ああ、助かったぜ。 お礼といっちゃなんだが、今日はいつもより少し多めに買い物させてもらおうかなっと」
「おっ! 本当かい。 悪いね、お兄さん」
採取したカレハノモドキダケを一度、宿泊地にあるギルド管轄の簡易納品所に預けておく片手間で。
同じ宿泊地に滞在している商人達から、ゴーレムもどきについてなにか知っている事はないか俺とネルミは聞いて回っていた。
「それじゃあ、この乾燥肉を五袋と…そうだな、よし。 奮発して、乾燥薬草の詰め合わせも二袋買っちゃうぜ! 」
「毎度ありっ! 沢山買ってくれてありがとね。 また何かあった時はアタシも力にならせてもらうわ、なんてね」
「ハハ、そいつは心強いぜ。 じゃあ、またな」
情報を聞かせてもらう代わりとして今の商人の前にももう何件か、常時よりも多めに買い物してきたので俺のカワイイカワイイお財布ちゃんはダイエットしてさらに可愛くなってしまったのだが…。
冒険者には欠かせないアイテムの仕入れから情報の提供まで、何かと関わりが深い商人の人達とは良好な関係を築いておいてまず間違いはない。
俺達は職業柄、魔物の居場所や特定の植物・鉱石の採取場所など何かと情報を必要とする場面が多い。
そんな際に有力な情報源としてお世話になるのが特定の場所に店を構えず、旅をしながら品物を売りさばいている旅商人の面々だ。
彼らの中には稀に世界中を旅してまわっている者もいるが、大抵の場合は活動する地域をある程度絞りその範囲を巡回しながら生計を立てている者が多い。
つまり、同じ地域で活動していればその地域を行動範囲とする旅商人とは定期的に顔を合わせる事となるのだ。
様々な冒険者と交流する機会があり、また行動の範囲も広い旅商人達はそこらの冒険者よりも格段に多くの情報を手にしている。
そんな旅商人から有益な情報を引き出すには、こちらも誠意をもって対応していかなくてはならない。
例えば、タイミングが悪く有益な情報があまり聞けなかった場合でも話だけ聞いてそのまま買い物もせずに立ち去ってしまうのはかなり印象が悪い。
貴重な時間を割いてもらったのならその分の対価を示し、有益な情報が得られたのなら相応のお礼をする。
相手も人の子、此方が誠意をもって接していればそのぶん何かあった時は力になってあげたいという気持ちが芽生えてくるというわけだ。
「先程の商人、さん。 話すゴーレムにあったと…言ってたですね…」
「ああ。 ここにきてようやく手掛かりを得られたってわけだ。 暫くは携帯食料にも困らねーし、万々歳だぜ」
「そ、その…。 ジルさん。 やっぱり、干し肉のお金だけでも…私が払うのです…よ…? 」
「ん? あっいや、平気だって。 俺、肉好きだしさ。 これくらいの量普通にがぶがぶ食っちまうから。 どのみち掛かってた食費だと思えばそんなに痛手じゃないぜ」
「うー…。 ほ、ホント…です? 」
「ああ、マジマジ。 それより、せっかく情報が手に入ったんだ。 ゴーレムもどきが遠くに移動しちゃわないうちに、探しに行ってやろーぜ」
「は、はい…! ゴーレムもどき、さん。 捜索…再開です…! 」
小さく「えいえいおー! 」と拳を突き上げ、ゴーレムもどき捜索に気合十分な様子のネルミを見ながら俺は袋から干し肉を取り出し一齧りする。
「ん…! うまいな、コレ。 どうだ、ネルミも一つ食うか? 」
「そ、そんな。 悪いので――
「ほれ、口開けてみ? 」
「えっ…えっ、あっ…。 あのっ……あむっ」
「どうだ、結構いけるだろ? この干し肉」
「ほ、ほいひぃ…です…! 」
「ハハハ、口に合ったようでよかったぜ。 さっきはああ言ったが、まだまだ在庫はあるし。 小腹が空いた時は、遠慮なく俺にいってくれよな。 どうせ食うなら、仲間と一緒に食ったほうがうまいしさ」
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