鎧意覚醒篇 第二幕 大鎌の食物庫

第11話 探し物が忘れた頃に出てくる現象…アレの名前ってあるのだろうか

 一見すると枯れ落ちた葉のような独特な笠を持ったキノコ…カレハノモドキダケ。


 地面に生えているときは他のキノコ同様に弾力性のある肉質をしているが、収穫してしばらくするとその肉質が変化しパリパリとした焼き菓子のような食感になる。


 ほんのりと香る甘い香りと味自体にも癖がない事から、カレハノモドキダケは主にデザートなどの盛り付けに使用される。


 植物の蔦で編まれた籠を背負い、ダンガロール山脈の山道を歩く俺とネルミ。


 今日の俺達のお目当ては何を隠そう、このカレハノモドキダケだ。


 マーカスのオッサンから頼まれたモノ探しの件もあるので、ダンジョンの外での依頼もこうして引き受け捜索のついでに依頼もこなしている。


 俺達が今キノコ狩りをしている辺りにはリトルダンジョン”大鎌の食物庫”があるので、必要な分のキノコを収穫し終えたらダンガロール山脈の各所に点在する宿泊地に戻り、一度準備を整えリトルダンジョンの攻略に乗り出そうという手筈になっていた。


 ポルータの街から徒歩で向かってもそれほど時間のかからない大鼠の穴倉と違い、残る四つのリトルダンジョンは往復の距離を考えると一々ポルータの街を経由していては時間が掛かってしょうがない。


 そのため、一度ダンガロール山脈へ登ったら宿泊地を活用しながら依頼とダンジョン攻略を同時に終わらせてしまう方が効率がいいのだ。


 宿泊地には、旅の商人や街からの売り子も訪れ小さいながら売店もあるので物資の補充には困らない。


 俺やネルミのようにポルータでお世話になっている宿に毎月部屋代を払っているものからすると、山での宿泊は少し勿体ない気もするが。


 そもそも遠征の機会が多い俺達冒険者には最初から部屋代に割引が掛かっているので、実際のところ外泊が続いてもそこまで痛手ではない。






 ◇◆◇






「あっ。 ありました…カレハノモドキダケ。 一本見つかったので、この辺りにまだまだありそう…です」


「お、ホントか…! どれどれ…」


 キノコ狩りを開始してからまだそれほど時間は経っていないのだが。


 地面の落ち葉と同化しているキノコを目ざとく見つけるネルミの観察眼に助けられ、既に依頼されたキノコの半分ほどの量は収穫し終えている。


 俺は前々から、ネルミは何かを発見する純粋な観察能力だけでなく第六感というのだろうか…本来なら気付かないような事を察知する能力に長けていると思っていた。


 冒険者にとっての第六感というのはとても重要な能力だと俺は思っていて。


 危険なトラップの存在や隠し通路などの仕掛けに気付け「ここには何かある」と事前に思えるだけでも格段にトラップへの対処や仕掛けの発見が楽になる、例えそれがただの勘だったとしてもその精度が高ければその人物が持つ能力として評価するに値するものだろう。


(現に、ネルミが獅子の眼に加入して以降とそれ以前ではトラップや仕掛けの回避・発見率に大きく差が出ていたしな…)


 冒険者の等級だけみればネルミはまだ中堅にも満たない水準だが俺は彼女が秘めている力、冒険者としてのポテンシャルを買っている。


 だからこそネルミに興味を持ったし、一緒にやっていきたいと思ったのだ。


(まっ、だからって。 ネルミの才能に乗っかって、おんぶにだっこでいくつもりはサラサラねーけどさ)


 自分の夢は自分で叶える。


 俺は冒険者としてこの先に、たった一度でもいい…誰かの心に残るような冒険を成し遂げて。


 そんでもって、愛すべき嫁さんと可愛い子供達に囲まれて幸せな家庭を築いてやるんだ。


 ふと、昔の記憶が脳裏を掠める。


 運命の夜。


 唯一の家族である爺ちゃんとの最後の思い出となった別れの晩。


 何時になく真剣な表情の爺ちゃんは、剣の手入れをしながらこう語ったんだ。


「ワシはな、ジル。 冒険者として歩んだこの人生で、数々のお宝を手にしてきたが…真にお宝といえるようなものは結局。 一つしか見つからなかったんじゃ」


「ジル…。 いいか、偉くなれなくてもいい。 立派な男だと、そう言われなくてもいい。 ただ、お前さんが幸せになれれば…。 それだけで、それだけでいいんじゃよ」


 俺の育ての親である爺ちゃん。


 爺ちゃんは俺をダンジョンで拾ったと昔から口にしていたが。


 今にして思えば、俺は恐らく親に捨てられた子供だったんだろう。


 だがその事実をガキの俺に伝えるのは心苦しくて、俺が両親の事を爺ちゃんに質問するたびにダンジョンで俺を見つけるまでの冒険譚を面白おかしく語ってくれた。


 身寄りのないガキだった俺を実の子のように可愛がり育ててくれた爺ちゃん。


 そんな爺ちゃんは後に”大竜の災”と呼ばれることとなる、飛竜の襲来で死んだ。


 ベテラン冒険者の一人として飛竜撃退の戦いに参加し、そして死んだ。


 騎士団として飛竜との戦いに参加していたレオの親父に後から聞いた話では、若い冒険者を庇って飛竜の前足に剣を突き立て…怒った竜の爪に切り裂かれて死んだんだとか。


 他人からすれば爺ちゃんは戦死した冒険者の中の一人であり、それ以下でもそれ以上でもない。


 でも、俺からしたら爺ちゃんは親であり偉大な冒険者で…若き冒険者の命を救った英雄だ。


 紅蓮の飛竜バルフレギア。


 それが、七年前ポルータを襲った邪竜であり爺ちゃんの仇の名だ。


 バルフレギア、奴は大きな傷を負いダンガロール山脈を越えポルータの街から逃げ去った。


 復讐に囚われてはいけない。


 無謀な挑戦はしないと決めた。


 俺の幸せを願ってくれた爺ちゃんを悲しませるような馬鹿な事はしたくない。


 だからこそ、俺は力を望む。


 復讐の為ではなく、爺ちゃんのように大切なお宝ヒトを。


 幸せな時を、大切な場所を。


 この手で、護り抜けるように。

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