第10話 ボタンも頬っぺも押すなって言われると押したくなる

 俺達が活動の拠点としているポルータの街。


 その南方に聳えるのがダンガロール山脈だ。


 ダンガロール山脈には昨日俺達が攻略した大鼠の穴倉を含め合計五つのリトルダンジョンの存在が確認されている。


 ダンジョン攻略には、通常の攻略報酬とは別に地域制覇ボーナスと呼ばれるギルドからの特別報酬が存在し。


 ダンジョンのカテゴリーごとに定められている期間内に、特定の地域にある全ての同カテゴリーのダンジョンを攻略したパーティーにはそれなりの金銭と冒険者の等級、その評価に影響してくるランクポイントが与えられる。


 ダンガロール山脈に点在する最小迷宮、リトルダンジョンの場合は五か所を一か月以内に全て攻略すればこの地域ボーナスが受け取れるのだ。


 地域ボーナスの獲得は資金の確保のみならず俺達のパーティー”不死鳥の双翼”の評価・評判にも繋がってくるので無茶なスケジュールでの攻略はしないが、出来る事なら狙って獲得していきたい。


 リトルダンジョン自体の攻略には一日も掛からないとはいえ、ダンジョンが存在する場所との距離がある以上計画的に攻略の予定を組まねば今月の地域ボーナス獲得は難しいだろう。


(それに、ダンジョン攻略ばかりしてると懐事情にも響いてくるしな…)


 冒険者の仕事は大きく分けて三種類ある。


 まず一つ目はポルータの街やその近辺から送られてくる一般の人々からの依頼を解決する事。


 ぶっちゃけお金を稼ぐならこれが一番効率が良く、ギルドが回収していく仲介料を差し引いた金額が依頼書に提示されているため、依頼を完了すれば依頼書に提示されていた金額がまるまる懐に入ってくる。


 次にダンジョンの攻略。


 これは通常なら依頼者は存在せず、ギルドから支払われるダンジョン攻略への軍資金的な意味合いの報酬とダンジョン内で獲得したアイテムを売却した額が俺達の収入となる。


 ギルドから支払われる報酬は、ダンジョンのカテゴリーにもよるが必要な消耗品などを買ったらすぐに無くなってしまう程度の金額なので実質ダンジョン内でいかに金目のアイテムをゲット出来るかによって稼ぎが大きく変動するギャンブル的な部分が大きい。


 最後に、冒険者が冒険者たる所以の未踏の領域や未発見ダンジョンの攻略・開拓。


 これに関してはただその場所を発見しただけでも莫大な報酬が約束されており、冒険者達はこういった”未知”を求めいつかは一山当ててやろうと夢見ているのだ。


 だが、現実的に考えると冒険者が冒険する…未知に挑むのであれば、まずはそれなりの人数の仲間を揃えなくてはならない。


 これはただ頭数を揃えればいいというのではなく、情報の無い魔物と会敵しても対処出来る実力や終わりの見えない攻略に挑める精神力、肉体的にも資金的も十二分な体力の高さが求められるのだ。


(今の段階だと、冒険するどころか大規模なダンジョンも攻略出来ないし。 時期を見計らってパーティーの仲間もぼちぼち増やしていかないとな…)


 ネルミと俺…それにライリー。


 この二人ないし三人態勢では、リトルダンジョンより格上の場所を攻略するのはまだ厳しいだろう。


「俺達のパーティーが地域ボーナスを獲得したとなれば、不死鳥の双翼への参加希望者も出てくるかもしれないし。 人数が増えれば、行ける場所もやれる依頼も増える。 まさに、いい事ずくめだな! 」


「えっ…」


(…あ、あれ? )


 突然、ピシリと硬直したネルミの様子に気付き「何か気になるところでも…あったか? 」と声をかけてみる。


「あっ…いえ、違うです。 ただ、私、その。 人見知りなので…。 今のまま、ジルさんと二人でもいいかなって…ちょっと思っただけ、です」


「あーなんだ、そういうことか! 大丈夫、ネルミが最初緊張しちゃっても俺が間を取り持つからさ。 それに、パーティーに新しい仲間を迎える時はネルミにも相談するし二人で一緒にちゃんと考えようぜ」


「二人で一緒…。 は、はい…! それなら、安心です…! 」


「よかった。 あっ、そうだ。 ちゃんとライリーにも意見を聞かなくちゃな。 やっぱ三人だ、三人」


「むー…。 そ、そうですよ。 ライリーちゃんを入れて三人です…」


「ごめんごめん、そうむくれるなって。 不死鳥の双翼は三人態勢だもんな、なんかあった時は三人で話し合おうぜ」


「む、むくれてないです…。 元からこういう顔なの…です」


「ハハ、そうだっけか? なら、リスみたいで可愛いな」


「か、かわっ…!? 」


 赤くなった顔を両手で覆ったネルミがトイレに逃げ込み、その後しばらくたっても出てくる気配が無かったので俺は喫茶店のマスターであるバル爺にゴズ豆茶のおかわりを頼む。


 ライリーが入ったリュックと共にネルミの帰りを待ちながら、「少しからかい過ぎたか…」と反省するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る