第10.5話 幕間 ネルミ

「あの子。 獣人族なのに、なんか暗いよね」


 快活、元気、人当たりがイイ。


 そんな獣人族のイメージからかけ離れた異端児。


 それがネルミ


 人を前にすると、どうしても緊張しちゃって。


 小さい頃から人とお喋りするのが苦手。


 女手一つで私を育ててくれたお母さんは、いつも一人で本ばかり読んでいる私に「何時かあなたにも、良き理解者が現れるわ。 きっとよ」って言ってくれた。


 結局、卒業するまで誰一人として親しいと呼べるような相手を見つけられなかったリトルアカデミーを出た私はそのまま進学を選ばずに冒険者になる事を決めたんだ。


 学院に進学して色々な事を学ぶのも楽しそうだったけど、引っ込み思案な私には学校での集団生活は少し息苦しかった。


 それに、冒険者になって早くからお金を稼げるようになればお母さんの事も支えてあげられる。


 私は決して出来のいい子供じゃなかったし、お父さんがいないぶんお母さんにはたくさん苦労も掛けたと思う。


 だから、お母さんには幸せな老後を過ごしてもらいたい…そのために私は早く自立しないとって。


 そう意気込んで、私は冒険者になってみたけど。


 獣人族なのに、女神像が私に授けた職能石ジョブストーンは何故か後衛職のライト・ホーリーで。


 私の性格もあるし、どこのパーティーにも入れてもらえそうにないって私は最初から諦めていた。


 ソロの冒険者として活動を始めた私はある日。


 一人でちまちまと薬草を採取していると、不思議な光がフワフワと私の周りを飛んでいるのに気づいたの。


 これがライリーちゃんとの出会い。


 ライリーちゃんは私に出来たはじめてのお友だちで、ライリーちゃんと一緒にいるようになってから冒険者としてのお仕事も前よりずっと楽しくなったんだ…。


 ライリーちゃん。


 この子との出会いだけでも女神様には感謝してるのに、それから暫くして私はもう一度運命の出会いを経験することになるの…。


 それがジルさんとの出会い。


 ただ人より敏感で、少しの事が気になる私を「色んな事にすぐ気づけるってのも才能だぜ」って褒めてくれて。


 褒めながら頭をくしゃくしゃって撫でた後、ジルさんはやってしまった…て顔ですぐに撫でるのをやめちゃったけど…私はなんだか心がポカポカして…とっても嬉しかったんだ…。


 ジルさんは私がどんくさいからなのか、自分のパーティーに誘ってくれた後もいっぱい面倒をみてくれて…気にかけてくれて…。


 でも、それがパーティーのリーダー。


 レオ・ライオネスって人にとっては気に食わなかったみたい。


 どうしてかライオネスさんは不思議な術を使ってずっと男装をしていたけど…”人より気付きやすい”私の前ではごまかせなかった。


 ライオネスさん、彼女は私がパーティーに参加してからずっと私の事を敵視していて…。


 最初はどうしてか分からなかったけど、彼女はそう。


 ジルさんが私の相手をしてる時、必ずイライラしてるって気付いたの。


 ライオネスさんはまるでジルさんの事を自分の所有物みたいに思っているのか、ジルさんが他の誰かを優先してたりすると無理矢理にでもその相手からジルさんを引き離してわがままな要望をジルさんに押し付けていた。


(ジルさんがかわいそう…)


 何時からか、私の中にそんな気持ちが生まれていた。






 ◇◆◇






「もうお前クビね、明日から来なくていいから」


 心に穴が開くってこういう時をいうのかな。


 私はパーティーをクビになったことより。


 もうジルさんと一緒に居れないんだって。


 もう毎日会って、ちょっとだけでもお話出来ないんだって。


 それがすごく悲しくて…。


 悲しくて…悲しくて、頭の中が真っ白になっちゃったの。


 クビを告げられた後、どうやって宿に帰ったのかも分からなくて。


 呆然としたまま次の日の朝を迎えて。


 働く気力も無くなっちゃってたけど…お母さんに心配はかけたくないなって、そう思って冒険者ギルドに向かったの。


 前のパーティーメンバー。


 特に、ジルさんには会いたくなくて…。


 ジルさんに会っちゃったら、私、もうクビになったのに未練がましくジルさんにつきまとっちゃいそうで…そんな変な子にはなりたくなくて…。


 朝早く。


 一番乗りでギルドに飛び込んで、何か一人でも出来そうなお仕事が残って無いかなって探していたの。


 そしたらね。


 聞こえたんだ。


「ネルミ」


 って、私を呼ぶ彼の声が。


 やっぱり運命だったんだよ。


 私はそう思った。


 ソロの冒険者だった私をみつけてくれて、最初にこの手を取ってくれたジルさん。


 そして。


 前のパーティーを抜けてまで、私のもとに来てくれたジルさん。


 昨日クビを告げられた時、色を失った私の世界に。


「もともと、俺が一目惚れして――


 どんどん色がついていくのを感じたの。


「まっ、急に言われても困るよな」


 だから私、決めたんだ。


「俺は何時でも待ってるから、気が向いたら――


「よ、よろ…。 よろじくお願いじます!!!!! 」


 もう一度差し伸べられた彼の手を、もう絶対に離さないって。

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